Professional's Eyes
スタイルのある暮らし
大阪の第一線で活躍する方々と一緒に、生活を豊かにする視点、もの選びのコツに迫ります。館内の注目アイテム、心斎橋のお気に入りスポットをご紹介。心地よい暮らし、大阪のシビックプライドを求めて。
ARCHIVES大阪・玉造でスタートし、クオリティの高い素材、独自のデザインによる家具で、日本だけでなく、海外にも多くのファンを持つ「TRUCK FUNITURE」。今は大阪の旭区新森にショップを構えるオーナーの黄瀬徳彦さんが好きなものとは? 大丸心斎橋店を巡ってもらいました。
※2024年2月をもって閉店いたしました。
黄瀬さんがまず訪れたのは「45R」。20年ぐらい前、まだ「45rpm」というブランド名だった頃、よく通っていたそうです。
「名前はどうして変わったんですか?」という黄瀬さんの問いに、店長の西田貴浩さんは、「以前はブランドがいくつかあったのですが、それがひとつに統合されたタイミングで、『45R』というブランド名に変わりました。『R』には、私たちがものづくりをする上で大切にしているルーツ(根っこ)という意味も込められています」。
“気持ちの良い服を長く着てほしい”という想いのもと、素材や縫製にこだわる「45R」ですが、黄瀬さんも、「素材は気になりますね。触りたくなる」と、店内に置かれるアイテムに早速触れ始めます。
「このニットの触り心地、めちゃくちゃ気持ちいいですね。ちょうどいい柔らかさ」と黄瀬さんが手に取ったのはコットン100%のグレーのタートルセーター。「うちは、綿素材の商品が多いですね」と西田さん。
続いて、黄瀬さんが興味を示したのはバンダナ。西田店長が首に巻こうとするのを制し、手慣れた手つきで自分で巻き始め、「ボーイスカウト風もありですね」とニヤリ。とてもお似合いです。
「バンダナでこんな柔らかい素材もあるんですね」と黄瀬さん。こちらも綿100%ですが、Tシャツに使われるような天竺素材。かなり肌触りが良さそうです。
それにしても、「これいい!」という黄瀬さんのモノに対する目利きの速さには驚かされます。直感力の人だなと感じさせられますが、つい最近も、好きなレザーブランドとコラボして、フォールディングチェアを製作されているというお話を聞いていると、作りたいと思ってから行動に移すまでの時間の短いこと!
行動が早いですねという言葉に、「そりゃそうですよ。もうそれだけで生きてます(笑)」と黄瀬さん。
その決断と行動の早さはもの選びにも表れていて、「45R」でも黄瀬さんは見て触って気に入ったものは次々に買っていきます。
「服もそうですけど、やっぱりモノが好きなんですよね。どこで買うとかは特に決めてないですけど……出会いですね」
ここでは綿のいい素材に巡り会えたようです。
「45R」で買い物を終え、店を出て歩き出したところ、隣にあるショップの前で黄瀬さんの足が止まりました。
「この店、かっこいいですね。色がめっちゃきれい。あの奥のグリーンのグラデーションがすごく気になります」
黄瀬さんの目を引いたのは、「ヨーガンレール+ババグーリ」に並べられた色鮮やかな洋服たち。色ごとに分けられて陳列しています。
「これは男が着たらダメですか?」と店員に聞きながらすかさず黄瀬さんが手に取ったのは、丈の長いニットのカーディガン。もちろん、女性でも男性でも着ることができるジェンダーレスのアイテムです。
「ポケットあるのがうれしいし、すごく軽い」と試着しながら着心地を確かめる黄瀬さん。素材にしても色目にしても、自分が好きなものが直感的にわかるのでしょう。それは日々の暮らしにしてもそう。以前ご自宅にうかがった時、これぞ黄瀬さんの世界だなと思わされるものばかりでした。
「好きなものを置いてるだけですよ。僕が気持ちいいようにしてるだけですから。知り合いの神戸の花屋さんに『お店や家をいつもあれだけカッコよくして、しんどくないですか?』と言われたことがあったんですが、一瞬なんのことかわからなくて。僕がそうしないと気色悪いからやってるだけで、誰かから見られるからやってるわけじゃないんですよ」と黄瀬さん。
好きなものの物差しがはっきりしている黄瀬さんが、一時好きでよく使っていたのが水牛の角を使ったアイテム。「ババグーリ」でも、水牛スプーンを定番で置いています。
「この色みが好きでね。すごくきれい。スプーンとしてだけでなく、いろいろ使えそう。どう使おう?と考えるのも楽しいですね」と黄瀬さん。
店のスタッフに渡されたカタログを見ていた黄瀬さんは、「ここ、ヨーガン・レールの店なんですね!」と。ブランドを立ち上げたドイツ人のデザイナー、ヨーガン・レールの氏のことは、雑誌などでよく見て知っていたそうです。
「ヨーガンさんの住居や暮らしなども雑誌などでよく見てたんですけど、商品を手に取るのは初めて」
素材の良さを生かすためのものづくりをしている「ヨーガンレール+ババグーリ」。良質な材料で家具作りをしている黄瀬さんにとって、これも必然的な出会いだったのかもしれません。
続いて訪れた本館8階の「日本橋木屋」でも、黄瀬さんは直感的に好きなものに引き寄せられます。このお店は、東京・日本橋で1792年に創業した老舗。包丁をはじめとする刃物を中心に暮らしの道具を取り揃えているのですが、黄瀬さんが店に着くやいなや興味を示したのは、意外にも(!?)爪切りで……。
「爪はハサミで切るのと爪切りで切るのと、どっちがいいんでしょうね?」
「爪切りは使い続けると、切れにくくなったりします?」
爪切りやハサミ、ニッパータイプなど、いろいろな爪ケアの道具が並ぶのを見ながら、矢継ぎ早にスタッフの天野花音さんに質問を繰り出す黄瀬さん。どうやら、ささくれがよくできるので、それを処理するのにいいものを探していたようです。
「ニッパータイプが一番切れ味はいいですね。ネイルサロンでも、こちらを使っていることが多く、切った時の爪の仕上がりが違います。」と天野さん。
「これいいなあ。パチンという切れ味がすごい。ささくれができた時にこれ使おうと思ったら、ちょっと嬉しいかもしれない」と黒のニッパータイプを試しに使ってみた黄瀬さんは、さらに髭切や鼻毛切りにも興味を持ったようです。
「髪の毛を5年ぐらい自分で切ってた時があって、今でも気になるところ切ったり、ヒゲを切ったりするんですけど、今使っているのが工作用ハサミみたいなので、調子が悪くて」
手に持った感覚、刃先が平らかカーブになっているのかなど、いろいろなハサミを手にしながら試している黄瀬さんに、天野さんがひとつひとつ丁寧に解説をしてくれます。
髪やヒゲを切るハサミをどれにするか決めた黄瀬さん。ケースにずらっと並ぶ包丁を見ながら、「こないだ京都で包丁を買ったばかりなんですけど、スコーンスコーンって切れるんですよ。切るときに重さでシュッと切っているような感覚。道具がいいと気持ちいいし、特に刃物は切れたら気分いいですよ」と黄瀬さん。
切れ味鋭い爪切りやハサミを購入した黄瀬さんは「結構買っちゃいましたね」。
このへんで、ちょっと休憩してお茶でも飲みましょう!
しばしの休憩は、大丸心斎橋店10階のレストラン街にある「お茶屋バー近江榮」へ。バーといっても、お酒ばかり置いているわけではなく、ここでぜひ飲んでもらいたいのが、ロイヤルブルーティーと呼ばれる高級茶です。
「手摘みの高級茶と富士山の湧き水を源水にした生水を使って丹念に淹れ、ワインボトルに詰めています。開栓後は、1週間しか日持ちしないんですよ」と店長の西谷悟志さん。
ワインボトルから注がれるということで、お茶をいただくのもワイングラスで。緑茶、ほうじ茶、烏龍茶の3種類があり、それぞれに名前がつけられていますが、烏龍茶のネーミングに黄瀬さんが反応します。
「“Fall In Love Deluxe(フォーリン・ラブ・デラックス)”って! すごい名前ですね(笑)」
「私どもも、ちょっと口に出すのは気恥ずかしいところもあるんですが…(笑)」と西谷店長。
Fall In Loveは遠慮することにし、玉露焙じ茶「KAHO 香焙」(グラス1, 430円)を選んだ黄瀬さん。
「焙じ茶は、茶師十段という世界で13人しかいない資格を持ってらっしゃる方が、焙じるところからすべて手をかけてらっしゃいます」と西谷店長。緑茶は、伊勢志摩サミットで出されたという京都宇治碾茶「The Uji」。碾茶は、すりつぶすと抹茶になる、甘みと旨み溢れるお茶です。
甘いものがお好きな黄瀬さんは、焙り最中(1,100円)も注文します。
「最中を炙るのは、食べた時に上あごにくっつくのを避けるため。それと香ばしさが出ますね」と西谷店長。
「日本橋木屋」で、ハサミや爪切りなど道具に興味を持ってらっしゃった黄瀬さんですが、家具作りのための道具はどこで手に入れられるのでしょう?
「『TRUCK』をやり始める前は、日本橋に小さい店がいっぱい集まる五階百貨店って呼ばれる一帯があるんですが、そこの『清重商店』という店で買ってました。五階建てじゃないのになぜか五階百貨店(笑)。当時僕は椅子屋で働いていたんで結構いろんな形のかんながいるんですよ。それを揃えるために買ってました」
焙られた最中が出てきました。つぶ餡派だという黄瀬さんは、北海道・十勝産のつぶ餡と栗を皮に詰めながらいただきます。
「ほんまや。上あごにくっつかない。おいしい!!」
京都の宮川町に本店がある店で、少し花街風情も味わいながら、ゆっくりお菓子とお茶をいただきました。
最後に黄瀬さんが訪れたのは「Borsalino(ボルサリーノ)」。実は、今日黄瀬さんが被っている黒のフェルトハットは、「ボルサリーノ」のもの。以前に大丸心斎橋店を訪れた時に購入したものです。
「すごく気に入っていて、最近はずっとかぶってますよ。付けている羽は、近所の公園で拾ったもの。多分、鳩の羽じゃないかと思うんですが、いろんなものをよく拾うんですよ、常に下ばっかり見てるので(笑)」と黄瀬さん。
黄瀬さんは「ボルサリーノ」のことが以前から気になっていたそうで、その理由は、「TRUCK FURNITURE」を訪れた、ある海外のお客様にまつわるエピソードからです。
「たまたま店に入ってきたニュージーランドから来たご夫婦が、すごくおしゃれな大人の2人やったんですけど、ソファを買ってくれて。ニュージーランドは行ったことがないから、ちょっと行ってみようかなと2人の家に行ったんですよ。そしたらめちゃくちゃかっこいい家で。都会から近いけど、そこだけは森みたいな場所。車は、僕と同じランドローバーのディフェンダーに乗ってるんですけど、それに乗せてもらった時に後ろのシートを見たら、いろいろなものが散らかっている中に、ボルサリーノがポンと置かれてあったんですよ。その感じがめちゃくちゃいいなと思って」
高級と言われる「ボルサリーノ」を日常的に使っているスタイルに感銘を受けた黄瀬さん。
「無造作に扱ってるけど、ええもんをちゃんと知ってるんやなと。それ以来、気になってたんですよ」
ここでもやはり素材のことは気になるようで、まず毛足の長いファーに注目します。
「すごいですよ、この触った感触。気持ちいいですね。ちょっとかぶってみます」
黄瀬さんがかぶってみたのは、セルベルトというニュージーランドの赤鹿の毛を使った帽子。鹿の胸の毛だけを使う貴重な素材です。
「ボルサリーノ」のフェルトハットは、ラビットやセルベルトの他に、ビーバーの毛を使ったものもスタンダードです。帽子好きの黄瀬さんは、アメリカ・テキサスで購入したものなど、ビーバーの素材のものもいくつか持っているようです。
「ビーバーは川辺にいる動物なので、雨の日などに多少の撥水効果を期待できます。それから、ラビットは少しシミになりやすいのですがビーバーはそんなことも少なく、お手入れしやすいですね」とスタッフの戸島久遠さん。
「ボルサリーノ」といえば、フェルトハットやパナマ帽のイメージを持っていた黄瀬さんですが、今回来店して、ベレーやニット帽があることに驚いたようです。
「学生の頃から、いろんな帽子を渡り歩いてきてるんですけど、ベレー帽にはまだ手を出してない。女性がかわいくかぶっているのを見るとええなあと思うんですけけど、まだ自分はそこにはいけない」
今回黄瀬さんと巡ってみて感じたのが、いいと思ったものを選ぶのに全く迷いがないということ。それは家具づくりにも通じるものがあるのでしょうか?
「基本、好きなものはピンポイントであるから、それを自分で作るということですよね。微妙に気にいらないディテールがあれば修正していく。そうすることで、好きと思えるものを作ってるわけです」
好きなものか、そうじゃないか。シンプルな黄瀬さんのものづくりの指針は、百貨店でのもの選びにも見事に現れていました。
家具デザイナー。1968年大阪生まれ。高校卒業後、長野県松本技術専門校木工科で家具作りを学ぶ。その後、大阪で椅子を作る木工所で働く。1991年に23歳で独立。1人で工場を持ち、オリジナル家具を作り始める。1997年に大阪・玉造にパートナーの唐津裕美さんと「TRUCK FURNITURE」をオープンする。クオリティの高さと独自のデザイン性が注目を浴び、全国、海外にも多くのファンを持つようになり、2009年に大阪・旭区新森に移転。隣には「お客様が休憩できる場所を」とカフェ「Bird」もオープン。2019年にはロサンゼルスにアトリエを開設する。
※ソーシャルディスタンスに配慮しながら、写真撮影時のみ、マスクをはずして取材を行いました。
写真/コーダマサヒロ 取材・文/蔵 均 WEBデザイン/唯木友裕(Thaichi) 制作・編集/河邊里奈(EDIT LIFE)、松尾仁(EDIT LIFE)
大阪の第一線で活躍する方々と一緒に、生活を豊かにする視点、もの選びのコツに迫ります。館内の注目アイテム、心斎橋のお気に入りスポットをご紹介。心地よい暮らし、大阪のシビックプライドを求めて。
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