2023.06.20

96年のロングセラー。娘が誕生日にリクエストするのは「ケーキより、神戸凮月堂のゴーフル」。

神戸凮月堂

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96年のロングセラー。娘が誕生日にリクエストするのは「ケーキより、神戸月堂のゴーフル」

誕生日にはゴーフルがいい

「僕が入社したのは、阪神タイガースが日本シリーズで優勝した翌年だったんですよ。それで、入社した時に、ミニゴーフルのタイガース缶が毎日飛ぶように売れていたのが今でも印象に残っています」

懐かしい話を聞かせてくださった、神戸凮月堂の西村潤司さん
懐かしい話を聞かせてくださった、神戸凮月堂の西村潤司さん(本店製菓)

バース、掛布、岡田が大活躍、阪神タイガースが悲願の日本一を叶え、日本中がフィーバーしたのは1985年のこと。その翌年に入社したのが本店製菓の西村潤司さん。野球少年でしたが、高校を卒業後、プロになる夢を断念して株式会社神戸凮月堂に入社しました。

手土産にも喜ばれる小さいサイズのミニゴーフル。タイガース缶は、根強いファンをもつ人気の商品
手土産にも喜ばれる小さいサイズのミニゴーフル。タイガース缶は、根強いファンをもつ人気の商品

「今ではちょっと想像できないかもしれませんけど。店頭の商品があまりにすぐ売り切れるから、1日のうちに2便目、3便目の商品が届けられるという状況で、お客さんがその到着を今か今かと待ってはりましたね」

お菓子のことは右も左もわからないし、人と会話するのも苦手だったため「黙々とできるお菓子作りがいい」と製菓部門を希望した西村青年。それから38年、おもに製造まわりではたらいてきました。

神戸凮月堂 神戸凮月堂

「だから、生ケーキもつくれるんですよ。それで、娘の誕生日に僕がつくったケーキを食べさせてやりたいなあと思って、持って帰ったことがあるんです。そうしたら娘が『ゴーフルのほうがうれしい』っていうんですよ。ちょっと拍子抜けしながらも(笑)、娘がそこまでいうならと改めて一緒に食べたゴーフルは、ほんまにおいしかったですね」

西村親子のゴーフル愛は、今も不動のナンバーワンです。

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焼いて、挟む、が得意技?

フランス菓子のゴーフルとは、専用の型でつくる凸凹入りのお菓子のこと。英語ではワッフルと呼ばれます。神戸凮月堂のゴーフルは、薄焼きせんべいにクリームを挟んだ焼き菓子で「元々は、それまで日本にあった、瓦せんべいのような手焼きの手法を取り入れたのだろう」と西村さんは推測します。

神戸凮月堂

凮月堂は江戸時代に創業し、そこからのれん分けとなり、現在もいくつかの凮月堂がお菓子を販売されています。

「うちのゴーフルがわかるかなって、開発と製造のメンバーで食べ比べしたことがあるんですよ。わかるんですよ。せんべいがね、違うんです。材料や甘さなんかはどこも変わらないと思うし、おいしさも拮抗してるんですけど、やっぱり焼き方なんでしょうか。食感がね、違うんです」

ごくごく薄く焼き上げられているのに、ちゃんとパリッとしているせんべいの繊細さは、凮月堂のゴーフルの肝。洋菓子の本場、欧米の人たちにも「おいしい!」と喜ばれるのだそうです。

薄焼きせんべいの表面には凸凹がなくすべらかで、「GAUFRE」の文字が押されている
薄焼きせんべいの表面には凸凹がなくすべらかで、「GAUFRE」の文字が押されている

「入社当初、課長に『どうして、ゴーフルに生クリームをサンドしないのか、わかるか?』と問われたことがあるんです。当時の僕には答えられなかったんですけど、せんべいがふにゃふにゃになってしまう、という意味やったんです」

「蓋を開けると、昔は栞と一緒にプラの小さいナイフが入ってましたよね。刃がギザギザで」と振り返る、西村さん
「蓋を開けると、昔は栞と一緒にプラの小さいナイフが入ってましたよね。刃がギザギザで」と振り返る、西村さん

そんな記憶の引き出しをアイデアソースに、店頭限定&期間限定で「クレープのように生クリームをサンドした、その場でしか食べられない特別なゴーフルをつくったこともありますよ」という西村さん。

焼いて、挟んで、おいしいお菓子。神戸凮月堂の「得意」を生かした本店限定生クリームサンドのゴーフルが、再びお目見えすることはあるのでしょうか。

生ゴーフルと位置付けられている「ゴーフニャ」は、伝統的な「挟み焼き」で、ひとつひとつ手で焼き上げる(元町本店のみの数量限定販売)。神戸凮月堂の「変わらないこと」への問いと時代への挑戦が詰まっています)
こちらは、生感覚ゴーフル「ゴーフニャ」。伝統的な「挟み焼き」で、ひとつひとつ手で焼き上げる(元町本店のみの数量限定販売)。神戸凮月堂の「変わらないこと」への問いと時代への挑戦が詰まっています

それでも、おごらず、変わらず

「ゴーフルの缶が、どこの家にもあるって。みなさんがそう言ってくださるんですけど、うちはそんなに裕福な家庭ではなかったし、子どものころは、おばあちゃんが特別な時に出してきてくれたとっておきのお菓子という記憶ですね」

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創業120年を超える神戸凮月堂は、今や神戸スイーツを代表するナショナルブランド。「決しておごらないように、自分たちではそういうことをいわないようにしています」と、西村さん。

「品質を落とさず、変わらないでいること。日々気をつけていても、昔の人と同じように守っていくのって、ほんとうに難しいんです」

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5年ほど前のこと。「あれ?僕が入社した時と、ちょっと違うんちゃうかな、と感じたお菓子があったんですよ」。

西村さん自ら工場に入って、生地の温度やバターの状態をつぶさに見直す。お菓子をつくる上で、自分が大事だと思っていることをひとつずつ点検するように見ていくうち、ふと、品質管理のスタッフが「このお菓子をつくった職人さんが鉛筆で書かれた、昔の資料がありますよ」と教えてくれたのだそう。

「5~6枚あったのかな。印刷して読み込んでみると、まさに僕がコレや!と思っていた温度や状態と、ピタッとあってるんですよ。うれしかったですね」

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それは、レシピでも仕様書でもなく、幾たびもの失敗と改善を細かに記録した、職人の手跡のようなノート。マニュアルだけでは次の世代に教えきれないようなことが、全部書いてありました。「こういうのを、全部守っていかなあきませんね」。

「今、週末に地元の大阪で少年野球を教えてるんですけどね。ゴーフルを持っていくと、子供たちは知らないんですよ。初めて食べる。だからやっぱり、驕りが出たらあかんのんちゃうかな、と思います」

ゴーフルは今年で発売96年を迎えるロングセラーです。100年のその先へ。めくるめく変化する消費の時代の中で「ずっと変わらず、そのまま」であることは、ほんとうに難しく、そしてほんとうに、愛おしい。

神戸凮月堂

【神戸スイーツ ノオト/神戸月堂】 神戸凮月堂は、明治30(1897)年12月12日に現在の神戸・元町に開店。平成29(2017)年に創業120年を迎えました。明治、大正、昭和、そして平成の各時代を越え、令和の現在まで神戸銘菓ゴーフルをはじめとする洋菓子を全国に届ける神戸ブランドです。昭和2(1927)年に発売以来、神戸凮月堂の代表菓子として多くの人たちに愛される「ゴーフル」は、今年で96年を迎えるロングセラー。100周年に向けて、ゴーフルの魅力を伝える周年企画が展開されています。

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〈神戸凮月堂〉

ゴーフル15S 税込1,620円

大丸神戸店 地1階 洋菓子売場

〈神戸凮月堂〉の商品は
大丸松坂屋オンラインストアでもお買い求めいただけます。
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