Professional's Eyes
スタイルのある暮らし
大阪の第一線で活躍する方々と一緒に、生活を豊かにする視点、もの選びのコツに迫ります。館内の注目アイテム、心斎橋のお気に入りスポットをご紹介。心地よい暮らし、大阪のシビックプライドを求めて。
ARCHIVESヘアメイクアップアーティストであり、関西美容界のマエストロである三橋ただしさんは、日々の暮らしの中でも美に対する意識が高いことで知られています。ものを選ぶときに大切にする基準は「エレガンスであるかどうか」という三橋さんに、世代や性別、ジャンルの垣根を超えて、エレガンスなものをテーマに大丸心斎橋店を巡ってもらいました。
※2023年7月をもって閉店いたしました。
心斎橋は小さい頃から家族と出かけていた場所という三橋さん。「散髪屋によく放り込まれてね。当時は予約制じゃないから日曜日だと散々待たされるんですよ。母親はその間に2~3時間かけて大丸で買い物していました(笑)」
そんな微笑ましい思い出をうかがいながら、まず訪れたのは本館6階にある「Santoni(サントーニ)」。イタリアシューズブランドの代表格として名を馳せるブランドのコンセプトは“伝統と革新”。その美しいフォルムからは職人の高い技術が感じられます。
この日、三橋さんが履いていたのは、20数年愛用する「サントーニ」の靴。出会いはクラシコイタリアブームの前夜。南船場の「アリストクラティコ」で薦められたのが最初でした。
「僕の足は甲高で幅が広い典型的な日本人の形ですけど、そのとき履いた『サントーニ』さんの靴がピタッと合ったのを覚えている」と三橋さん。
1度足になじんだものは何度もリペアをしながら履きつぶれるまで愛用するのが三橋さんのスタイル。デザインは愛用している「サントーニ」の靴のようなプレーントゥ(甲やつま先に装飾やステッチが施されていないシンプルな靴)がお好み。
「スーツやタキシードに合うのはもちろん、ジーンズに合わせても足元が締まって好きなんです。だから冠婚葬祭を含めて、プレーントゥで1年間過ごすこともあります」
店長の山尾守広さんも三橋さんの靴を見て、「この製法は頑丈な作りなのでガシガシ履けますし、傷なんかも風合いになります」と、まるで我が子を見つめる親の表情。「サントーニ」の靴であればいつでも無料でお磨きします、と声をかけていました。
数あるモデルの中から、三橋さんのお眼鏡に叶ったのはこの1足。1枚革で仕立てられ、踵のステッチまでも無くした完全なるホールカット。ほとんどの工程を手作業で行い、1人の職人がおよそ100時間かけて作るリミテッドエディションです。
「素敵だなと思ったらやっぱりいいお値段ですね。でも1足いただくならこれです」と三橋さんはお茶目にポージング!
山尾さんいわく、「今のサントーニを象徴する」ダブルモンクストラップを試着させていただくことに。21色のカラーバリエーションがあるなかで、三橋さんが選んだのはシンプルな黒でした。
「派手な装いがしたければ、頭のてっぺんや足先を派手にするとよく動いて目立ちます。逆に、末端のトーンを落ち着かせるとその人自身に目がいくようになるんです」と三橋さん。
「紳士な方は、床屋と仕立て屋は浮気をしないと言われます」と店長の山尾さん。その言葉に、三橋さんも同意。流行に左右されない自分のスタイルを持っているからこそ、1足の靴を大事に履き続けることができるのです。
「年齢を重ねると足元を楽にしたいからスニーカーを履く方が多いけど、きちんとした作りの物であれば、革靴のほうが楽だと思います」と三橋さん。足どり軽く、次のお店に向かいました。
※2022年2月をもって閉店いたしました。
続いて訪れたのは「ファイブイズム バイ スリー」。三橋さんの本領とも言える、コスメブティックです。こちらの商品はすべてジェンダーレスでありながら、男性が使いやすいデザインのものが多くて話題に。三橋さんも興味深い商品がたくさんあったようです。
まずチェックしたのは、健康的な仕上がりにこだわったファンデーションです。
「見た感じはコンシーラーみたいに厚ぼったくなりそうだけど、さらさらしているので、脂分の多い男子にはフィットすると思います。適度なツヤ感もあって使いやすそう」と絶賛。
「(形状が)バータイプなので髭剃りをするように使えます」というスタッフ安達優さんのフォローに合わせて、実演してみせる三橋さん。
「男子はリキッドタイプのコスメって邪魔くさいと思うんです。これだと顔に直接パッと塗れますね」
「ここを見てください。ブラシの毛の長さが2段構造になっている」と、三橋さんが注目したのはファンデーション用の円形ブラシ。ブラシの毛に長短をつけることで、男性が使っても、髭やもみあげ、小鼻のきわに入り込みやすく、ムラなく塗れるのがポイント。ベースメイクをより自然に、簡単に、美しく仕上げられます。
ブルーのリップ(!?)に驚いた方は一度深呼吸を。こちらは三橋さんおすすめのリップ。三橋さんいわく、「ブルーだと唇の赤みが抑えられて肌に力強さが出る。顔色がよく見えるんです。これは男子ならではのアイテムかな」。
唇をケアしながら、顔の印象をさりげなく変えてくれます。
「お次は三橋さん、なにやら眉毛に塗っています。これはコバート ディフィニッション ツールという眉毛のマスカラ。
「地毛に馴染んでくれるので、つけている感じが少ないからいいですね」と三橋さん。
カラーは透明、ブロンド、ブラウン、黒など7色展開と豊富。眉毛だけでなく髭にも使えるので、髭の白髪もナチュラルにカバーすることができます。また、保湿成分が配合されているのも嬉しいポイント。
ここまで三橋さんがおすすめしてきた本格的な商品のほかに、気軽に使いやすいコスメもたくさんあります。例えば、その日のファッションや気分で髪色を変えられる、ヘアカラーワックスもその1つ。
「ブルーのワックスを白髪の部分に塗るときれいなアッシュになる」と三橋さん。
もう1つはUVケアクリーム。日焼け止めクリームを塗ると不自然な白さになる。そんな不満を解消してくれるアイテムで、ナチュラルな肌色から日焼けの小麦肌まで色の種類があり、何も塗っていないような素肌感をキープできます。
「肌の色調整ができて、ツヤ感も出て、ウォータープルーフで汗にも強いけどあざとくないからいい」と三橋さんも気に入った様子。
どのアイテムもジェンダーレス、エイジレスで使えるものばかり。メンズメイクに興味がある方はもちろん、カップルで気軽に試せるのも魅力です。
明治5(1872)年、滋賀・近江八幡で創業した「たねや」は、季節感を大切にしているため、いつ訪れてもショーケースの中に驚きと出会いがあります。手土産は「たねや」一択というほど絶大な信頼を置く三橋さんは、普段、どういったものを買われているのでしょうか。
春はさくら餅、端午の節句になると鯉のぼりのパッケージが素敵な葛をつかった黒糖粽など、季節菓子も進物用に購入する三橋さん。
「近江の大きな工場で作られているのが信じられないくらい1つ1つが丁寧。1日限定や2日間限定で販売される商品もありますよね?」と尋ねると、店長の藤田優香さんも「そうですね。お彼岸にはおはぎがあったり、歳時にちなんだお菓子があります。直近では4月7・8日にお釈迦様の誕生日(花まつり)にちなんだ“五泉”というお菓子を販売します」と教えてくれました。
春は桜がデザインされて……と包装紙も四季折々。
「女子力も男子力もくすぐられます。これ見よがしの包装じゃなくて、お菓子自体の良さをきちんと出されている。こういうところがエレガンスなんです」と三橋さん。
季節商品について語っている間、三橋さんのたねや愛は溢れるばかり。
「秋は栗だけを贅沢に使った羊羹仕立ての栗月下がすごくおいしいんです。知り合いのマダムたちは1人1本召し上がりますよ。かぶりついた人もいるぐらい(笑)」とエピソードが止まりません。
店長の藤田さんもうれしいですと御礼を言いつつ、「京都のお菓子は華やかで雅なものが多いですけど、たねやは滋賀の素朴さ、優しい味わいが魅力かもしれません。素材1つ1つにこだわるので、このよもぎ餅のよもぎは自社の畑で無農薬で育てているんです」と説明。すると、三橋さんも「よもぎがおいしいんです。こういうところですよね。素材に対するこだわりがちゃんとある。だから、『たねや』のものだと、100%、お相手に喜んでもらえると言っても過言ではない」。
「essence of ANAYI(エッセンス オブ アナイ)」は、三橋さんがお店の前を通って気になっていたという婦人服のお店。“エレガンス”をテーマに、オートクチュールを彷彿とさせるツイードジャケットやドレスなどのオリジナルやインポートアイテム、ハイエンドブランドとコラボした限定アイテムなどがそろいます。
三橋さんは店内の洋服をチェックしながら、オシャレと身だしなみの違いについて教えてくれました。
「オシャレは自分の気持ちを高めるためで、身だしなみは人様に対して失礼のないようにと配慮すること。コーディネートを考える時ってどちらの要素もありますよね? 人それぞれでその割合が違うと思うんです。こちらのお洋服はその割合がほどよくて。身だしなみというエレガンスをきちんと捉えている印象があります。オードリー・ヘップバーンやグレース・ケリーのファッションのような60年代の空気があります」
三橋さんがおもむろに広げたスカーフには鮮やかな水辺の景色が描かれていました。「アナイは柄物が得意です」と店長の吉田かおりさん。その風景を見た三橋さんは「これはカンヌですね~」としたり顔。続けて、「行ったことないけど(笑)」とニヤリ顔。
「今は入卒の時期なので“Eternal Line”というオケージョンラインが人気。今年は久しぶりに春! って感じのカラフルな洋服が流行っています」と店長の吉田さんと話しながら、トレンドをチェック!
さらにフリンジのついたストールを見て、「フリンジの重みでドレープがきれいに出る」とディテールへの美意識の高さがうかがえます。
「これ、かわいい!」と三橋さんが見つけたのは、スター柄とカラフルな刺繍をあしらったシトラスのストール。ヨーロッパのセンスでインドの職人が丁寧に仕上げたもの。巻き方によって表情が変わり、吉田さんも「シンプルなTシャツやトレーナー、トレンチコートに巻いても」とおすすめ。
「気分はコート・ダジュールのサントロペ♡」と三橋さんも気に入ったようです。
随分と歩き回ったので、最後はゆっくり座って……と本館10階のレストランフロアに。訪れたのは、三橋さんが仕事終わりによく立ち寄る「青空blue」。自家製粉粗挽きうどんをメインに、旬の料理とお酒が楽しめるお店です。
三橋さんはお酒を召し上がりませんが、アテになる料理は大好き。いつものうどんや太巻寿司と一緒に、この日はちくわの天ぷらをオーダーしました。他にも、大山地鶏のさんしょう塩焼き おろしポン酢がけもよく頼むそう。自家製さつまあげやグリーンサラダもおいしいと教えてくれました。
店主の松井宏文さんは蕎麦の名店「土山人」で修業し、自家製粉のうどんという新境地を開拓したパイオニア。「こうしないと自分たちの好きな風味や甘みが出せない」と、店には製麵室を併設。全国の農家から仕入れた小麦の実を石臼で挽き、うどんを打ちます。
「おうどんとお蕎麦はどちらも好き。でも体調が悪いときや疲れているときはおうどんの方がすっと入りますね。『風邪ひいたら、おうどんを食べ』ってよく言われますけど、そういう食べやすさがあるのかもしれない」と三橋さん。
店主の松井さんによると、「冬場はしっかり噛んで食べるほうが体も温まるし風味もわかりやすい。でも夏は異常に暑いので喉ごしを楽しんでいただけるように細め」と、麺の太さは季節で変えているそう。
「これは私見ですけど、ものづくりにおいて、作り手の技術と忍耐がエレガンスを生むんだと思います。あざといところがないのはすごく大事なところ。食事でもメイクでもそう。隠し味はあるけど、隠し味が表面に出てくると品がなくなりますから」と三橋さん。
「割り箸1つとってもこだわりを感じる」と三橋さん。実は、割り箸は松井さんがいろんな種類を吟味したうえで奈良から取り寄せたもの。「しかし、それをひけらかさずに心地良い時間を演出している。こういうところが素敵なんです」
「青空blue」の空間、料理、サービスすべてにさりげない心地よさがある。それが通いたくなる理由だと、三橋さんはおいしそうに麺を啜っていました。
大阪府出身。1974年に美容師免許を取得後、美容室に勤務。1979年に独立し、フリーランスのヘアメイクアップアーティストとなる。1992年、ただし事務所を設立。これまでに手がけた仕事はファッション関係のみならず、雑誌やCM、ポスターなど多岐にわたる。またメイクアップの講演、講習、執筆も精力的に行い、テレビや雑誌にも出演。著書に『いつも心はシャンデリア きらめく乙女の処世術』がある。
※ソーシャルディスタンスに配慮しながら、写真撮影時のみ、マスクをはずして取材を行いました。
写真/竹田俊吾 取材・文/福山嵩朗 編集/蔵均 WEBデザイン/唯木友裕(Thaichi) 制作・編集/河邊里奈(EDIT LIFE)、松尾仁(EDIT LIFE)
大阪の第一線で活躍する方々と一緒に、生活を豊かにする視点、もの選びのコツに迫ります。館内の注目アイテム、心斎橋のお気に入りスポットをご紹介。心地よい暮らし、大阪のシビックプライドを求めて。
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