Professional's Eyes
スタイルのある暮らし
大阪の第一線で活躍する方々と一緒に、生活を豊かにする視点、もの選びのコツに迫ります。館内の注目アイテム、心斎橋のお気に入りスポットをご紹介。心地よい暮らし、大阪のシビックプライドを求めて。
ARCHIVES近年ではスマートフォンの使い方を高齢者に楽しく教える創作落語など、六代桂文枝一門らしい新作落語の作り手かつ演じ手として、とりわけ定評のある桂三四郎さん。師匠や先輩と生涯付き合う世界に生きるゆえ、進物探しのために百貨店を訪れることは珍しくないそう。2020年、「上方落語若手噺家グランプリ」で優勝した三四郎さんに、今回は大丸心斎橋店内にある落語との縁ある名店、さらに普段から愛用しているショップも改めて巡っていただきました。
※2022年5月をもって閉店いたしました。
三四郎さんがまず訪れたのは、いなりすし専門店「豆狸(まめだ)」。店名の“まめだ”は子だぬきを表す大阪ことばで、上方落語には同名の演目も。「子だぬきと歌舞伎役者のひょんな縁を描いた人情噺で。なんとなくしんみりとする優しいお噺。上方落語には秋の噺が少ないということで、落語作家の方が大阪の民話を基にお作りになって、米朝師匠に差しあげたものだと」
それも舞台は、道頓堀から三津寺界隈の大阪ミナミ。現在も劇場が点在する界隈では、「豆狸」のいなりすしが差し入れとして重宝されています。
「劇場へのケータリングとして並んでいることが多いですね。この大きさがいいんですよね。ちょっと軽く腹に入れて舞台へ、というときに2個くらい食べるのがちょうどいい。“まめだ”は大阪のことばですけど、お店の発祥も大阪なんですか?」と三四郎さん。
「百貨店の中のお寿司屋さんが、いなりすしだけで独立して生まれたお店なんです。創業して49年ほどになります」。そう話す店長の加藤さんに、「百貨店生まれって珍しいですよね!? だいたい、街の繁盛店へ百貨店のバイヤーさんが買いに来て、出店するっていう…」と、意外にも百貨店事情にお詳しい三四郎さん。
「『カンブリア宮殿』が好きで。百貨店のバイヤーさんって全国いろんなところを食べ歩きして名店や逸品を探すんですよね(笑)」
「豆狸」のいなりすしのなかでも、三四郎さんが特に好きなのがわさびいなり。上品な辛みある花わさび入りのごはんと、まろやかな甘みあるお揚げが相性抜群の一品。
「ピリ辛さがほどよくて。楽屋の人気者です」と三四郎さん。
たとえば、具材に金ゴマやシイタケ、かんぴょう入りの豆狸いなりはふっくらと甘いお揚げで包み、香り豊かな高知県産黄金生姜が入った生姜いなりには、(お味つけにも生姜を使った)きめ細やかなお揚げを使うなど、具材によってお揚げがすべて異なるのも専門店の「豆狸」ならでは。
豆狸いなりやわさびいなり、五目いなりなどの定番は、三四郎さんにとってなじみの味。一方、「桜と…、こんにゃく!?」と驚いたのは季節や期間限定で登場するいなりすし。
桜いなりは桜が咲く時期のみ販売。こんにゃくいなりは毎月20〜26日のみお目見えする限定品。さらに大丸心斎橋店のみで販売する“たこチビいなり(ソース味)”なる一品に、三四郎さんが反応。
「たこ焼きみたいに青のりがちょっと乗っていて!? ご飯にはたこと紅しょうが入り。これはなかなか斬新ですよ!(笑)」
こんにゃくいなりと入れ替わりで登場するアイテムゆえ、この日の対面は叶わず。いつか差し入れで届くときには、楽屋に朗らかな笑いが起こりそうです。
「差し入れでヴィタメールをいただくことがめちゃくちゃ多いんです。2回に1回はヴィタメール。お菓子屋さんはたくさんあるのに、なぜ? 僕ってヴィタメール感あります?(笑)」
「WITTAMER(ヴィタメール)」は、ベルギーはブリュッセル生まれのチョコレートの老舗。代表銘菓はベルギー伝統の技法で仕上げるフィリング入りのチョコレート。モールド(型)にチョコレートを流し込んで形を作り、中にガナッシュやジャンドイヤなどを詰め、さらに底となる部分にチョコレートを流して封じ込め型抜きした、造形まで美しい一口大のチョコレートです。
「そうそう、これこれ! 今までに何個食べたかわからんくらい(笑)」と三四郎さんが目を細めたのは、宝石のようなショコラ・ド・ヴィタメール。そして、カカオ本来の味わいを引き出した石畳型のパヴェ・ド・ショコラと、まろやかな美味しさのトリュフを詰め合わせたショコラ・グラン。
「ほんまに10年くらい食べてます。でも、この“ディアモン”は一度もお目にかかったことがないです」。三四郎さんの目線の先に整列するのは、スフィンクス風のショコラ。
「ひときわ異彩を放っていて、エジプト感がありますね(笑)。横にはピラミッド型のチョコもあるし」
ヴィタメール上級者の三四郎さんですが、まだ口にしたことのないチョコレートを続々発見。
「ここで作っているんですか?」と目をやった厨房では、パティシエがケーキを仕上げている真っ最中。「ケーキもあるんですか!? チョコレートしか知らなかった」と、新発見の連続に目を輝かせます。
「ケーキもおいしそう。これはてんとう虫をモチーフにしてあって可愛らしいですね。彩りもきれいで。ちなみに……」とショーケースを見渡し、「スフィンクスはないんですね」と、気になることをもれなく確認。
「いただいた差し入れをSNSに上げることもあるんですけど、やり過ぎたら催促してるみたいで(苦笑)。ヴィタメールはよく登場するから、それを見てくださった方がこういうお菓子が好きなのかな?と判断して持ってきてくれるのかな。値段を確認したことはなかったんですけど、なかなかの…! こんなにええチョコやったんやと。気合いを入れて買ってくださってるんですね。ありがたみを再確認しました」と三四郎さん。
フーシャピンクが映えるエレガントなヴィタメールと和装姿の三四郎さんは、一見似合わない。けれど、「出身は神戸で、小さい頃からお菓子がめっちゃ好きなんですよ」という言葉を聞いた瞬間、冒頭の謎がたちまち氷解した気分に。
続いては「ヴィタメール」から数歩の「黒船(くろふね)」へ。「進物でいつも使わせていただいています」と、三四郎さんが日頃から愛用している菓子店です。
「黒船さんのパッケージデザインもめっちゃいいんですよね。紙袋(流麗な書体のロゴ入り)のこの感じとか。高級感があるので、ええもんもうた!って気分になってもらえるかなって」
「黒船」は創業100年を超えるカステラの老舗、「長﨑堂」を母体とするブランド。そのルーツを大切に、主力のカステラのほか、どらやきやカステラを使ったスイーツなど、和洋問わず多彩なお菓子を揃えています。
「バウムクーヘンもよく購入するんですけど、このどらやきがめっちゃおいしいんですよね」と、まずは親しみのあるアイテムをチェック。黒糖入りのモチっとした食感の生地と、北海道産小豆を使ったスッキリとした甘さのあんこが好相性の黒船どらやきは、ブランドの代表アイテムの1つ。
間髪入れず店々を渡り歩いてきた三四郎さんは、ここで小休止。大丸心斎橋店の「黒船」には「QUOLOFUNE LAB.」と名付けられたイートインコーナーがあり、カステラを使ったオリジナルスイーツや、全国の店舗でもここだけというカステラを使ったシェイク「カステラキューシェイク」などが味わえます。
三四郎さんのチョイスは、あんこ&チョコレートソースを添えたMIRAIカステラ(650円)。MIRAIカステラとは、カステラに秘密のソースを染み込ませてオーブンで焼き上げたスイーツ。
「外はカリッとして、中はフレンチトーストっぽい。めちゃくちゃおいしい!」と、甘いもの好きらしい笑顔が溢れます。
三四郎さんが落語家を志したきっかけは、六代桂文枝師匠の創作落語に感銘を受けたことでした。「車の両輪みたいなもので、古典があって新作がある」と、現在は古典落語を守り演じながらも、才能を開花させるのが自身で創作から手掛ける新作落語。そこで、無謀な注文。百貨店で新作落語を作るなら?
「デパ地下が好きなのでデパ地下めぐりのお噺とか、バイヤーさんの買い付け物語とか。普段、百貨店に来るときはたいてい段取りを気にして買い物していて、いろんなものを見られていないというか。詰め合わせを選んで、熨斗を書いてもらって…ということだけを考えてしまって。今日は普段見えていない、いろんな部分が見えて楽しいです。百貨店で1本どころか、各店でお噺ができそう」と、さすが頼もしい新作落語のホープです。
「茅乃舎だしは超愛用しています。家でうどんをよく作るんですけど、1袋丸ごと使わずにパックを破ってちょっとずつ使う(笑)。それなりのお値段なのでしょっちゅう使えるわけじゃなくて」
「茅乃舎(かやのや)」は、1893年に福岡で醤油蔵として産声を上げた久原本家によるだしブランド。大学時代を福岡で過ごしたという三四郎さんにとっては、いっそう親しみを感じる一軒です。
三四郎さんが愛用する茅乃舎だしは一番人気の看板商品。焼きあご、かつお節、うるめいわし、真昆布の4つの素材を粉末にし、海塩を加えただしパックです。
「大阪限定のものもあるんですね!」と、三四郎さんが取り上げたのは大阪の3店舗でのみ販売の大阪限定 茅乃舎合わせだし。
「こちらは、甘みのある枯れさば節が入っていて、大阪のおうどんのおつゆのような少し甘みがあるおだしです」と、店長の宮川志保さん。
いつもは茅乃舎だしを目掛けて来店するという三四郎さんですが、この日は違います。商品を一つ一つ確かめるように、じっくりと店内を歩きます。生姜やかしわ飯などごはんに混ぜるだけの御飯の素シリーズや、あまおうや巨峰、梅などさまざまな果実で作られた飲む酢、瓶詰め&濃縮タイプの白だし。
「こんなにいろいろあんねや。散々使っているのに!」。茅乃舎だし愛用中の三四郎さんに、次に使っていただくなら? 宮川さんに訊ねると、案内してくれたのは野菜だし。
「こちらは洋風のお料理に使っていただけるコンソメ風のおだしです。パスタのスープとして使っていただいてもおいしいですし、パックを破ってチャーハンの味付けに使っていただいても」と店長の宮川さん。
野菜だしは味わったことがない三四郎さん。気になるその味を確かめるべく、店内の試飲コーナーへ。「茅乃舎」では気になるだし製品を、もれなく試飲、飲み比べすることができます。
まずは親しみ深い茅乃舎だしを味わう三四郎さん。「あぁ、おいしい。めちゃくちゃおいしい」。しみじみと旨みを噛みしめつつ、「家ではこんなに濃くできるほど贅沢使いしていないと思います」とも。
一方、初体験の野菜だしを一口含むと、「わ、ほんとに洋風ですね。飲んでるだけで春キャベツをベーコンと一緒に煮込んで…って想像が付きますね」と、お料理好きの一面がこぼれます。
「どちらもほんとにおいしい。お見事です!」。「茅乃舎」の“至芸”に触れ、三四郎さんの「茅乃舎」愛はいっそう深まったかのようです。
古典落語には『寄合酒』や『上燗屋』など数々の酒噺がありますが、三四郎さんが手掛ける新作の中にも焼酎やワインを題材にしたものがあり、落語とお酒はいつの世も縁深いもの。自身もお酒好きという三四郎さんが、続いてはお気に入りの酒器を探しに「能作(のうさく)」へ。
「能作」は1916年に富山県高岡市で創業された鋳物メーカー。「家でお酒を飲む時もそうなんですけど、たとえばちょっといいお寿司屋さんへ行くと、うつわもこだわっているところが多くて。能作さんに来るのは初めてなんですけど、酒器のことをいろいろ教えていただけたらなと思って」と、三四郎さん。
スタッフの福田みゆきさんがまず案内してくださったのは、「能作」が強みとする錫100%の酒器が揃う一角。「錫のうつわは、お酒の雑味を取り除いて、まろやかな味わいにするといわれています。金箔を施したものはお酒が錫に直接触れないので、お酒そのものの味わいが楽しめる。錫は熱伝導性に優れていて、冷酒を入れるとうつわもすぐに冷えておいしく味わえます」と福田さん。
コロンとしたフォルムがかわいい小さなうつわを手にした三四郎さん。「思った以上にしっかりした感触で、重みもずっしり。これなら口へ運ぶ動作がゆっくりになって、上品に飲めそう」
「タンブラーも形がすごくいいですね」と続いて手に取ったのは、微細な凹凸のある鋳肌が特徴のビアカップ。その独特な鋳肌により、ビールの泡立ちがクリーミーに。隣には材質・形状ともに同じで、木肌をイメージした鋳肌のものも。
「そうか。うつわによって味わいが変わるなら、お酒を飲む楽しみが増えますね」と三四郎さん。
「能作」は酒器以外にも、錫の特性を生かしたテーブルウェアやホームアクセサリーを多数取り揃えています。中でも世界を驚かせたのがKAGOシリーズ。純度100%の錫は柔軟性があり、金属ながら手で簡単に変形できる。そんな特性を生かしたアイテムで、最初は鍋敷きのように平面的なオブジェなのですが…。「思いっきり引き上げてみてください」という福田さんの言葉に、「ほんまに!? ブチっていかへん?」と半信半疑で力を込めた三四郎さん。すると形はみるみる変わり、すぐさまフルーツを盛りたくなるようなカゴが出現。
「すごい、こんなに動くんや! 形をいろいろ変えられるのもいいですね」と、小さな興奮を味わった三四郎さん。
スイーツであれうつわであれ、三四郎さんは未知なるものへの関心が強い。「知らないものを知ることはやっぱり楽しいですよね。興味が湧いてくるし、知るということが好き」。何度も通う店でも、見方によって発見はあるもの。そんなあたり前を三四郎さんに教えていただいた気がします。
2004年、桂三枝(現・六代桂文枝)に入門。2011年より東京を拠点に全国の大小さまざまな会場、さらには海外まで、精力的に活動の幅を広げる。2020年、「上方落語若手噺家グランプリ」優勝。コロナ禍には自身のYouTubeチャンネル「桂三四郎撮影処」で2週に1度、書き下ろしの創作落語を披露するなど果敢な挑戦も。2021年4月30日(金)、大阪・天満天神繁昌亭での『春の六代文枝一門会』、6月14日(月)〜20日(日)は同じく繁昌亭の昼席に出演予定。桂さんの公式HPはこちらから。
※ソーシャルディスタンスに配慮しながら、写真撮影時のみ、マスクをはずして取材を行いました。
写真/西島渚 取材・文/村田恵里佳 編集/蔵均 WEBデザイン/唯木友裕(Thaichi) 制作・編集/河邊里奈(EDIT LIFE)、松尾仁(EDIT LIFE)
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