2023.10.30
昭和レトロなギフト菓子、ブーム再燃。ル・パン神戸北野の瀬戸内レモンケーキ

レモンケーキのブーム再燃?
神戸・北野の坂道の途中に現れる、モノトーンのシックなファサード。軒先のテラス席で出迎えてくださったのは、ル・パン神戸北野のエグゼクティブ・シェフ・パティシエ、大西成直さんです。

「この黄色が、とっても目をひくでしょう? 企画のスタッフたちがレモン農家さんを訪ねたときに見た青空と海のある環境があまりにもすばらしく、ぜひここで育てられたレモンを使いたいと決めたそうです。その感動と思いが、パッケージデザインにも込められているんです」


神戸らしい帆船とイカリが描かれた鮮やかなレモンイエローの丸缶は、神戸開港150年記念缶。中にはふくふくと丸いレモンケーキが6個、詰められています。
この店で9年、パティシエを務める大西さんの偏愛スイーツは、瀬戸内レモンケーキ。

「最近また、レモンケーキがちょっとしたブームのようですね」
Z世代を中心に巻き起こっている昭和レトロブームの一端。そういえば、どこか懐かしく、見た目も愛らしいこの “レモンケーキ” は、いったいどこからやってきたのでしょう。

ヨーロッパでレモンケーキといえば、レモン果汁や皮を生地に練りこんだパウンドケーキのことで、最後に砂糖がけして仕上げてあるのが特徴です。フランス菓子として「ガトー・ウィークエンド」「ウィークエンド・シトロン」と名付けられているのは、「週末に大切な人と一緒に食べたい(ケーキ)」というあたたかな意味がこめられているのかもしれません。
ところが、日本でレモンケーキといえば、レモン型の焼き型で焼き上げたものが主流。これは日本オリジナルとされていて、初めて登場したのは昭和40年代なのだとか。ユニークなのは、沖縄にも独自のレモンケーキ文化があること。ヒラミーレモン(シークワーサーの和名)が使われていて、春の清明祭(シーミー)やお正月など、こちらも家族が集まる大切な日のお供物の定番なのだとか。それぞれに、ルーツを紐解いてみるのも、ちょっとおもしろそうです。
「ガーリーに、エアリーに!」
滋賀県守山市に生まれ育った大西成直さんは、高校生のころに一世を風靡したテレビ番組『料理の鉄人』に影響を受け、料理の専門学校へ。

「でも、入ってみると、魚を捌いたり鶏を捌いたりするのが苦手で苦手で、、、」
自分は料理人に向いてないのかも、と思いかけた矢先、大阪・ホテルプラザのパティシエによる講習会で、初めて洋菓子に出会います。
「ピスタチオを使った古典的なバタークリームケーキだったと記憶しているのですが、世の中にはこんなおいしいお菓子があるんだ!と衝撃を受けました。このとき、フランス菓子を初めて食べて、お菓子っていいなぁと思ったんです」

特にアシェット・デセール(旬の素材を使い、冷たさや温かさをそのままに、できたを提供する「お皿に盛りつけたデザート」のこと)という分野に興味を抱き、就職したのは京都の名店『メゾン・ド・イッテー』。その後も、大阪の『シェ・ワダ』、南船場の『エプバンタイユ』と、90年~00年代の関西グルメブームに名を馳せたフレンチの名店を渡り歩いて腕を磨きました。
「今でもよく覚えてるのは、故・和田信平シェフに『デザートは、ガーリーに、エアリーに盛れ!』と言われていたことですね。とてもざっくりした表現ですけど、そこが和田さんらしいでしょ(笑)」

もう一個食べたくなるおいしさを目指して
かつてそんな教えがあったからなのか、「いちばん最初はどっしりとしていたレモンケーキを、よりレモンらしい爽やかさが感じられるよう、軽やかに改良していきました」という大西さん。

その肝になったのが、生地の中に混ぜ込んだレモンの皮のコンフィ(砂糖漬け)の糖度へのこだわりです。
「コンフィの糖度は通常、60~65度とかなり高めなんです。これを生地と合わせて一緒に焼くと、水分だけが蒸発するので、キャラメルみたいにネチっと歯にくっついたりするんですよね。それで、苦心して、甘すぎない、糖度50度くらいのものをつくってもらっています。これによって、レモンの酸味がぐんと生きてくるんです」

加えて、一般的にはレモン風味の糖衣掛けが多い中、上掛けをホワイトチョコレートにしているのも「ひとくちめにダイレクトにコーティングの酸味を感じるより、できるだけ生地をおいしく食べてもらいたい」から。


甘すぎず重すぎず、「もう一個食べたくなる」くらいに。「甘いというより、食べておいしい」という印象に。
マイルドな酸味とコク深い豊かな風味。ふわふわな生地に、瀬戸内レモンの皮のコンフィを贅沢に混ぜ込んだ、ル・パンオリジナルのレモンケーキの完成です。
「ぜひ、常温で食べてください。レモンの酸味、バターの香りがより伝わりやすいと思いますよ。リピーターの方は、冷蔵してちょっと冷やしたものと食べ比べてみても、お好みの発見があって楽しめるかもしれませんね」

【神戸スイーツ ノオト/ル・パン神戸北野】 「ル・パン神戸北野」は、ホテル ラ・スイート神戸ハーバーランド直営のスイーツ&ベーカリー店。ラ・スイートの朝食で提供するパンがあまりに好評で、「買って帰りたい」とのお声が多く聞かれたことで、2012年4月に、パン・スイーツ専用のキッチン&直営店が誕生しました。まだ暗いうちから神戸・北野の坂道に香ばしい匂いが漂い、追いかけるように、ふんわりとしたスイーツの焼き上がる甘い香りが辺りを満たします。瀬戸内レモンケーキは、2017年に神戸港開港150年記念缶が登場し、神戸セレクション2019に認定、ギフト大賞2021の兵庫賞を受賞。ギフトとして注目されている神戸スイーツの新星です。
※所属部門/役割は取材時のものです。
Photo:坂下 丈太郎
Text:高橋 マキ

〈ル・パン神戸北野〉
瀬戸内レモンケーキ15個入
税込4,320円
大丸神戸店 地1階 洋総菜売場〈ラスイート〉
大丸松坂屋オンラインストアでもお買い求めいただけます。