DRAMATIC FLOWERS
季節のおもてなし
日本の四季を感じる館内のフラワーアートは、
海外からの評価も高い、
グリーンディレクター西畠靖和さんによるもの。
制作の舞台裏を探りに「花一春園」へ。
大丸心斎橋店本館グランドオープンから、はや1年が経ちました。1周年を記念して、10月31日まで、アメリカのアーティスト、ドナルド・ロバートソン氏の描きおろしアートと、大阪を拠点に活躍するグリーンディレクター、西畠靖和さんの原木アートと植栽アレンジが、館内のいたるところで展示されています。
日米2人のクリエイターが共演するのは、今年の春に「SAKURA OMOTENASHI」というテーマで、コラボレーションしたのが最初で、今回が2回目。まったく違う作風の2人が、ヴォーリズ建築を舞台に心地よく響きあいます。
ロバートソンさんとのコラボレーションについて、西畠さんに話を聞いてみました。
「すごいことをやってるなと思います。まず大丸心斎橋店の装飾担当の方がアメリカにイメージを送る。そこでロバートソンさんが自分のイメージを織り交ぜて絵を描く。その絵が日本に送られてきて、僕がその邪魔をしないように植物の造形を考える。出来上がった時に三者共に『よかった!』と言えたら最高ですよね」
今回のテーマは、原点に立ち返るという意味合いも込めて、大丸心斎橋店のシンボル「孔雀」です。アメリカと日本、それぞれの解釈により、それぞれの制作がスタートしました。ロバートソン氏は、通常はドローイングだけの作品が多いのですが、「Shinsaibash.Ism -心斎橋イズム-」のメインビジュアルは、テーマに合わせて本物の孔雀の羽を使っています。
今回のディスプレイで、ロバートソンさんと西畠さんの作品がもっともフュージョンしているのは、御堂筋側のウインドウでしょう。エントランスを挟んで北側と南側で、ロバートソン氏が描くアートがガラス面に描かれています。作品の奥には、西畠さんの植物のアートが展開します。まるで孔雀の羽のように広がるのはミツマタの木。水に浸してしならせてから、1本1本貼り付けてプレスして制作しました。
「乾燥するまで1カ月ほどかかりましたね。ロバートソンさんのアートに合う色は黒だと思ったので、墨汁を1本1本塗っていきました。墨汁だとマットな部分と光沢のあるところが両方出て、面白いんですよ」と西畠さん。
エントランスの北側のウインドウは“羽を広げている孔雀”を表現したという西畠さん。では南側は?
「“飛ぶ孔雀”です。飛んでいる孔雀ってあまり見たことないと思うんですが、めちゃくちゃカッコいいんですよ。大丸さんのシンボルなので、前からいろんな孔雀を見て調べていて、今回の南のウインドウでは“飛ぶ孔雀”を仕立ててみました。ウインドウの左側からしゃがんで見たら、踊っているように飛んでいますから」
ヴォーリズ建築が再現された本館1階では、エスカレーター横のステージで、西畠さんの原木アートが展開されています。使われている木は、「ニリ」というかつて西畠さんがインドネシアに滞在していた時に出合った原木。とても希少なもので、西畠さんも「今までこれを使った装飾はしていません。なぜならこのすばらしい木が生かされる舞台がなかったから」と語ります。
西畠さんは、昨年生まれ変わった大丸心斎橋店を見て、改めてヴォーリズ建築のすばらしさを感じたそうです。その空間にふさわしい装飾ということで、ニリを使うことを決意しました。
「ニリは、インドネシアの木ですが、すごく特別なものなんです。340年間に渡ってオランダがインドネシアを統治していた時代に伐採され尽くしたと言われていて、当時のヨーロッパでは、チークやマホガニーに並ぶ最高クラスの木材とされていました。長い年月、その貴重な木が地中に埋まっていたのを13年前に輸入していて、今回はそれを特別に展示しています。現在ではインドネシア政府も輸入を許可していないため、非常に貴重な木なんです」
ヴォーリズ建築の天井と響き合うようにマッチする古代の原木が、独特の空間を生み出しています。ニリに加えて、針葉樹の真柏(シンパク)、そしてまるで孔雀の体の色を思わせるような青いオオギバショウの実があしらわれています。この鮮やかなブルーはなんと天然の色!自然の持つ神秘性と力を感じさせます。ここに大丸心斎橋店ならではのマネキンを加えて、壮大な大作となっています。
本館2階と3階のフロアでは、生きた花材を使っています。エスカレーターを上がって本館2階に到着すると、出迎えてくれるのがハイビャクシンの植栽です。地を這うように育つ植物の特徴を生かして大胆に。ブルーのオオギバショウの実が、孔雀の顔や羽にも見えてくるようです。
本館3階では、海岸沿いの崖上などに生息するため、這うような樹形が特徴的な真柏(シンパク)が主役です。御堂筋側のエスカレーター前の真柏は、大きく枝を張り羽を広げたような躍動感があります。心斎橋筋側の黄金真柏は、上へ上へと登ろうとしているような孔雀の姿にも見えます。
本館4階から6階のエスカレーター前では、再びニリが登場! 屏風に描かれたドナルド・ロバートソン氏のアートに加えて、アクリルボックスに入った商品ともコラボレーションします。
本館4階御堂筋側のニリには、ソテツの葉がつけられていて、まるで尾のよう? このソテツは2週間ぐらいかけてあえて枯らすことで、原木アートに合わせた色合いにしています。
本館5階の心斎橋筋側エスカレーター前の原木アートは、まるで大丸ロゴのような円形。悠久の時を刻んだ古木がつくりだす造形の多彩さには、本当に驚かされます。
本館6階の心斎橋筋側エスカレーター前のディスプレイは、西畠さんが「完成されている」と、原木アートの中で唯一実や葉のアクセントを加えていないものです。右側の枝は、孔雀が頭を傾げているようにも見えますね。
また、こちらのアクリルボックスには「優越感を足し算する」というキャッチコピーとともに、132万円のブリーフバッグ(マスクをしている!)が飾られていて、高級さをより感じてもらえるようにと他の要素を排除したそうです。
各階のドナルド・ロバートソン氏の作品前には、10インチモニターで本人による制作過程の解説動画を流しています。
エスカレーター前以外でも、ところどころに植栽が飾られているので、館内を見て歩くときに探して楽しんでもらうのもいいですね。
最後に、会員制の「D’sラウンジ」に展示された西畠さんの作品も特別に紹介します。自然光が差し込む広い空間にふさわしく、あえて台からはみ出るサイズの斑入りビャクシンを配しました。見事な台も高級材のタマリンドを使った西畠さん作品です。
「今回の展示の見どころは?」という問いに、西畠さんは「見るというよりは、感じてほしい」とおっしゃいました。その人の感性や視点で、さまざまな孔雀を感じられるであろう今回のディスプレイ。10月いっぱい展示されているので、ぜひ一度触れてみてください。
インスタグラムではDrawbertsonとして知られる彼は様々な業界やメディアに作品を提供するポップアーティスト。2017年、作品集「DONALD : The Book 」を出版。ニューヨークの高級デパート「バーグドルフ・グッドマン」で発売され、多くのファンがつめかけた。また2019年3月にはニューヨークにオープンした商業施設「ハドソンヤーズ」のためにアート作品を制作。作品制作から離れた時は5歳の双子の息子にスケートボードを教える父親でもある。
1961年大阪生まれ。花木、植物、特殊花材の卸問屋「花一春園」の二代目。生け花の花材を日本中のみならず世界へと追い求め、新たな素材を探しに出かけたインドネシア・バリ島で原木を削り出してつくる作品を制作し始める。2004年アート&デザインショップ「NAKARA」をバリ島に設立。2014年より活動の拠点を日本に置き、「NOUN-N」として、木をアートにするパイオニアとして活動の場を増やす。
写真/エレファント・タカ 取材・文/蔵 均 WEBデザイン/唯木友裕(Thaichi) 制作・編集/河邊里奈(EDIT LIFE)、松尾仁(EDIT LIFE)
日本の四季を感じる館内のフラワーアートは、
海外からの評価も高い、
グリーンディレクター西畠靖和さんによるもの。
制作の舞台裏を探りに「花一春園」へ。
DRAMATIC FLOWERS Vol.3
DRAMATIC FLOWERS Vol.2