Professional's Eyes
スタイルのある暮らし
大阪の第一線で活躍する方々と一緒に、生活を豊かにする視点、もの選びのコツに迫ります。館内の注目アイテム、心斎橋のお気に入りスポットをご紹介。心地よい暮らし、大阪のシビックプライドを求めて。
ARCHIVES街の酒場を中心に、新しい動きやゴキゲンな過ごし方を紹介する雑誌『Meets Regional(ミーツ・リージョナル)』。そんな呑兵衛のバイブルともいわれるミーツが昨年緊急事態宣言を受け、誌上初の「家飲み特集」を敢行。ご自身も「家飲みを始めた」という編集長の松尾修平さんに大丸心斎橋店を巡ってもらい、リモート飲みや晩酌を盛り上げるアテとお酒を探してもらいました。
一度目の家飲み特集は2020年8・9月合併号。国の緊急事態宣言を受け、「飲食店の取材ができない状況と家飲み需要の増加を考慮して、急遽、特集企画を変更した」という松尾さん。その予想は的中し、家飲み特集は人気の特集に。二度目の家飲み特集は2021年2月号。「読者と飲食店を繋げることを前提に、人気店の料理レシピやテイクアウト情報を充実させました」。
普段、週6~7日は外食。ビールで乾杯して焼酎のソーダ割りへと流れる松尾さんですが、家飲みの相棒は「勉強も兼ねて」、近頃はワインも。ということで、今回はワインを中心にお酒に合いそうな惣菜を買ってもらいました。
惣菜をパックからうつわに移し替えるのも家飲みを盛り上げる方法の1つ。お皿洗いが面倒なときは、環境にやさしい紙のうつわ「WASARA」を使えば、手間が1つ減り、料理が美しく引き立ちます。
買いそろえた料理を前にして、「全体的に茶色いものが多くなりました(笑)」と松尾さん。この後、試食しながら家飲みのアテに選んだ理由についてうかがいます。
お酒は本館地2階の「リカーショップ グランセルクル」で購入しました。ワインをメインに、ウイスキーや日本酒、焼酎などのお酒が揃っています。さあ、松尾さんは料理とどのようなペアリングを楽しむのでしょうか?
ワインを求めてやってきたのは、本館地2階のフードホールに構えるリカーショップ。ワインは独自のルートで仕入れる銘柄が多く、家飲みに適したリーズナブルなものからハレの日の1本まで、幅広くラインアップしています。
「すっきり飲みやすくて果実味もある白ワインが好き」「いつも飲むのは2,000円前後のものが多い」など、店長の高橋健次さんに好みや条件を伝えながら、惣菜と合いそうなものを選びます。
グランセルクルで選んだお酒は惣菜の実食の様子とともにご紹介していきますが、ワインを探し終えた後も気になる銘柄をチェックしていた松尾さん。「定点観測すると個性の違いがわかる」という理由から、最近はワインの産地やブドウの品種を固定して飲み比べているそうです。
家飲みでも外飲みでも「お酒がメイン」という松尾さんのアテの条件は、一に小さめ、二に小さめ。その条件にぴったりなのが焼鳥だといいます。そこで真っ先に向かったのは「正起屋(まさきや)」。「焼鳥は店内で食べるときはたいてい1つの部位を2本ずつ頼まないといけないけど、テイクアウトだと自分の好きな串を1本ずつ頼める」と松尾さん。
併設する焼き場では今まさに串が焼きあがる場面に遭遇。燻香が鼻先をくすぐるなか、「これだけ近くで見られるところは焼鳥屋でもなかなかない」と松尾さん。「つくね、旨そう~!」と熱い視線を送ります。
正起屋では、もも串やねぎ串に伊勢赤どりを使用。「身が締まっているので、適度な歯応えがあって、噛んだときに甘い脂が溢れる」と店長の中本さん。
松尾さんが焼鳥屋で必ず頼むのは、せせり、もも、かわ、ぼんじり、つくね。どの部位を塩でいくか、タレにするかを考えるのも楽しみなのだとか。
結局、もも(1本194円 ※以下すべて税込価格)、かわ(1本129円)、ぼんじり(1本151円)、せせり(1本172円)を塩で。もも(1本194円)、ねぎ串(1本194円)、つくね(1本151円)をタレで購入しました。
阿波尾鶏の手羽元肉は豪快にかご焼きで。滴る脂が炭火で燻され、手羽元肉がその香りをまとう……なんともニクい演出。ちなみに手羽元肉とは手羽元から骨を外した部位。松尾さんも呑兵衛心を刺激されたようで、「これも100gください」とお買い上げ。
焼鳥には……ビールということで、1杯目は箕面ビールのピルスナーをチョイス。喉を潤したところで、せせり、ぼんじり、つくね、あぶり焼あたりをつまんでいきます。
「塩もタレもあっさりした味つけがいい」と頷きつつ、「あっ、歯応えあるな」と“ひね鶏”好きの松尾さんは伊勢赤どりのもも串にニンマリ。ビアカップの上げ下げが加速しました。
焼鳥が家飲みに適している理由について、松尾さんは絶妙なボリュームに加え、冷めてもおいしい点を挙げます。
「温め直すと身が硬くなるので、特に専門店の焼鳥はそのまま食べることが多いですね」
ちなみに、東京出張の帰りは焼鳥とビールを買って新幹線に乗るという松尾さん。冷めてもおいしいうえに、まわりに匂いが充満しないのが焼鳥の利点……というウラ話も教えてくれました。
※2024年8月をもって閉店いたしました。
本館地1階の惣菜エリアを回りながら、松尾さんが「おっ!」と足を止めたのは「うお活鮮(かっせん)」。ショーケースにはサバの塩焼き、旬のキスの天ぷらに、エビが3尾のって680円というコスパ抜群のえび天重までがそろっています。
海鮮ミルフィーユを見つけて「映えてますね!」と松尾さん。よく見ると、海鮮食材と酢飯を何層にも重ねた、いわばちらし寿司。サーモン、イタヤ貝、カニ、イクラ、トビコを散りばめたものや、エビやネギトロ、梅肉、たくあんなどを織り交ぜたものなど全部で3種類。百聞は一食に如かずの精神で、「これ、いってみます」とご購入。
続いて、「定食屋にあると頼んでしまう」と西京焼きコーナーに注目。この日は定番のサバやカレイに、旬のブリ、サワラとなんと4種類の西京焼きがラインアップ。どれにしようかと悩む松尾さんに、スタッフが柔らかくて脂がのったカレイが人気だと教えてくれました。
さて、実食のお時間です。松尾さんがコップに注いだのは、ワインと見紛うほどオシャレなボトルの日本酒。カレイの西京焼きを見たときから「これには日本酒!」と決めていたそうです。
グランセルクルで薦めてもらった日本酒は「能登の四天王と呼ばれる名杜氏」といわれる農口尚彦さんの新酒、PREMIUM NOUVEAU 2020。透明感のある爽やかな味わいが魅力です。
「西京焼きは味噌が決め手。だからお店によって味が全然違う」と松尾さん。ふっくらしたカレイは「めちゃくちゃ上品な味」と日本酒をぐびり。淡麗辛口のお酒とは相性抜群のよう。海鮮ミルフィーユのカニやイクラもアテにして……「クイクイいっちゃいますね」と破顔していました。
松尾さん的家飲みのすすめ。お次は精肉店にやってきました。「お肉の専門店 スギモト」は明治33年創業の老舗精肉店。松阪牛や神戸牛といった国産黒毛和牛に、あぐー豚、名古屋コーチンなど、そうそうたるブランドがそろっています。
聞けば、松尾さんが焼肉屋に行くのは、取材を除けば年に数える程度。肉は精肉店でいい赤身を買って、家で焼いて食べることが多いといいます。ショーケースを眺める松尾さんに、「コロナ禍の今はすき焼き肉より一人でも楽しめるステーキ肉がよく出ます」とスタッフの坂本宗一郎さん。あっさりした赤身が好きな松尾さんの好みを聞いて、坂本さんはそれならラムシンがいいと薦めてくれました。ラムシンはモモの中でもサシが少なく、肉質は柔らかくて旨みの強い希少部位です。
「見たことないかも……」と松尾さんが瞳を輝かせたのは、あぐー豚のロールステーキ。薄くスライスしたあぐー豚を重ね巻きしたもので、脂の融点が低く、とろけるような舌触りが特徴のようです。
松尾さんがフォークに刺して今まさに食べようとしているのは、最後に買ったラムチョップ。肉厚なので両面を焼いてから余熱で火を通すのがポイント。スギモトオリジナルスパイス“サンタフェ”を振ると、ラムの風味と調和してワインを手招きします。
「肉には赤! でもフルボディよりガブガブいける軽めの赤が好き」という松尾さんのリクエストをもとに選んでもらったのは、ピエール アルマン ブルゴーニュ ピノ ノワール2018。樽香と果実味のバランスがよく、価格もリーズナブル。ラムシンのあっさりした味わいやあぐー豚の脂の甘みにもそっと寄り添いました。
「RF1」は健康、安心、安全とおいしさにこだわる惣菜専門店。焼鳥、魚、肉とメインディッシュが続いていたので、こちらでは野菜不足を補うつもりかと思いきや、「ワインに合いそうなキッシュがあったので」と松尾さん。これ以上ワインが進むと、目の前がワインディングロードになっちゃいそうけど……!?
さっそくスタッフの中野さんが家飲みに薦めてくれたのは、ローストビーフと揚げごぼうの旨みサラダ(2人前 896円)。「RF1」といえばお皿に盛りつけられた量り売りのサラダが名物ですが、こちらは食材がすべて小分けになっていて、家で和えたてのみずみずしいサラダが味わえるうえに、“作る”ひと手間も楽しめるというもの。約3分で出来上がるとのことです。
松尾さんが一番心惹かれたのは、週替わりのキッシュ。「主菜になるし、ワインのアテにもいいんですけど、買えるところがそんなになくて」と、この日あったイタリア産クワトロチーズのキッシュとほうれん草とベーコンのキッシュを両方購入しました。
「家飲み特集でカレー屋さんにレシピを教えてもらって家で作ろうとしたら、材料を買いそろえるだけで5,000円を超えまして(笑)。改めてお店のすごさがわかりました」と松尾さん。RF1の定番・緑の30品目サラダは、30品目以上の野菜が摂れて100g 410円と知り、「これがデリカテッセンの魅力ですよね」。
松尾さんが驚いたのは、ローストビーフと揚げごぼうの旨みサラダ。
「全部小分けにされているので、買ってから時間が経ってもフレッシュ感がちゃんとある。テイクアウトサラダのクオリティが上がっていますね」。
北海道産生ハムとマッシュルームのサラダや、菜の花と焼きキャベツのサラダ ペペロンチーノ仕立てに、蟹とほうれん草のシチューパイも「ワインのために」と追加。欲望のリミッターが外れるのも“家飲みあるある”でしょうか。 (※生ハムとマッシュルームのサラダは3/3まで。シチューパイは3/10まで。菜の花と焼きキャベツのサラダは販売終了。)
いろんな種類の惣菜に合わせるなら……と薦めてもらったのは白ワインのドメーヌ パシュー・ル・クロウ プティ・シャブリ2017 (750ml 3,300円)でした。
淡い黄金色の白ワインは柑橘系の果実味がほどよく、余韻も長いので、フレッシュなサラダにも、味わい濃厚なキッシュやシチューパイにも合う万能ぶり。
「風味はけっこう複雑でキノコっぽくもあるので、北海道産生ハムとマッシュルームのサラダとのペアリングは特におすすめです」と松尾さん。
※2022年8月をもって閉店いたしました。
最後に忘れてはならないのが中華料理。「家で本格的に作るのは難しいけれど、一品あると嬉しいし、温め直しても再現性が高い」と松尾さん。本館地2階、フードホールの一角にある「YUNYUN(ユンユン)」は、神戸・南京町に本店を構える、ビーフンと焼小籠包のお店。2号店となるこちらでも、点心師が手作りする味が楽しめます。
大きな鉄板鍋にたっぷり注がれた油。そこで揚げるように焼かれる小籠包。現地では“上海生煎饅頭”と呼ばれる料理で、皮は厚く、焼き目をしっかりつけるため、表面はカリッと香ばしく、生地はもっちり。かぶりつくと、アツアツの肉汁が飛び出します。
YUNYUNは「ケンミンの焼ビーフン」でおなじみ、ケンミン食品が手がけるアンテナショップ。看板メニューの福建焼ビーフンも必食です。
「中華料理は香りが大事なので、味つけはシンプルに、特製ビーフンを強火でがっと炒めて香りを出すのが福建風です」と統括マネージャーの三浦由起雄さん。
松尾さんも調理風景を見て、食欲をそそられた模様。福建焼ビーフンに、エビ、イカ、ホタテを加えた海鮮焼ビーフンもオーダー。福建省厦門(アモイ)で人気の黄金餅と台湾名物のパイナップルケーキを合わせた鳳梨黄金もちもテイクアウト。
「これまでの中華はビールか紹興酒のイメージでしたけど、最近の中華料理店はビオワインに特化していたり、大きなワインセラーを置いていたり、ワインとのペアリングを推奨するお店が増えています」と松尾さん。
「グランセルクル」で焼小籠包に合うはずと薦めてもらったお酒もワインでした。しかも、イタリア・ウンブリア州のロゼ。
「ロゼは自分から選ばないから新鮮」と松尾さんも興味津々。
焼小籠包の中には国産豚100%の餡に加え、鶏ガラなどを8時間かけて煮込んだ上湯スープがたっぷり。かぶりつくと、肉汁とスープがじゅわっと。
「蒸す小籠包と食感が全然違う。皮を楽しむ饅頭っぽいですね」
焼小籠包の合いの手に、旨みたっぷりの辛口ロゼを啜り、笑みを浮かべる松尾さん。
「家飲みが楽しいのは、『この料理にはこのお酒』という公式があっても、『こっちを合わせてみたらどうだろう?』と自由に組み合わせられるところ。このロゼは肉料理に合うらしいですけど、焼小籠包にもばっちり。これは発見ですね」
数々のちゃんぽんを繰り広げてきた松尾さんですが、そのまなざしは鋭く、「実は、街にも気軽に飲める中華酒場や立ち飲み中華が増えていて、名物が餃子や焼売、小籠包といった点心系なんです。家飲みも外飲みも、点心とワインのペアリングを楽しむ時代が来てますね」と新しいムーブメントを察知していました。
『Meets Regional(ミーツ・リージョナル)』編集長。1978年、兵庫県生まれ。2002年、京阪神エルマガジン社に入社。月刊誌『エルマガジン』の音楽担当などを経て、2008年より『ミーツ・リージョナル』編集室。同誌副編集長を経て、2019年より現職。ゴキゲンな人と酒場が集まる街が大好物。
※ソーシャルディスタンスに配慮しながら、写真撮影時のみ、マスクをはずして取材を行いました。
※20歳未満の方の飲酒は法律で禁じられています。
写真/西島渚 取材・文/福山嵩朗 編集/蔵均 WEBデザイン/唯木友裕(Thaichi) 制作・編集/河邊里奈(EDIT LIFE)、松尾仁(EDIT LIFE)
大阪の第一線で活躍する方々と一緒に、生活を豊かにする視点、もの選びのコツに迫ります。館内の注目アイテム、心斎橋のお気に入りスポットをご紹介。心地よい暮らし、大阪のシビックプライドを求めて。
ARCHIVESProfessional's Eyes Vol.23
Professional's Eyes Vol.21