大丸心斎橋店のさまざまなニュース、トピックスを取り上げて紹介していく「FEATURE」。今回は、本館地下1階の食品売場にこの秋オープンしたスイーツの注目店を紹介。大丸で20年以上食に携わり、店舗開発を担当する大道智樹のナビゲートで案内をしていきます。2回に分けて紹介する第1弾は、ローカリティとサステナビリティをテーマにお届けします。
新丹波の自社栗園でとれる
栗のお菓子が豊富に。
〈中島大祥堂〉大丸心斎橋店本館B1F
まず最初に案内してもらったのは、9月16日(月・祝)に場所を移動してリニューアルオープンした「中島大祥堂」。兵庫県の丹波に本店があり、丹波でとれる食の恵みを生かしたお菓子づくりをしているお店です。店長の柚木恵理子さんに、リニューアルしての変化を聞きました。
「海外からのお客様が増えました。より人が行き来する場所に変わったので、店の雰囲気としては立ち寄りやすく、買いやすい雰囲気になったと思いますよ」
柚木店長の言葉を受けて、大道は「前の店と比べると、全部の商品を一覧で見ることができるようになった気がしますね。たとえば栗の生菓子がひとつのショーケースにズラッと並んでいて、結構目に入ってインパクトがあります。バリエーションが面白いですね」
大道が言うように、「中島大祥堂」のショーケースには、バスクチーズケーキやガトーショコラなど、栗を素材とした生菓子が並んでいます。
「クリームチーズに栗を練り込んでいたり、チョコレートに栗の渋皮煮を入れ込んだりしているので、栗好きの方はもちろんなんですけど、いろんなお味をさまざまな人に楽しんでいただけます」と柚木店長。
「丹波といえばやはり丹波栗なんですけど、『中島大祥堂』さんは、自社で栗園を持ち、大事に育てていらっしゃる。それがしっかりとお菓子に表現されている。栗は独特の甘さがあって、商品につくりあげるのは難しいと思いますが、栗をよく知っているからこそなせる技。栗の生菓子だけでこんなにバリエーションをつくれるブランドは他にはないです」と大道。
丹波栗のその大きさとおいしさに関心する大道に、「そうですね。丹波栗はすごく大粒でツヤがあって、ほかの栗とは全然違うと思います。それをお菓子に使うことで、すごく風味のいいスイーツになっています」と柚木店長。
自慢の栗を使ったお菓子の中でも、看板商品となっているのが“かやぶき”。「中島大祥堂」本店の茅葺き屋根をモチーフにしたお菓子で、チョコレートコーティングした玄米パフ入りメレンゲの“土台”の上に、スポンジ、生クリームが乗せられ、“屋根”は、モンブランクリームという設計になっています。
「生クリームは甘さ控えめなので、丹波栗のモンブランの味をしっかりと感じていただけます」と言う柚木店長に、「たっぷり乗せられたモンブランクリームがふわふわで、下のメレンゲがパリッサクッの食感で、その食べ合わせがすごくよくて。『中島大祥堂』といえばこれを買いに来る人が多いですよね」と大道。
栗の生菓子の充実ぶりを堪能したあとは、焼き菓子のおすすめも店長に紹介してもらいます。
「“いもくり”という焼き菓子が一番人気でして。名前の通り、鳴門金時芋と裏漉しをした和栗を使い、香料など余分な原料は入れずに焼き上げています。丹波栗のシロップ漬けを小さく刻んで入れているので、栗の食感も楽しめます。本当にやさしいお味で、お子様からご高齢の方までお召しあがりいただけます」
店長の言葉を受けた大道は、ウンウンと頷きながら、「口の中に入れた時はねっとりしていて、最後にスーッと溶けていく感じ。栗と芋の2つの甘さが微妙に違っていて、その調和も楽しんでもらえるような絶妙なおいしさと言えるんじゃないかな」。
店長曰く、リピーターが多いそうで、ご進物として買われるお客様も多いとか。
「結婚の顔合わせのご挨拶など人生の大事なシーンでお使いいただいていて、こんなに喜ばれたのは初めてとおっしゃってくださる方もいるのは、とてもうれしいことですね」と柚木店長。
やはり丹波というご当地に自社の栗園があるので、いいものを安定的に提供できるのは「中島大祥堂」の強みだと言う大道。
「ここまで大きい栗を提供できるところはなかなかないですね。さて、次は、実は栗にゆかりのあるお菓子ブランドがもうひとつあるので、そちらをご案内しましょう」
広島の小さな工場でつくられる
クオリティの高いカヌレ。
〈立町カヌレ SHINSAIBASHI〉大丸心斎橋店本館B1F
「このお店を経営する有限会社カスターニャは広島にあって、カスターニャというのはイタリア語で“栗の実”という意味。もともと栗農家だったんですよ。その後、レストランをオープンし、そこで出していたお菓子の人気が出て洋菓子店をスタート。カヌレ専門店も始めました。僕にとっても思い入れのあるお店です」
そう大道が話す、広島に本店がある「立町カヌレ」は、9月16日(月・祝)に大丸心斎橋店にオープンしました。今回、対応していただいたのは、店長の多鹿智子さん。
「立町というのは広島市の地名で、広島駅から市電で7つ目に立町駅があり、そこに本店があります。原爆ドームの近くですね。関西では、大丸心斎橋店が2店舗目になります」
この広島の店が、大道にとって思い入れがあるというのは、どのような理由からなのでしょうか?
「本社があるのが、広島駅からバスで40分ぐらい行った場所。工場もそこにあって、そこでカヌレがつくられているんですね。僕は実際に訪れて、女性の工場長とそのほか数人で全部手づくりされているのを見て、話をしました。東京など大都会はいろんな情報が集まるじゃないですか。集まるといろんなものもつくりやすいし、流行りにも対応できる。でも広島の郊外で、少人数でやられてるのに、こんなにクオリティが高いお菓子をつくるのはすごいなあと思っていて…」
店舗の誘致をするのに、必ず現場まで足を運んで、生産者と会ったうえで話を進めるという大道。広島の小さな工場にとても感銘を受けたようです。
「カヌレって外側はカリっ、中側はしっとりしているのですが、焼くときには技術が必要で、つくるのがすごく難しいんです…よね店長?」
大道の問いかけに、多鹿店長は、「手間がかかるので、大変なところはありますね」
定番の味は、プレーン、ショコラ、抹茶、キャラメル、シトロン、ブルーベリー、アーモンド、カヌレの8種類。中でも大道の推しはシトロンです。
「広島ということなので、やっぱり広島をアピールしてほしいと思っていて、しっかり広島産レモンを使ったシトロンもあるのはいいなあと思っています」
そして、「立町カヌレ」の味以外の魅力を、大道は店舗スタッフとのやり取りから発見したようです。
「先日、販売員の方に聞いたのですが、誰かに花束を渡すときに、きれいなお花を選ぶじゃないですか。カヌレも、花束みたいな感覚でギフトボックスに選んで入れて贈るとすごく喜んでくれると言ってました。いろんな種類があるので、ステキな発想だなと思いましたね」
カヌレ以外にもひそかに人気なのが、凍らせ焼きプリンの“カタラーナ”です。
「これがまたおいしくてね。以前、JALの国際線の機内食に選ばれていたほどで、冷凍されていて溶けた具合によって味が変化していく」という大道に、「食感が変わってきます。一番最初は少しかたく、冷凍庫から出して5分ぐらい経ってから召しあがっていただくと、食感の変化を楽しんでもらえます」と多鹿店長。
広島発のおいしいスイーツを、大阪の大丸心斎橋店でぜひお召しあがりを。
酒粕やホエイなどを
有効活用したお菓子づくり。
〈GOOD NEWS OSAKA〉大丸心斎橋店本館B1F
最後に訪れたのが、9月28日(土)にオープンした「GOOD NEWS OSAKA大丸心斎橋店」です。こちらは、栃木の那須を拠点に、“食”をテーマに、社会(地域)課題をデザインによって解決することを目的とした株式会社GOODNEWSがプロデュースしています。
「すべての商品が“もったいない”を切り口にしていて、本来ならば活用されない事が多かったり、安価で取引されてしまうものを再生させてお菓子にしているのが特徴ですね」
今回の出店にあたり、GOOD NEWSのオーナーと話をする中で、大道は持続可能な商品づくりやまちづくりへの姿勢に共感しました。
「出店していただいた店の中には、流行って一時期行列ができるけど、数年後には寂しく退店といったケースもあります。そうじゃなくて、店の考えや活動に共感してもらって愛され続けるお店にしたいとオーナーがおっしゃっていたので、いいなあと思って。今はお若い方のSDGsへの意識が高いので、そういうところをわかって買っていただきたい。ただそれだけでなく、ご覧のようにセンスがよくて、かわいらしい店舗づくりをしているのもすばらしい。このイラストも大丸心斎橋店用に描いていただいたんですよ」
そう言って大道が指差したのが、レモンのフォルムが描かれたイラストです。
「“早苗饗(さなぶり)レモン”ができるまでをイメージしてイラストを描いてもらいました。田植えを終えたときに田んぼの神様に感謝を告げる宴をすることが早苗饗と言います。ここで仲間と宴をするときに、話の種になるようなものをとレモンケーキ“早苗饗レモン”ができました。おいしかったなで終わりではなくて、そこから何か想いを伝えたり、会話になるような機会を持ってもらえれば」と店長の毛利久瑠美さん。
この“早苗饗レモン”、秋田の酒蔵で日本酒をつくるときにできる酒粕を使ったケーキです。
「国税庁の発表では、日本では1年間で約32,000トンの酒粕が生成されているんですが、そのうちの1キロでもどうにかレスキューできないか、環境に貢献できないかということで生まれたのがこのレモンケーキです」と毛利店長。
「パッケージデザインもステキですよね。あとは、何をおいてもここのお菓子、おいしいんですよ。すごく食感にこだわってますよね?」と質問する大道に、毛利店長は、「そうなんです。このレモンケーキも、アイシングのしゃりっと生地のふわっが合わさった新食感になっています。酒粕とハチミツがアイシングに入っていてコーティングされていますね」
さらに毛利店長は、「和食の料理でもスダチなどの柑橘系が使われていますけど、みなさまが食べなじみのあるレモンケーキにお酒の味は合うんじゃないか、酒粕を入れることで新しい味が生まれるのでは? ということでつくられました」と酒粕とレモンのカップリングの理由について話してくれました。
「ああ、そういうことか!酒粕って結構難しいアイテムかと思ったんですけど、レモンの酸味が強くて、それがその下の生地のフワッとした甘さと合う。バターのいいところもすごく生かしているし、よく考えられてますよね」と大道。
そして、もうひとつ通常なら活用されないことが多かったり、安価で取引されてしまう原料を使ってつくられているのが“ブラウンチーズブラザー”です。
「チーズをつくるときに牛乳を煮詰めるのですが、約10%しかチーズにならなくて、残りの90%を破棄することになってしまうんですね。それがホエイ(乳清)というものなんですけど、その通常捨ててしまうものを何か使えないかと考えたのがブラウンチーズです」
このブラウンチーズをバターベースのガレットブルトンヌでサンドしたのが“ブラウンチーズブラザー”です。
「ホエイを煮詰めると茶色になって、チーズの兄弟のような存在ということで“ブラウンチーズブラザー”という商品名になっています。ブラウンチーズを真ん中に挟んだクッキーサンドのほか、中に練り込んだフィナンシェを用意しています。味はチーズというよりはキャラメルのような味。ちょっと濃厚なお味がします」と毛利店長。
持続可能な商品づくりに関心しながら、大道はさらにこう言います。
「どのスタッフに聞いても、商品に込められた想いやストーリーをちゃんと話せる。それがすごい。たぶんスタッフが商品を好きだからなんじゃないかな」
大道が熱っぽく語るのを見ながら毛利店長は、「そうなんですよ。商品に物語があるので、それを伝えたいというのがスタッフの思いとしてありますね。お客様と会話をしながら愛されるお店になっていけばいいなとみんなで話しています」
どこかで余って困っている酒粕やホエイなどを買い取り、商品まで仕上げるのはすごく大変なことだと言う大道。
「その熱量はすごい。店の動線、パッケージデザイン、スタッフの制服などもすごく考え尽くされてやってるんだなあというのを改めて感じます。ともすれば世の中で欠けがちな意識にコンタクトしていき、皆さんに知って頂く。その方法が時代に沿っていると思います。だから僕もこういうお店が長く続いてくれればなと強く思います」
次回は、スイーツの新店案内第2弾として、ライブ感のあるショップを紹介しますのでお楽しみに!
写真/西島渚 取材・文・編集/蔵均 WEBデザイン/唯木友裕(Thaichi) 編集・プロデュース/河邊里奈(EDIT LIFE)、松尾仁(EDIT LIFE)
FEATURE
FEATURE