Professional's Eyes
スタイルのある暮らし
大阪の第一線で活躍する方々と一緒に、生活を豊かにする視点、もの選びのコツに迫ります。館内の注目アイテム、心斎橋のお気に入りスポットをご紹介。心地よい暮らし、大阪のシビックプライドを求めて。
ARCHIVES長くたずさわった収納ツールの企画開発や販売をきっかけに、「ココロとモノの幸せな関係づくり」に取り組んできた宇野ビビディープさん。自分にとっての“好きの質感”を浮きぼりにし、暮らしに取り入れていくことが大切と考え、「質感研究室」を主宰。スタイリストならぬ「ライフテクスチャリスト」として幅広く活動する宇野ビビディープさんが、大丸心斎橋店で気になるお店を巡りました。
※2022年7月をもって閉店いたしました。
まず訪れたのは「Giemon(ギエモン)」。福岡県久留米市を拠点に、200年の歴史がある久留米かすりを扱ってきた老舗アパレルが、伝統工芸とファッションの融合を提案するブランド。大阪唯一の直営店が、ここ大丸心斎橋店です。
「母が作ってくれた着物や譲り受けた着物を、活かせぬまま眠らせておくのももったいないと思ったことから着付けも学び、着物にハマりました」と宇野さん。
今では、“活かしてイカス着物ライフを!”テーマにする「イカス*キモノ」という活動を通じて、着物を着たくてもどうすればいいかわからない人へ向け、TPOや季節に関する知識指南をしたり、コーディネート相談にのったりと、イベントを開催して着物を着る機会を作っています。そんな宇野さんにとって、久留米絣のような木綿の着物とは?
「カジュアルに楽しめる木綿着物は大好きです。着物に慣れない人にとっても、木綿の着物はファーストステップとしていいんですよね。ギエモンさんは反物として織られた伝統の綿織物をまず洋服で体験する事ができ、和の布との関係を深めていけるのが素敵だと思います」
店頭の反物を手に取り、「メーター売りされていたり、反物ごと買えたりするのも面白いですよね」と宇野さん。着物を仕立てるのはもちろん、バッグやテーブルウエア用に1メートル単位で買い求める人が多いそうです。
そして手に取ったのは、なんと新聞柄のシャツワンピース(52,800円 ※以下すべて税込価格)。コートとしても使える一枚です。
「きれいなシルエットも色も好きですね。赤や黄色のインナーを合わせたいな」と、どこかに鮮やかな色を合わせるのが宇野さん流。「ギエモン」では、伝統柄から若い機織り職人によるモダンな柄まで多彩なデザインが揃います。
さらに羽織ってみたのは画家、クロード・モネの作品をイメージし「睡蓮」と名付けられた布を惜しみなく使ったコート(121,000円)。地糸に縦糸と横糸を組み合わせて織る久留米絣は、微妙なニュアンスカラーまで表現できるのが特徴。こちらは濃いオレンジと青や茶系の糸を織っています。
「布に力がありますよね。こういう柄とデザインを組み合わせるんだ、という発見があります」
「モノを所有するとき、単に買うだけじゃなくてモノとの関係が深まったらいいなと思うんです。例えば『睡蓮』という生地の名前を知ったり、職人さんのこだわりを知ることでより一層、愛着が湧いて、モノとの関係が深まる気がします」と宇野さん。
モノが心に及ぼす質感(テクスチャー)を研究する宇野さんらしい考えがのぞきます。
「お買い物も好きな一方、古いモノを直して新たな関係性を築くことも好きなんです」と宇野さんが訪れたのは、洋服のお直し・リフォームを手がける「RINASCERE(リナシェーレ)」。
約半世紀前に大阪で生まれた老舗で、現在は全国に200店舗以上を展開。ここ大丸心斎橋店では、キャリアのある職人が約10名スタンバイ。サービス内容は、パンツやスカートの裾上げ、寸法直しといった修理から、破れ直しやかけつぎ等のリペア、着物のリメイク、バッグ・レザー製品の染め直しや修理まで、多彩な技術を誇ります。
中でも大丸心斎橋店は広々としたフィッティングスペースまで完備。時間を要する大がかりな修理は仮縫いも行なっています。一方で、パンツ丈の修理は預けてから約2時間前後という当日仕上がり、それ以外は修理内容によって1週間から2週間が基本だそう。
「空いた時間を利用して立ち寄っていただいたり、お買い物をしていただいているうちに仕上げることが可能なものもございます」とスタッフの浜本さん。
この日纏っていたお手製のニットのケープなど、編むのも縫うのも得意という手先の器用な宇野さんですが、大きな修理はプロにお願いするそう。この日も実はお気に入りのバッグを持参。合皮の持ち手が経年変化でボロボロになってしまったそうで、早速、浜本さんに見てもらいました。
「持ち手の根元の縫い目をほどいて交換可能です。なるべく質感を元の状態に合わせるのなら、このバッグでしたら柔らかい黒の牛皮に変えるといいですね」と浜本さん。
「持ち手の端の処理はどうなりますか?」と細かいディティールも確認する宇野さん。切りっぱなし、断ち切りを中に折り込む処理の場合など、手法や金額、時間、そのほかの提案などもあれこれ聞きます。結果、好みの材料を持ち込み、取替えで工賃8,800円で修理してもらうことに。
このほか、「好きな生地を持ち込んで、スカートの丈延ばしすることもできますか?」と宇野さん。まだまだ、たくさん蘇らせて使いたい愛着のあるモノがあるようです。
「リフォーム屋さんって、元の状態から大きく変えることに弱腰のお店もあるけれど、リナシェーレさんはいろいろ提案してくださるので安心できますね。長年の経験と技術があってこそだとお話ししていて感じます。素敵なお仕事ですよね」
収納の仕事を通じて、今使っていない品々を単に処分するのではなく、蘇らせて“関係を新たにする”提案をしてきた経験から、職人へのリスペクトもひとしお。次回訪れる際に、バッグの持ち手を持ち込む約束をして工房を後にしました。
続いて訪れた「QUOLOFUNE(黒船)」は、1919年に長崎で創業し、その後、本拠地を大阪に移した「長﨑堂」が、2003年に展開した菓子ブランド。職人の技術を伝承しながら、従来よりふんわり軽いカステラを目指したのが「黒船」です。
そして、これらのデザインや店づくりの礎を築き、現在もパッケージデザインのディレクションを担うのが、副社長兼デザイナーである荒木志華乃さんです。
自らギャラリーショップも運営し、アートやカルチャーが大好きだという宇野さん。「黒船」が登場した2003年当時、「独特の世界観に、センセーショナルな衝撃を受けました」と「黒船」に特別な思いがあると言います。モノトーンの色彩、筆書きの店名以外を一切省いたシンプルなデザインは、商品を見事に際立たせています。
「アルファベットの綴りが“Q”という文字づかいも印象的ですよね」という宇野さんの言葉に対し、「ロゴのはじまりが垂直な線の“K”になるとカッチリ重い印象なので、丸みのある“Q”にしたんです。“Q”の方が、音もやさしいイメージで、見た目もかわいい文字だと思って」と荒木さん。この日は特別に荒木さんが、店頭で宇野さんを迎えてくれました。
「黒船」というブランド名は「長﨑堂」が所有していた商標登録を採用したことなど、さまざまな開業秘話を話してくれた荒木さん。「新しい世界、いろいろな価値観へ向けて出航したいという思いが詰まっています」。
「黒船さんのお菓子は進物や手土産だけじゃなくて、もっと気軽なプチギフトや自分用にもつい買いたくなるもの、選びたくなるものがたくさん。伝統の製法を継承しながらも、それをさらに進化させて新たな価値を提供されているんですね」
荒木さんの言葉に感慨深く耳を傾ける宇野さん、クリエーター同士の会話が弾みます。
大丸心斎橋店の「黒船」は、東京・自由が丘本店以外で、唯一、イートインカウンターやラボ(キッチン)を併設している大型店舗。バニラシェイクとカステラ生地をブレンダーで混ぜたカステラキューシェイク(700円)など、イートイン&テイクアウトメニューを楽しめます。
その他、なめらかなクリームを詰めたふわふわのシフォンケーキカステラ、黒船ファンク(1個410円)や大丸心斎橋店のエレベーターホールにあるレリーフをモチーフにしたオリジナルカップなど、陶磁器も大丸心斎橋店限定品。宇野さん、店舗をじっくり見て回ります。
「自分がキュンとしたものや選んでいて楽しいものを贈るのって、相手に伝わると思うんです。それに選ぶ時間も大切な自分の時間。そんな時間が有意義で愛おしくなるお菓子ばかりです」
まさに宇野さんが大切にする、“ビビッド&ディープ”(鮮やかで深みのある体感)なお菓子に出会えたようです。
小休止を挟んで次に訪れたのは「airweave(エアウィーヴ)」。樹脂繊維を使い空気を編むようにして作られた、エアファイバーという素材を使ったマットレスパッドで知られる寝具メーカーです。
実は宇野さん、主宰する「質感研究室」で現在、取り組んでいるのが「祝う力トレーニング」。「生きるを祝う」ために“心の質感”を自分らしくオメデタイ状態に保ちたいと考えてメニュー化しています。啓蒙活動ではなく、心の筋トレとして誰もが簡単に楽しくできればと思い“トレーニング”と呼んでいるそうです。
「例えば朝、起きた時に自分自身にオメデトウ! と心の中で声をかけたり、実際に言葉にする“朝祝い”もそのひとつ」と宇野さん。その朝祝いで重要になるのが、快適な睡眠だそう。
「眠りがいい形で取れていて目覚めが良かったら、よりオメデタイ人になれる気がします(笑)」
しかし、実際は「ここ10年ほど、枕難民なんです」。さまざまな枕を買って試しては違和感を感じ、ついに現在はバスタオルを好みの高さに調整して寝ているそう。「コロナ禍中にオンラインで受けたヨガのレッスンで寝返りが大切だと教えてもらい、理想の枕と出会いたくて」と、豊富な知識を持つスリープカウンセラーの宿野部さんに案内してもらいました。
まずは「エアファイバーに触れてみてください」という宿野部さんに促され、店頭のエアファイバーに触れた宇野さん、「手を押し返してくる感覚ですね。意外と弾力があります」
この弾力こそ、楽に寝返りできる秘訣。エアファイバーが面で体を支えたり、重い頭を支え、均等に圧力を分散させます。
エアウィーヴ ベッドマットレスS03(176,000円~)にエアウィーヴ ピローS-LINE(21,780円)を組み合わせて、実際に寝てみることに。このエアウィーヴ ピローS-LINEは枕の両サイドが中央よりやや硬く作られており、仰向けでも横向きで寝ても理想的な頭の高さをキープしてスムーズに寝返りできるようになっています。高さ調整は枕の中に入っているシートコアを取り出したり、足したりして調整。
「実は、立っている状態が、一番骨格や筋肉に負担がかからない姿勢なんです。そのため、寝姿勢も立っている状態でそのままお休みいただくことが理想なんです」と宿野部さん。
「確かに、頭が動かしやすくてすごく楽ですね」と、リラックスモードの宇野さんから心地よさがひしひし。「これだとスッキリ目を覚まし、オメデトウ!と自然に言えそうです」。
「機能的で使いやすいものと用途を特定しないアーティスティックなものが混在しているところが、暮らしにイキイキとした質感をもたらしてくれる気がします」と宇野さんが最後に訪れたのはフィンランド生まれの「iittala(イッタラ)」。
セレクトショップに並ぶことも多い「イッタラ」ですが、関西の正規直営ショップは大丸心斎橋店のみ。機能性とデザイン性を兼ね備えた普遍的な定番品から新製品まで充実しています。
普段はカルティオのタンブラーを愛用しているという宇野さん。この日、まず気になったのはリサイクルガラス コレクションのコーナー。
このリサイクルガラス コレクションは、製造の段階で出たガラスくずに色ガラスを掛け合わせて作ったエシカルな商品。パッケージもリサイクル可能な紙製で、100年以上前から普遍的な商品を目指してきた「イッタラ」が、さらにエネルギーと天然資源の節約という環境へ配慮した新シリーズ。薄いグリーンの商品が並びますが、その色彩の濃淡や微妙な色の出方、気泡の入り方もさまざま。それぞれ表情が異なります。
「リサイクルのものはその時々でカラーが微妙に違い、個性を持っているので、一期一会ですね」と宇野さん。カステルヘルミのキャンドルホルダーを手に取り「色が味わい深いな」と眺めます。
実は宇野さん、2020年の新色をあらかじめチェックしてきたそう。手にとったのは「リネン」と名付けられた新色。ごく薄い茶色は亜麻畑から着想され、リネン素材のように涼しさと爽やかさを表現しているそう。
「アンティークのような色だけど、新しさを秘めていて、そろえたくなります」と目を輝かせる宇野さん。「鳥のモチーフが多いのも面白いですよね」と、美しい鳥を集めた一角に引き寄せられます。
バード バイ オイバ・トイッカは、デザイナーのオイバ・トイッカが、人間による鳥への憧れをガラスで表現したシリーズで、世界的なコレクターがいることで知られます。手吹きガラスでつくられているため、ガラスの中の気泡や微妙な形の違いなど、こちらも一期一会のアイテム。
「それぞれ違うガラスの中の気泡は、作られたその瞬間が閉じ込められている、と喜ばれるお客様も多いんですよ」とは豊富な知識を持つストアマネージャーの石橋祥子さん。
「ステキ。まるで職人の情熱やその時の空気感まで伝わってくるようで愛着が湧きますね」と宇野さんも嬉しそう。
「好きと思って手に入れたものを、暮らしの中でもっともっと好きになれるといいですよね」という言葉が、何度か飛び出た今回の百貨店巡り。自分にとってのビビッド&ディープを大切にしている宇野さんのモノ選びは、いつだって「ココロとモノの幸せな関係」を尊重し、生きることを祝っているようです。
収納に長年携わり「ココロとモノの幸せな関係」を研究してきた経験をベースに、自分の“好き”へ焦点を合わせて、それらとよりビビッドに、よりディープに向き合うためのオリジナルツールを企画し、「VIVIDEEP」ブランドで展開する。また主宰する「質感研究室」で開催するワークショップやイベントでは、“好きの質感”をキャッチする感度を高めることが、通底するテーマ。2020年1月に「生きるを祝うモノ。あなたをことほぐ時間。」をコンセプトにキュレーション・コーディネーションを手がけるギャラリーショップ「tools & arts VIVIDEEP maison 」を難波にオープン。ポップアップイベントも各地で行う。
※ソーシャルディスタンスに配慮しながら、写真撮影時のみ、マスクをはずして取材を行いました。
写真/岡本佳樹 取材・文/佐藤良子 編集/蔵均 WEBデザイン/唯木友裕(Thaichi) 制作・編集/河邊里奈(EDIT LIFE)、松尾仁(EDIT LIFE)
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