DELIGHT EYES
暮らしとともにSDGs
生活スタイルをアップデート
人にも環境にもいいカタチが生まれる背景には、美しい未来のビジョンが存在します。これからの時代のグッドデザインとは? SDGsにも繋がる“都市養蜂”とは? 生活をアップデートするヒントを求めて。
ARCHIVES近年、世界のキーワードになっている「SDGs」は国連が定める持続可能な開発のための国際目標のこと。これからの時代は、ものを選ぶときにもSDGsの視点が大事になってきそうです。たとえばある商品を買うことで自然環境が保全されたり、農場で働く人たちの労働環境が良くなったり……。今回、DELIGHT JOURNALではSDGsフレンドリーな商品のバックストーリーをご紹介します。
※この記事の内容は2021年3月30日に公開された時点のものです。Parley for the Oceansのトートバッグ各種、スキットル 折りたたみストロー各種、Vans and MoMAのアイテム各種に関しまして、心斎橋ストアでのお取り扱いを終了しました。
この春から大丸心斎橋店本館4階の「MoMA Design Store(モマ デザインストア)」に登場したのが、海洋保護団体Parley for the Oceans(パーレイ フォー ジ オーシャンズ*以下パーレイ)が手がける海洋プラスチックをアップサイクルしたトートバッグ。MoMA(ニューヨーク近代美術館)コレクション収蔵アーティストの作品が描かれていて、日本初上陸の注目アイテムです。
昨年7月から始まった「レジ袋の有料化」によってエコバッグを持ち歩くことが習慣化してきましたが、エコバッグを選ぶ基準として環境に配慮された素材を求める人が増えています。今回、ご紹介するトートバッグは海の環境保護に貢献できるアイテム。「MoMA Design Store」の瀧本麻子さんにパーレイのトートバッグや「MoMA Design Store」で取り扱っているSDGsフレンドリーな商品についてお話を伺いました。
「海洋保護団体のパーレイは、海洋プラスチックによる海の汚染をなくし、美しい海を守る活動をしている環境保護団体です。2012年にデザイナーやアーティストなどが集まるコミュニティから自発的に生まれ、ビーチでプラスチックゴミを回収する活動を広めています。持続可能な活動にするためには利益を生み出す必要がありますよね。それで、海洋ゴミをリサイクルして作るオーシャンプラスチックの素材を開発したんです」
世界の海には既に1億5000万トンのプラスチックゴミが存在し、年間800万トンのペースで増えていると言われています。そしてその約8割は、使い捨てのペットボトルやレジ袋、発砲スチロール、漁網など、陸上で生産されたもの。海の生物が傷つけられたり、餌と間違って食べてしまったり、海の生態系に大きな影響を与えています。パーレイはその問題を解決するために、ビーチクリーン活動で回収した海洋ゴミを粉砕し、繊維として生まれ変わらせる独自技術を開発しました。
「今回、販売するトートバッグにはペットボトル5本分のオーシャンプラスチックが使われています。そしてバッグを1つ購入いただくと約9キロの新しい海洋ゴミを回収する資金に繋がる仕組みになっています。ちなみに今回のバッグはモルディブで回収された海洋ゴミから繊維が作られました」
日本初上陸のトートバッグですが、ニューヨークのMoMAでは2019年にこのシリーズの販売を開始しました。
「6月8日は国連が定める世界海洋DAY。その日に向けてパーレイのチームはいろんなアーティストとコラボレーションしてトートバッグを製作していたんです。その中にMoMAコレクション収蔵アーティストも参加していたため、ぜひニューヨークの『MoMA Design Store』でも取り扱わせてくださいと。通りに面したウィンドウにはバッグと海洋プラスチックゴミを展示して、大規模なPOP UPイベントを開催。また、店内ではオーシャンプラスチックができるまでの工程も紹介しました。今回、大丸心斎橋店の『MoMA Design Store』でもお店の1コーナーを使ってその工程を紹介する予定です」
2019年のPOP UPイベントは、環境問題に意識の高いニューヨーカーたちの注目を集め、このトートバッグも一躍人気商品に。コラボレーションしているMoMA収蔵作家の5名はどんな作品を手がけているのでしょうか。
「海洋汚染に対して深い信念を持っているアーティストのウォルトン・フォードや、『サーフペインティング』シリーズで知られる映像作家のジュリアン・シュナーベル、パーレイとコラボして水中彫刻を手がけた現代美術家のダグ・エイケンなど、海に情熱を注いでいるアーティストが参加しています。ニューヨークのMoMAチームもこの企画に参加することを喜んでいましたが、私たち日本チームも、初上陸を迎えることができてとても嬉しいです」
MoMAの歴史のはじまりは1929年にまで遡ります。リリー・ブリス、メリー・サリヴァン、アヴィ・ロックフェラーという3人の女性のプライヴェート・コレクションを基盤に設立されました。モダンコンテンポラリーアートをテーマに収蔵された作品数は現在では20万点以上。絵画、彫刻、写真、建築、デザインだけでなく、映画やビデオ、そして、「まだ発達しておらず理解されていない視覚的表現のすべて」をモダンアートと位置付けているのが特徴です。
「MoMAのキュレーターは、美しいデザインはもちろん、時代を反映しているかという視点も大事にしています。例えば『パックマン』や『スペースインベーダー』がMoMAのコレクションに入ったときには、ゲームをミュージアムの永久収蔵品にするのか、という声もあったんです。でもキュレーターがセレクトした理由は完成されたデザインというだけでなく、ゲームと人間のインタラクティブな関係性に新しい一歩を踏み出した、ワクワクさせて楽しませるという意味で人の心もデザインした、そして、スティックを操作する動作もデザインした。そういう概念でグッドデザインを定義したのだと語っていました。『MoMA Design Store』でも時代にあったデザインを大切にしていて、SDGsを意識して商品をセレクトすることも増えましたね」
パーレイのトートバッグは、SDGsの「GOAL 14:海の豊かさを守ろう」に通じるアイテムですが、「MoMA Design Store」では、ほかにどのようなSDGsフレンドリーなアイテムがあるのでしょうか。
「何度も使えるみつろうラップ『aco wrap ビーズワックスラップ』や、ルンドの折りたたみ式のストローは人気ですね。あと、使い捨ての割り箸を減らすために開発されたスガキヤのラーメンフォークはニューヨークでも評判になっています。ほかにも落とし物を追跡してくれるBluetoothロケーターの海洋プラスチックを使ったモデルや、バスキアのグラフィティが印刷されたドイツのエコバッグなどもショップで人気のアイテムですね」
レジ袋やラップ、ストローなどの使い捨てを減らし、「脱プラ」を目指す世界的な流れは、海の環境保全や気候変動対策に繋がります。SDGsには17のゴールが設定されていますが、その商品がどの目標に貢献できるのかを知ると、SDGsをより身近に感じられるかもしれません。「脱プラ」のアイテムだと、「GOAL 12:つくる責任 つかう責任」「GOAL 13:気候変動に具体的な対策を」「GOAL 14:海の豊かさを守ろう」の3つの目標達成に貢献することになります。
2019年にリニューアルオープンしたMoMAの展示を見ていると、「ナラティブ=ひとりひとりが主体となって語るストーリー」というテーマもこれからのキーワードになってきそうです。女性、黒人、ラテンアメリカ、中国、身体といったテーマで、美術史の新定番になっている「ナラティブ」の視点を伝えながら、これまでに収蔵してきたジェフ・クーンズやシンディー・シャーマンなどの著名アーティストの作品もその文脈に組み込まれました。
「ニューヨークのMoMAではリニューアルにあたって20万点以上あるコレクションを再構築して展示していて、時代ごとに革新を遂げたアーティストの作品をクローズアップしました。これまであまりアートと関わりのなかった国のアーティストのエキシビションもたくさん開催しています。また、昨年、「MoMA Design Store」でVANSとコラボレーションしたスニーカーでは、ダリやモネと並んで、アフリカン系女性アーティストでアクティビストであるフェイス・リングゴールドの作品がフォーカスされました。世界の様々な国に目を向けることや、女性のエンパワーメントの視点でもSDGsと繋がりますよね」
人種差別や社会的不正などの問題を浮き彫りにするフェイス・リングゴールドの作品は、いま、改めて注目されています。VANSとのコラボでは、フェミニズムポスター作品である『Woman Free Yourself』を左足に、アンジェラ・デイヴィス逮捕当時の響きが込められた『Woman Freedom Now』を右足に表現(定番スタイルのスニーカーERA)。また、彼女の最初の抽象化シリーズ作品である『The Windows of the Wedding』からインスピレーションを受けて製作されたスリッポンには、「私の母親は、半分の成果を収めるために他の人よりも2倍努力すると述べた」というリングゴールドの手書きによる一節が表現されました。
SDGsの「GOAL 5 :ジェンダー平等を実現しよう」「GOAL 10:人や国の不平等をなくそう」という社会的な課題を、アートやデザインを通して広めていくMoMAのスタイルも、いまの時代にふさわしいデザインと言えるのかもしれません。気候変動や社会問題は、地球に暮らす、すべての人たちにとっての課題。日用品を選ぶ時に、地球に優しいものという新しい視点を取り入れることが、これからの時代のスタンダードになってきそうです。「MoMA Design Store」で、アートを日常に取り入れる楽しみと、サステナブルなものを選ぶ責任、新時代の買い物のスタイルを考えてみてはいかがでしょうか。
※この記事の内容は2021年3月30日に公開された時点のものです。Parley for the Oceansのトートバッグ各種、スキットル 折りたたみストロー各種、Vans and MoMAのアイテム各種に関しまして、心斎橋ストアでのお取り扱いを終了しました。
取材・文/宮原沙紀 WEBデザイン/唯木友裕(Thaichi) 制作・編集/河邊里奈(EDIT LIFE)、松尾仁(EDIT LIFE) 写真・動画協力/MoMA Design Store、Parley for the Oceans
※別ウィンドウで開きます
人にも環境にもいいカタチが生まれる背景には、美しい未来のビジョンが存在します。これからの時代のグッドデザインとは? SDGsにも繋がる“都市養蜂”とは? 生活をアップデートするヒントを求めて。
ARCHIVESDELIGHT EYES
DELIGHT EYES