大丸心斎橋店のさまざまなニュース、トピックスを、さまざまなアプローチで取り上げていく「FEATURE」。今回は、この秋、地下食品売場に次々とオープンした注目ショップを紹介。ナビゲーターは、20年以上食に携わるプロフェッショナル、大丸心斎橋店店舗開発担当の大道智樹。出店までのエピソードや各ショップの魅力を伝えていきます。
3年前から動き出した
ニューショップの誘致計画。
2019年のグランドオープンから5年を迎え、この秋から冬にかけて新しくオープンする店も多く見られる大丸心斎橋店。地下1階と地下2階の食品売場でも、12店舗のニューフェイスがお目見えします。店舗開発担当の大道に、いつ頃から準備をしていたのか聞いてみました。
「3年ぐらい前からいろいろと企画を立てて、出店交渉などの具体的な動きは2年半ぐらい前から始めました」
大道が大丸心斎橋店にやってきたのは4年半前。それまでも他の大丸店舗で長く担当していたのは、食に関わることでした。
「もともとはインテリアや販売販促の仕事をやっていたのですが、今から20年ぐらい前に、自ら手を挙げて食品担当に変わりました。食べることが好きだったので、好きなことが仕事にできればいいなと思って。衛生管理やアレルギーのことなど大変な部分も多いのですが、この仕事は楽しいですね」
まさに天職を得たといえる大道ですが、大丸心斎橋店に店舗を誘致するにあたって基準や条件などがあるのか聞いてみました。
「大丸心斎橋店にはフィロソフィーがいくつかあるのですが、食品売場で私が重視したのはまずローカリティ。ローカルであってもきらりと光る店。それをここからグローバルに発信していきたい。有名かどうかなどは関係なく、本当にいいもの、きちんと手間かけてつくっているものを目利きで判断してご出店いただくというのが、考え方のベースとしてありますね」
まずは関西、そして地方でがんばっている店にも注目し、遠いところまで直接足を運んでは、取材をしたり話をしたりします。
「オーナーさんに会うことが多いのですが、食品ですので、つくっておられる方にお会いして、商品への思い入れだったり苦労話などを聞くと、すごくそのお店のポリシーや考え方がわかる。なるべくそれはするようにしています」
そうやって何度も出向いて話が進んでも、最後の最後に出店を断られることもあるそうです。
「いいところまで進んでいて、急にダメと言われるときが一番きついですね。最終出店まで至るのは、なかなか大変なこと。僕らだけじゃなく、設計会社、施設担当、営業担当者、それぞれの苦労や想いがあってやっと出店にこぎつけるので、新規オープンにこぎつけたときは喜びもひとしおですね」
3年間の紆余曲折を経て、2024年秋の新店導入を迎えた大道。食は時代を映すと言いますが、今回のタイミングで特に考えたことはなんだったのでしょうか?
「3つほどありまして。まず心斎橋店は、隣に心斎橋パルコさんがあることもあり、他の大丸に比べて30歳代〜40歳代の女性のお客様が増えてきています。こちらの若い層にも喜んでもらえるようなお店を選ばせていただいています」
サラダ感覚で食べられる
野菜たっぷりのお漬物。
〈まるこし〉大丸心斎橋店本館B1F
若い女性に喜んでもらえる店として大道が挙げたのが、意外にも(?)漬物のお店。9月16日(月・祝)にオープンした「まるこし」です。
「名古屋で大正3年に創業した歴史あるお漬物屋さんなんですが、全体的に薄味で野菜をたくさん摂ることができ、若い女性にもたくさん買っていただいています…よね?」
そう言って大道が親しげに声をかけたのが店長の嶽修次さん。
「漬物というと高齢者のイメージがあるかもしれませんが、サラダ感覚で召し上がっていただけますので、若い方にもよく食べていただいています。浅漬けが人気ですね」
漬物は日本人の心のふるさとで、いろんな野菜をそれぞれの季節で楽しむのも文化だと思うと言う大道。だからこそ若い層のお客様にも召し上がっていただきたいと願います。
「『まるこし』さんも、漬物という日本の良き文化を残さないといけないという想いは強いと思います。そういう文化を大事にしながら、いろんなチャレンジをされていて、このお弁当も初めてのトライということで…」
大道が指差したのは、お弁当日和。麹で漬けたサーモンと数種類の野菜の漬物、玉子そぼろが入る、「まるこし」としては初めて販売するお弁当です。
「やはり、ごはんとお漬物の相性はすごくいいので、出店記念の新商品としてご提案しました。最初に酢飯でつくったんですけど、試食を重ねていくうちに、酢飯とお漬物を合わせると少し辛い印象になるという意見が多くて、急遽白飯に。試行錯誤しながら短い時間の中でつくりあげました」と嶽店長。
100年以上のの歴史がありながら、常に新しいチャレンジをしているところがすごい、と「まるこし」の姿勢に感心する大道が推す商品が、ごぼうとナッツの胡麻味噌漬けです。
「これ、めちゃくちゃおいしいんですよ。漬物コンテストで「T1グランプリ」というのがあって、2012年に優勝しました」
お漬物といえば塩分が気になる人もいるかもしれませんが、「こちらは、塩分を大幅にカットしてますが、出汁がおいしいからおいしく漬かるんでしょうね。羅臼昆布を使ってるそうです」と大道が勧めたのが、塩分25%OFF※羅臼昆布白菜。※まるこし羅臼昆布白菜対比
「厳しい審査をくぐり抜けて販売しています。これから冬になってくると白菜の甘みが増して、よりおいしくなります」と嶽店長。
日本人にとっては、いただくとどこかホッとできるお漬物ですが、次に訪れたのは、やはりニッポンのやすらぎ文化である日本茶のお店です。
試飲やイベントなどで
日本茶の魅力と文化を伝える。
〈福寿園〉大丸心斎橋店本館B1F
「今回、店舗誘致をするにあたって考えた2つめのキーワードは“体験”です。百貨店なので、単にものを売るということだけではなく、体験価値を楽しめるような店。商品だけでなくて文化を伝えている、そういうフィロソフィーがある店舗に入っていただきました」
大道が語る体験価値を実感できるのが、10月11日(金)に拡張リニューアルオープンした「福寿園」。寛政2年(1790年)創業の京都発の老舗茶舗です。
「ここでは、カウンターで日本茶の試飲ができたり、親子連れの体験イベントも開催しています。急須でいれた日本茶っておいしいということをここで体験してもらいたい」
大道の言葉通り、店内に置いてあるお茶はすべて、店内に設置されたカウンター席で試飲できるようになっています。
抹茶も試飲できるということで、スタッフの工村彌生さんに点てていただくことにしました。
「百貨店の中に入っている『福寿園』の店舗の中で、カウンターを設けて体験イベント等を行っているのは大丸心斎橋店だけです」と言いながら、「福寿園」勤務30年のお茶のエキスパート、工村さんが抹茶を点ててくれます。
日本の古き良き文化ということで、やはりご自身で抹茶を点てたり、玉露や煎茶をいれてみたいという外国人のお客様も多く、抹茶を試飲、体験(有料)されることもあるそうです。
「時代の流れを汲んで、今回の店舗誘致で考えた3つめのことはインバウンド。やはり外国人のお客様が増えているので、その方々にも楽しんでもらえるということ。そういう意味で、お茶というニッポンの文化を体験してもらえるようにバージョンアップした『福寿園』さんにはぜひ訪れてほしいですね」と大道。
さらに、日本茶のおいしさをより知ってもらうために、今回のリニューアルでは茶器を充実させました。
「日本人でも、本当のお茶の味を忘れている方がたくさんいらっしゃるんじゃないかと思います。ペットボトルの普及でお茶って手軽に飲めるものという印象をお持ちの方もいるかもしれませんが、やはり奥が深いもの。実際に急須でいれると、おいしく味わえると実感していただけるかと思います」と工村さん。
最後に、「福寿園」おすすめのお茶を工村さんに教えてもらいました。
「玉露の『金雲』はフランスでも日本でも賞をいただきました。京都山城の伝統技術による覆下栽培で旨みの元となるアミノ酸を含んだ茶葉を一枚一枚丁寧に手摘みした、最高品質の玉露です。煎茶『明恵』は、すっきりした口当たりですが、その奥にやはり旨みが隠されており、独特の渋みと甘みが上手に合わさったお茶になります」
「玉露を初めて飲んだときは衝撃的で、出汁を飲んでいるのかと思うぐらい旨みがありました」という大道に、「玉露は、1煎めのお湯の温度を40℃ぐらいまで下げて、その後ゆっくり温度を上げていただくと旨み成分がずっと続いて、しっかり味わってもらえると思います。5煎まで飲んでもらえますね」と工村さん。
日本茶のおいしい味わい方をていねいに教えてくれる工村さんに、「こういうふうに一生懸命ご説明いただくと、飲んでみたくなりますよね。販売員のパーソナリティにも触れていただきながら、トータルで日本のお茶の文化が伝わっていってほしいですね」と大道。オンラインでは味わえないショッピングの醍醐味を味わっていただけます。
職人技で焼くだし巻が、
早くも人気沸騰!
〈大徳寺さいき家〉大丸心斎橋店本館B1F
最後に訪れたのは、9月16日(月・祝)にオープンした「大徳寺さいき家」です。
「ここのだし巻が絶品なんですよ。普通は玉子と出汁の割合って2:1のところが多いんですが、『大徳寺さいき家』は1:1。これできれいに焼くのはもう職人技なんですが、同じフロアのバックヤードで毎日焼いてるんです」
興奮気味にこの店のだし巻のすばらしさを語る大道が、今回特別にバックヤードの調理場まで案内してくれました。
焼いているのは酒井勝右さん。大丸心斎橋店に来るまでは、全国の百貨店の催事などで、お客様を前に長年だし巻を焼いてきたスペシャリスト。5つ並んだ特製の焼き器に卵を流し込み、見事な手捌きで焼いて巻いていきます。
「出汁は鰹節をメインに4種類の節と昆布で。お出汁をたくさん入れている分、玉子の甘みが出るように調整しています。玉子1:出汁1というのは、玉子が固まるか固まらないかのギリギリの割合なんです」と酒井さん。
酒井さんの手捌きに見とれていた大道は、「これだけ出汁が入って、これだけきれいに巻けているだし巻ってないですよ。この技のおかげで、すごくなめらかで、ほどよい固さが実現するんですね。だからオープンして間もないですが、おいしいからとお客様がリピートいただいてます」。
京都の仕出し屋として大正時代から続く「大徳寺さいき家」だけに、このだし巻に合うさまざまな料理を組み合わせた多彩な弁当が用意されています。
そのひとつ、黒毛和牛だし巻弁当(1,620円)を手に取った大道は、「昨日、若い販売員の方にこれの食べ方を聞いてびっくりしたんですけど、このきれいに巻かれただし巻と牛肉をグチャグチャにして混ぜるんですって。そうするとめちゃくちゃおいしいそうです。自由にアレンジして食べるのもいいですね」
「だし巻は何にでも合いますからね。うちは仕出し屋でどんな料理でもつくれるので、どんどんメニューが増えてきています。最近は、だし巻サンドイッチなども出しています」と酒井さん。
穴子だし巻弁当、鶏だし巻弁当、季節限定の牡蠣だし巻弁当などのラインアップの中、やはり京都の食文化代表ともいえる鯖寿司と組み合わせたさば寿司だし巻弁当は人気です。
「鯖寿司も旨いんですよね。程良い脂で歯応えもいいし、厚みもいいし、バランスがいい。だし巻き卵と一緒に食べると、鯖のまろやかな酸味と玉子のふんわりとした甘みがよく合います」と大道。
今回、ニッポンの食文化を感じさせる3店を紹介しましたが、これからもさまざまなジャンルの店が順次開店していく予定です。
「順番にオープンしていくのはうれしいですね。この仕事をしていて、これまでつくりあげてきたものが形になって、店の人にも喜んでもらって、お客様が来て買ってもらえる瞬間が一番うれしいです」
今後もしばらくオープンが続く地下の食品売場。大道の喜びもまだまだ続きそうですが、「FEATURE」でも、続報をお届けしていきますのでご期待ください。
※今回掲載の内容は2024年11月22日現在の情報を掲載しています。
写真/西島渚 取材・文・編集/蔵均 WEBデザイン/唯木友裕(Thaichi) 編集・プロデュース/河邊里奈(EDIT LIFE)、松尾仁(EDIT LIFE)
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