Professional's Eyes
スタイルのある暮らし
大阪の第一線で活躍する方々と一緒に、生活を豊かにする視点、もの選びのコツに迫ります。館内の注目アイテム、心斎橋のお気に入りスポットをご紹介。心地よい暮らし、大阪のシビックプライドを求めて。
ARCHIVES住まいを中心に、近年では子ども園やオフィスビルの設計など活躍の場を広げる建築家の堀部直子さん。削ぎ落としたデザインにして、暮らし手の使いやすさと快適性を考え抜くスタイルは世界も注目する存在です。そんな堀部さん自身が心地よく生活するために選ぶモノとは? 暮らしを豊かに彩るアイテムを探すべく、大丸心斎橋店を巡りました。
※2023年7月をもって閉店いたしました。
「数年前に腰を痛めたことがあって。設計の仕事はパソコン作業も多くて、1日中座っていることもあるんですよね。そういうデスクワークの負担を軽減してくれるものがあったらいいなぁと思って。最近はご自宅でお仕事をされる施主さんも多いので、そういう方におすすめできるものも見つけられたら」。
朝から晩まで机に向かう日が、ひと月続くこともあるという堀部さん。辛い腰への負担を防ぐためにも、訪れてみたかったという「Style(スタイル)」。“正しい姿勢に導く”ことをコンセプトに、カイロプラクティックの理論に基づき独自開発したチェアやシートを展示販売しています。
「長時間のオフィスワークでしたら……」と、スタッフの崎原麻紀子さんが紹介してくれたのはStyle PREMIUM DX。身体にしっかりフィットする曲線、また独特の凹凸を持つシートで、イスやソファに置いて使うことで正しい姿勢を維持できるという、ブランドきっての人気ケアアイテムです。
「座ることで骨盤がおのずと立ち、頭のてっぺんまで真っ直ぐな姿勢を保つことができます」。
スタッフ崎原さんの案内で、デスクチェアに備えたStyle PREMIUM DXを試す堀部さん。「お尻を突き出して座っている感覚というか。ふだんの姿勢とは全然違って、背中が立ってくる。肩が丸くなることもないですね」。
底層には沈み込みを防ぐ高反発ウレタンを、上層には柔らかな低反発ウレタンを重ねた構造ゆえ、長時間腰を下ろしていても疲れ知らず。既存のイスにシートを置くだけという手軽さに加え、床置きの座椅子として使えるのも魅力です。同じく骨盤を立たせて姿勢を保つアイテムには、リビング向きのソファチェアも。
「PREMIUM DXはふかふか感があったのに、こちらはしっかり受け止めてくれる感覚ですね」と、リラックスした表情ながらも、座り姿は凛として美しい堀部さん。
「左右に留めがあり、ズレを抑えながらも包み込んでくれるような形が特徴です。この出っ張りに肘を添えると手元が安定して、スマホチェックもとてもしやすくて」と崎原さん。
サイズは幅・奥行ともに60cmに満たない小ぶりで、重さはわずか約4kg。実際に持ち上げてみた堀部さんは「めちゃくちゃ軽い! 」と驚嘆。「これなら家にも置きやすいですね」と、オフィスのみならずリビングの候補アイテムもしっかりインプット。
続いて訪れた「UCHINO Bath & Relaxation(ウチノ バス アンド リラクゼーション)」は、1947年にタオル製造卸として創立。上質な気持ちよさを追求し、現在は入浴から眠りにつくまでの時間を心地よく過ごすアイテムをコンセプトに、タオルはもちろん、バスローブ、パジャマ、リラクシングウェアなども企画、提案しています。
快適性が要となる住宅建築を主に手掛ける堀部さんにとって、心地いいライフスタイルの一片をつかさどるタオルも関心あるアイテムの一つ。
「ウチノさんのバスタオルは母にプレゼントしたことがあるんです。でも自分用にはまだ買っていなくて。お風呂に入るたびに“あのホワホワ”に触れられたら気持ちいいだろうなぁと憧れていて」と堀部さん。まずは気になっていたというスーパーマシュマロシリーズを手に取ります。
ふっくらボリュームのある見た目に対して、「すごく軽い!」と驚く堀部さん。まさしくマシュマロのようなソフトな肌触りに、「洗濯してもこのホワホワは変わりませんか?」とスタッフに訊ねます。
「毛羽落ちを防ぐために柔軟剤を使わず、自然乾燥の場合は干す前に10〜20回ほど振っていただくと、ふんわり感が持続されます。もちろん消耗品ですので使い込むほど硬くなってしまうのですが、お手入れ次第でこの触感が長持ちします」とスタッフの田中仁美さん。
家庭では一児の母であり、家事は同じく建築家である夫と分担。洗濯が主たる担当という堀部さんゆえ、お手入れの方法は見過ごせない問題のようです。
「こちらは通常の約1/5の細さの糸を使ったものなのですが……」と、続いて田中さんが紹介してくれたのは、しあわせタオル。ウチノが“過去最高の一枚”と自負するシリーズです。超長綿で毛足を長く織り上げてあるため、洗濯を繰り返しても使い始めの柔らかさが持続。まさに堀部さんが理想とするアイテムです。
住宅設計に際しても、自身の実感を落とし込んだ工夫をしている堀部さん。たとえば洗濯に関わる設計では、「いかに無駄なくできるか? 」を考えたユニークな提案をされています。
「一般的には寝室に付けることが多いクローゼットをファミリークローゼットにして、家族全員の服を1カ所に集約する。そうすることで占有面積が多少コンパクトになりますし、洗濯物を取り込んでもとりあえずそこに入れておけばどうにかなる(笑)。さらに家事動線を考えて、配置は水まわりか物干し場のそばに。着替えのタイミングって、洗面や入浴など水まわりと関連することが多いですから。洗濯する側の立場に立ってみれば、それが一番楽かなと考えて」。
堀部さんは暮らしと共に設計を考える。ふんわりと気持ちいいウチノのタオルが生活の癒しとなって、また新しいアイデアが生まれますように。
バスアイテムに続いては、キッチンアイテムを。「綱具屋(ツナグヤ)」は全国の作家や窯元が手掛ける陶磁器を中心に、暮らしを彩る雑貨や衣類が幅広く揃うセレクトショップ。やきものの産地・瀬戸で創業し、70年以上に亘って食器に携わってきた会社が運営しているため、食器はとりわけ充実しています。
堀部さんが生活道具を選ぶ際に心がけるのは、「デザインはシンプルで、素材は極力長持ちする木や革、陶器など」。「建築の材料でも、たとえばビニールクロスよりはペンキや漆喰を提案する。そういうものは“傷んでくる”というより“味わいが出てくる”ものだから」。
そう話す堀部さんが心惹かれたのは無地の白い器。瀬戸で作陶する「atelier juca」によるボウルで、表面は表情のある質感を残しつつ、内側はつるりとして汚れにくい工夫が施されています。
シンプルなものを好む堀部さんに、営業担当の太田晴香さんがおすすめしてくれたのは割烹着!
「大阪船場で服飾資材の卸を手掛ける増見哲さんという会社が作るオリジナルで、前後を逆にすれば羽織にもなって。ちょっと外へ出る時は着方を変えて、というひとひねりあるアイテムなんです」。
「おしゃれですね。これなら割烹着として着ていても外に出れると思う!」と堀部さん。リネン素材の落ち着いた佇まいに、袖口はフィット感のある長いリブ付き。
「私も割烹着を使っているんですけど、袖口がゆるくて。どうしても服が出てきてしまうから、これはいいですね」。
うつわもウェアも、モノトーンかつクールな建築を数多く手掛ける堀部さんらしいチョイス。そう納得したのも束の間、堀部さんが「会いたかったんです!」と吸い寄せられるように近づく棚を見れば、こちらは意外なキャラクターモチーフの起き上がり小法師。じっと眺めればおかしみがこみ上げる、絶妙な表情をたたえた金太郎や熊が肩を並べています。
「綱具屋」のインスタグラムを見て気になっていたアイテムだそうで、「可愛いだけじゃない、このちょっとシュールな感じがすごくいいですよね(笑)」と堀部さん。
「こういうものがお家にあると、生活していて楽しいかなって。だから、うつわだけでなく可愛くて面白いものも置いています」と営業担当の太田晴香さん。
他にも、動物のフィギュアが付いた「ま工房」の土鍋、益子の作家である下永久美子によるアニマルモチーフのピンバッジなど、思わず微笑んでしまうアイテムがあちこちに。
建築そのものには色をつけないという堀部さん。理由は、「家具や普段着るお洋服、お子さんのおもちゃなどで色が付いてくるから」。そう聞けば、意外なほっこりアイテムに目を向けた眼差しも納得できる気がします。
「数年前に友だちと忘年会をした時、美味しい日本酒を買ったから各自好きなお猪口を持ち寄ろうということになって。能作さんのお猪口を購入させていただいたんです。夫と一緒に色や形を散々悩んで、それぞれ好きなものを選んで」。
「能作(ノウサク)」は、富山県高岡市で1916年に創業した鋳物メーカー。錫100%という素材の特徴と、長年培ってきた製造技術を活かしたプロダクトは伝統工芸の枠を超え、高い評価を得ています。
「能作」の店舗什器などを手掛けるデザイナー、小泉誠さんの書籍を愛読していたことがきっかけで、ブランドの存在を知ったという堀部さん。「お猪口と一緒に徳利も買って」と、暮らしの中でしっかり愛用されているようです。
「錫はお酒の雑味を取り、まろやかな味わいにすると言われています。金箔を施したものは、瓶から直接お酒を注ぐと、お酒そのものの味わいが楽しめて。錫は熱伝導性が良いので、冷酒の冷たさがすぐにうつわ全体へ伝わり、おいしく味わっていただけます」と、スタッフの福田みゆきさん。
「酒器以外にもいろいろ気になるものがあって。“曲がるうつわ”もあるんですよね?」。堀部さんの問いかけに、スタッフが差し出したのがKAGOシリーズ。
「能作」が強みとする純度100%の錫は柔軟性があり、手で簡単に曲げられる。そんな特性を活かしたアイテムで、七夕の網飾りに似た独特のデザイン構造により、引っ張ったり曲げたりすることで立体化し、トレイや花留めなどさまざまな使い方ができます。
「これはどう動くんだろう?」と、興味津々の堀部さん。「自由自在に形が変えられるというのが面白いですよね」。
続いて、「これは何ですか?」と目を留めたのは鎚目キット。通常は職人さんが錫の表面をハンマーで叩くことで模様を描く鎚目付けを、お客さん自身で体験できるというアイテムです。
試し打ちコーナーで、140ccのタンブラーを叩いてみる堀部さん。「へぇ〜! 面白いですね(笑)」と手を動かしつつ、「ワンサイズ大きいものもありますか?」と質問。
タンブラーに続く新作として登場した鎚目キット第2弾は、ひとまわり小さなぐい呑。店頭に並ぶ容量435ccの「ビアカップ - L」を指して、「できることならこれくらいの大きさのものをカチンカチンしたい(笑)」と堀部さん。呑兵衛な一面を垣間見せつつ、「自ら仕上げができたら、愛着が湧きそうですよね。錫のカップなら割れないし錆びないし、一生もの」と、改めて「能作」のアイテムに魅了されたようです。
建築スタイル同様、ファッションもシンプルでベーシックなものが多いという堀部さん。「ただし、傘やマフラーは明るい色を身につけて。雨の日はいろいろ面倒なこともあるけれど、好きな傘があれば楽しいですしね」。
「お気に入りだったターコイズブルーの傘を失くしてしまって……」と悩める堀部さんが最後に訪れたのは、アクセントファッション専門店の「+moonbat(プラスムーンバット)」。暮らしに快適と美しさをプラスしてくれる雨傘や日傘、ストールや帽子など多彩なアイテムが揃います。
1885年に雨傘を出発点として創業した老舗で、現在も一番人気の看板は雨傘。スタッフはもれなくアンブレラマスターの資格を持つという頼もしさで、関西ではこちらの大丸心斎橋店ただ一つ。なかでもショップオリジナルという全12色、48種類ある折りたたみ傘は、バリエーションだけでなく機能性も秀逸です。
「雨傘としては数少ない日本製で、ストレスにならない軽量タイプ。雨の日は紫外線の数値が高いこともあり、UV加工も施しています。無地、模様付き、ムーンバットのオリジナルロゴ入り、さらに無地でも標準サイズの55cmより大きい60cmのものと、4タイプが各12色あります。軽量カーボンを使用した骨も丈夫です」と、店長の鈴木洋子さん。
直径60cmの傘をパッと広げ、実際に差してみた堀部さんは「大きい! これなら肩掛けのカバンが濡れる心配もなさそうですね」と、明るい表情に。「お気に入りの傘を長くお使いいただくために修理も受け付けています」という鈴木さんの案内に、さらに感激。
「折りたたみ傘は壊れてしまえば買い換えるものというイメージだったから。すごくいいですね」と堀部さん。
ブランド名の「ムーンバット」は、ショールを肩へ掛けた際に現れる月型(ムーン)と、こうもり傘のこうもり(バット)を合わせたもの。祖業の傘に次いで、数多く取り揃えるのがストールやマフラーです。
ブルー系がお好みという堀部さんに、スタッフの鈴木さんが広げて見せてくれた大判のストールは、とてもかわいいムーミン柄! 来るべき春夏の清涼感があふれるインポートの新作です。
「ここまで長いストールはしたことがなくて。かっこ良く巻けない…!」と苦笑いする堀部さんに、鈴木さんは華麗な手さばきで上手な巻き方を教えてくれます。
「プラスムーンバット」のスタッフは、パーソナルカラー診断の資格も取得。それぞれのお客さんに向き合い、どの色が似合うかというアドバイスもしてくれます。
「自分で決められない時ってありますもんね。客観的に見ていただけるのはうれしいし、買いやすくなります」と堀部さん。
「建築はうつわ的な方が自由度があっていい」と考える堀部さんにとって、そこに暮らす人々の営みこそがメインディッシュ。暮らしの道具であれ身に付けるものであれ、それらを楽しそうに眺める姿は、一生活者としての建築家らしい親しみを感じます。
大阪を拠点に活動する建築設計事務所、Horibe Associates代表。頑張らなくても楽しく、美しく、住みこなせる家づくりをテーマに建築を行い、女性らしいきめ細やかなデザインや機能面を考えた設計が人気を集めている。「第7回関西建築家新人賞」、「第9回キッズデザイン賞」、グッドデザイン賞などを受賞。メディア掲載も多数。建築設計のコンクールの審査委員も務める。
※ソーシャルディスタンスに配慮しながら、写真撮影時のみ、マスクをはずして取材を行いました。
写真/岡本佳樹 取材・文/村田恵里佳 編集/蔵均 WEBデザイン/唯木友裕(Thaichi) 制作・編集/河邊里奈(EDIT LIFE)、松尾仁(EDIT LIFE)
大阪の第一線で活躍する方々と一緒に、生活を豊かにする視点、もの選びのコツに迫ります。館内の注目アイテム、心斎橋のお気に入りスポットをご紹介。心地よい暮らし、大阪のシビックプライドを求めて。
ARCHIVESProfessional's Eyes Vol.20
Professional's Eyes Vol.18