2023.11.20
ケーキの王様!苺のショートケーキは、ボックサンの魂。

つくるのも好き。食べるのも好き!
「ショートケーキがケーキの王様やと思ってるんです。なぜかというと、日本中どこの店にもあるけど、ヨーロッパにもアメリカにもない、これは日本のお菓子なんです。生クリームとスポンジ、いちご。その3つのバランスで仕上げる苺のショートケーキが、ぼくは一番好きですね」

ボックサンの2代目当主でシェフパティシエ・福原敏晃さんが、自ら偏愛するショートケーキをつくりながら、熱い思いを聞かせてくださいました。
「ボックサンといえばこだわりロールケーキじゃないの?という方もたくさんいらっしゃるんですが、ぼくにとっての原点で、今も変わらずずっと好きなのはショートケーキなんです」

20代でお菓子づくりの道に入り、ほぼ半世紀。古希を目前にしても、まだまだ向学のための食べ歩きを欠かさない福原さんは根っからのケーキ好き。「ショートケーキを食べたらその店がわかる」といいます。
「父親に言われたのは、できるだけていねいに正確にお菓子をつくりなさい、ということ。やらされてるんじゃなくて心を込めてつくりなさい、と。機械的にやってもキレイにはできない。キレイにつくろうと思わないとつくれない。そういう気持ちがお菓子に現れるんです」


同じボウルの中で立てた生クリームさえ、工程によってかたさを厳密に調整しながら使っていきます。スポンジにサンドするときにはしっかりめ、表面に塗るときはそれよりも少し柔らかめ、そしてデコレーションを絞るときはさらに微調整を。
「お菓子づくりの現場には、製菓学校では教わらないような、小さな小さなチェックリストはたくさんあるんです」。
福原さんはそれらを日々忠実に守り、大切に次世代へ伝え続けているのです。

ザッハトルテに学んだこと
40代半ばでオーストリアを訪れた際、マイスターから直伝でザッハトルテのつくり方を教わったという福原さん。
「ご存知の通り、オーストリア・ウィーン発祥のチョコレートケーキです。ザッハトルテにはルールがあって、必ずチョコレート、あんずジャムを使い、グラズール(糖衣)という手法を使うんですね。ずっと変わらない伝統的なルールに則って、ザッハトルテと呼ばれるお菓子ができることを学んだんです。でも、よく考えてみれば、それはうちと同じなんです」

古き良きものをずっと変わらずに、変えずに、つくり続ける技術。その難しさとありがたさに改めて気付かされたというのです。でもここだけの話、新婚旅行でかのホテル・ザッハーに宿泊して食べたザッハトルテは、おいしいとは感じられなかったという苦い思い出もあるのだそう。
「それが、20年経って同じケーキを食べて、これはうまい!と思えた。なぜかというと、自分の技術が高まって、20年の経験を積んで、いつの時代もなんら変わらないザッハトルテというものに感動したんです。ケーキは変わらないけど、自分が変わっていた、ということです」

現在は息子で3代目の啓祐さんも製造に入っている。ボックサンのショートケーキも、ザッハトルテのように変わらず受け継いでいることが誇り。「ぼくが退いた後は分からんけどね」と福原さんは軽口を飛ばすが、他のケーキではどんどん新作を出して時代に応じた挑戦をしつつも「不動のショートケーキ、というのは残しておく」というスピリットはきっと3代目にも継承されるのだろう。
「年間通して一番売れている、つまりお客さんから支持をいただいているというのが答えです。今も昔も、ショートケーキがボックサンのナンバーワンなんです」

甘みは旨味。ケーキづくりは素材から
シンプル・イズ・ベスト。だからショートケーキが好きなんだ、と福原さんは何度もいいます。逆にいえば、シンプルだからこそ、もっとも難しい。

「ごまかしが効かない。いいスポンジに、いい生クリーム、いちごは旬以外でもその季節に一番いいと思うものを吟味して使う。これは一粒50円。クリスマスともなると、もっと高くなる。それでもおいしいと思うから使うんです」
そのいちごを、計算し尽くした絶妙のバランスでちょこんとクリームに乗せる。いちごを支えるのは、それだけ食べてもおいしいというくらい自信のあるスポンジに、国産の純生クリーム。原価が上がり続けている近年も、ここは譲れない。

「実は30年くらい前、ツマガリのオーナーシェフ・津曲孝さんにうちのケーキを全部食べてもらったことがあるんです。美味しいなぁって食べてくれたんだけど、ただひとつ、生クリームが悪いな、と指摘を受けたんです。確かにその通り、父親の代から使っていたのは、植物性油脂や安定剤が入ってるメーカーのものだったんです。その一言で、すぐに良質な国産純生クリームに変えました」
脂肪分40%の国産純生クリームに、砂糖は6.5%の割合で。甘さ控えめで軽やか~と謳いがちな風潮にはなびかず、先代で父親の福原善之助さんの「甘みは旨味」という教えを真摯に守ってやってきました。

「ぼくの修業時代だと、生クリームに対して12%の砂糖が入ってましたよ。今のほぼ倍ですね。ずっとバタークリームが当たり前の時代に生クリームが出てきて、『こんなにおいしいものはない!』とみんなが衝撃を受けた時代でしたからね」
変えないために変えること。変わらず続けることの難しさ。変わらないことへの信頼と安心。「シンプル・イズ・ベスト」で「ずっと変わらない」ショートケーキに、ボックサンの59年、親から子へと受け継がれる魂が宿っているのです。
【神戸スイーツ ノオト/神戸洋藝菓子ボックサン】 ボックサンのルーツは、1964(昭和39)年10月に神戸市東須磨区に開設した「ボック」。初代・福原善之助は、15歳の時に大阪の丸善ベーカリー、大阪ガスビルの洋菓子部などで修業ののち、軍隊召集。復員ののち、カステラの長崎屋を紹介いただき鳴尾工場で工場長として11年間勤めた経験を活かして独立、42歳で「ボック」を創業した。社名は、ビールジョッキを意味するドイツ語「ボック」から。愛称の「ボックさん」がそのまま店名「ボックサン」になった。創業地である東須磨本店、阪神淡路大震災の直後に誕生した三ノ宮店の他にも、神戸市内を中心とした兵庫県内に7店舗展開。ロールケーキ専門店「みかげ山手ロール」も、ボックサンがプロデュースするスイーツショップです。
※所属部門/役割は取材時のものです。
Photo:坂下 丈太郎
Text:高橋 マキ

〈神戸洋藝菓子ボックサン〉
苺のショートケーキ 税込520円
大丸神戸店 地1階 洋菓子売場
大丸松坂屋オンラインストアでもお買い求めいただけます。
※苺のショートケーキは店頭での販売のみ、オンラインストアでのお取り扱いはございません。
あしからずご了承くださいませ。