DELIGHT EYES
暮らしとともにSDGs
生活スタイルをアップデート
人にも環境にもいいカタチが生まれる背景には、美しい未来のビジョンが存在します。これからの時代のグッドデザインとは? SDGsにも繋がる“都市養蜂”とは? 生活をアップデートするヒントを求めて。
ARCHIVES2015年に国連サミットで採択された持続可能な開発目標「SDGs」。最近では日本でも浸透し、さまざまな場面でその視点が重要視されています。今や当たり前に世界共通の目標となったSDGsですが、もう数十年も前からその精神のもとに作られているタオルがあります。今回は、大阪・泉州産のタオルにスポットを当てて、ものづくりの現場を訪れました。
大丸心斎橋店本館8階にある「綱具屋」は、陶器や磁器のうつわを中心に、生活雑貨を幅広く揃えるセレクトショップ。大丸心斎橋店の2019年リニューアルオープン時に、全国で初めて開店したこのショップの立ち上げから携わっていたのが太田晴香さんです。
「このタオル使ってみてください! 心から、誰にでも、おすすめできるタオルなんです!」
そう言って太田さんが「DELIGHT JOURNAL」編集部に熱く推してくれたのが、「綱具屋」で販売されている「SLOW ORGANICS」と「Calme」のタオル。テキスタイル専門商社のスタイレム瀧定大阪が扱うアイテムです。
この2つのブランドは、愛媛の今治と並んで全国でも有数のタオルの産地、大阪南部の泉州地域で作られたもの。スタイレム瀧定大阪が、色柄訴求だけではなく、使い心地を重視したタオルを生み出そうと、2016年に「SLOW ORGANICS」、2019年にはより上質なシリーズとして「Calme」を発売しました。
「綱具屋」の太田さんの熱意に押されて(?)、「SLOW ORGANICS」と「Calme」のタオルを使ってみました。「SLOW ORGANICS」は薄手で軽く、「Calme」はより厚手でフワフワと上質感があります。どちらも肌触りのなめらかさを実感できます。この2つのブランドのタオルは、大阪の泉佐野市にあるツバメタオルで作られていますが、ツバメタオルは、GOTS(オーガニックテキスタイル世界基準)に認定されたオーガニックコットンを使用しています。
GOTSは、「繊維製品が正しくオーガニックである」という世界的なルールを定めるために制定されたものです。ツバメタオルは、世界基準のオーガニックテキスタイルを生み出すために、どのようなものづくりがされているのか? ツバメタオルとその提携会社・ダイワタオルを訪れました。
ツバメタオルは、100年以上の歴史を持つ泉州タオルの中でも中心的な存在の会社。28台の織機を24時間稼働させて、1日約70,000枚のタオルを生み出します。このタオルづくりの中で、「後晒し(あとざらし)」というとても重要な工程を請け負うのがダイワタオルです。
SDGsは、2015年に国連サミットで採択された17の目標ですが、ツバメタオルやダイワタオルでは、それよりもっと以前から、SDGsの目標にシンクロするようなタオルづくりをしています。
例えば両社の工場では、ソーラーパネルを設置し太陽光発電を利用しています。ツバメタオルでは、1日約70,000枚のタオルを織りますが、そのうち約25,000枚ぐらいは太陽光発電の電力でまかなえるそうです。
また、ダイワタオルの敷地内には、びっくりするほど大きな浄水場があります。ここでは、8つのプールでバクテリアが有害物を分解し、不純物を取り除いたきれいな水を、すぐ隣りを流れる樫井川に放流。これも環境保護に配慮した施設です。
SDGsフレンドリーなタオルづくりの実際を知るために、まずはツバメタオルの工場を訪れます。ツバメタオルで人と環境にやさしいタオルづくりを始めたのは、先代社長(現会長)の重里豊彦さんの娘さんがアトピーを患っていたことから、「タオルは毎日肌に触れるものだから、何かできないか」と考えたからだそうです。
そこから生まれたのが有機精練という製法です。タオルづくりは、まず糸を織りやすくするために糊づけするサイジングと呼ばれる工程から始まりますが、この時の糊を化学薬品を使った糊ではなく、ジャガイモ由来の天然糊に変えたのです。
「われわれの工場を訪れると綿ぼこりの多さにびっくりされると思いますが、これは化学糊よりも粘着力が弱い天然糊を使っているからなんです。天然糊だと、サイジングするのにお金も時間もかかるんですが、化学薬品を使いたくないという想いでやっております」と谷社長。
そして、ツバメタオルの製品の大きな特徴は、GOTS認証を得たオーガニックコットン綿糸を使っているということ。世界的な綿花の産地、インドのコインバートル地方のオーガニックコットン農場の栽培農家と直接取引きをしています。
「実際に現地のコットン畑に訪れた時は、蜘蛛やアブラムシなどたくさんの虫にびっくりしました。そりゃそうですよね、農薬を全く使っていないわけですから。アメリカなどの大規模農場では、枯葉剤をまいて機械で大量に刈りとるので、開ききってない未熟綿なども混ざることもあるのですが、インドのこの農場では、一つ一つ手摘みしています。だから高品質なオーガニックコットンがとれる」
インドへ赴き工場を設立した谷社長は、現地の様子をこのように語ってくれました。
良質なオーガニックコットンが、どのようにタオルへと生まれ変わるのか、ツバメタオルの工場を見学させてもらいました。
ジャガイモ由来の糊でサイジングされた糸は、まずビームと呼ばれる大きな棒状の器具に巻かれます。かつて播州織の産地・西脇の工場で見た織機のビームは1つでしたが、ツバメタオルでは織機にビームが2つ設置されていました。
「下にあるビームに巻かれた糸は、通常の織物と同じように経(たて)糸と緯(よこ)糸になりますが、もう一つのビームに巻かれた糸からはパイルが作られるんです」と鍋田さん。
経糸と緯糸に加えて、ループ状になっているパイルがあるのが、吸水性が大切なタオル地の特徴と言えるでしょう。ツバメタオルの織機は、タオル専門の織機になります。
ツバメタオルで織られたタオルは、染色、漂白するために、ダイワタオルに運ばれていきます。多い時には、1日にトラックで4、5回も運ばれるそうです。
泉州タオルにとって、とても重要で特徴的な工程が「後晒し(あとざらし)」です。ダイワタオルでは、この後晒しについて、詳しく教えていただきます。
ダイワタオルの顧問を務める北川晃三さんは、入社して48年というタオルづくりのプロ中のプロ。昭和62(1987)年に東北地方のヒバからとれる成分で抗菌加工タオルを開発するなど、数十年も前から人にやさしい、環境にやさしい商品やシステムを手がけてきました。
中でも、有機精練へとつながる精練方法を可能にするシステムを生み出したのは、第2次オイルショックで石油が輸入されなくなった時です。エネルギーがなくボイラーが炊けなくなり、何か方法がないかと模索した北川さんは、石油を使わずに、工場内で発生する蒸気を循環させながら精練するシステムを開発しました。
精練というのは、サイジングで糸についた糊や汚れを落とすこと。そしてこの工程が、泉州タオル独特の製法である「後晒し」とつながってきます。例えば今治のタオルは「先晒し」で、糸を織る前に精練漂白や染色を行い、糊をつけて織り上げると完成。糊はついたまま商品となります。一方後晒しは、織ってから糊や汚れを洗い流すことで、より吸水性が高まります。
有機精練は、サイジングの際に天然糊を使います。この糊や汚れを後晒しで落とすために、ダイワタオルでは耐熱型アミラーゼ酵素を使います。
「通常の化学糊だと、強アルカリ性の苛性ソーダなどを使って90℃で60分かけて精練します。これが生地に不純物として残り、皮膚に触れると影響がある場合があります。でも耐熱型アミラーゼ酵素なら人畜無害。人にやさしい加工なんです」と北川顧問。
精練をしている部屋を訪れると、以前酒蔵で見た麹室(こうじむろ)という高温多湿な部屋を思い起こさせました。
「そうですね、酒蔵や醤油蔵と似てるかもしれません。各部署で発生した蒸気をパイプで循環させてこの部屋に持ってくる。タオルを入れた水槽にアミラーゼ酵素を入れて、18時間寝かせておくと、アミラーゼがデンプンを食べてくれる」と神藤さん。
第2次オイルショックの時に、北川顧問が苦心して構築した蒸気を循環させるシステム。日本環境協会エコマーク事務局の方が工場を訪れた時に、「この設備そのものがエコマークですね」と口にしたというエピソードにも納得です。
糊を落とした後は、洗いの作業に入ります。水とお湯で洗ってすすぐという流れを繰り返します。そうやって後晒しされたタオルが、さらに漂白されたり染色されたりします。
「毎日14、15トンのタオルを乾かしています。バスタオルで25万枚ぐらいかな。温度を上げれば上げるほど白さも上がるし、余分なものが落ちるから吸水もよくなる。ここの乾燥機は、熱風乾燥機、シリンダー乾燥機、タンブラー乾燥機の3種類を使っています」
タオルの風合いをよくするためには、乾燥も大事だという神藤工場長。どの乾燥機も140℃の熱風で乾かされます。高温で乾かすことで糸本来のやわらかさが出るそうで、触ってみるとあったかく、ふかふかの手触りです。
「焼きたてのパンみたいなもんやな(笑)」と北川顧問。
ツバメタオルとダイワタオルの工場を巡り、お話を聞くと、あらゆる工程で、SDGsの「GOAL12: つくる責任、つかう責任」を意識してタオルづくりが行われていることを実感しました。提携しているインドの農場で綿づくりに携わる人々のために「GOAL8: 働きがいも経済成長も」の機会を作り、「GOAL7: エネルギーをみんなに、そしてクリーンに」するために、太陽光発電を利用、石油を使わない精練システムを構築しています。
ダイワタオルの大きな浄水施設から樫井川に放流された水は、大阪湾、その先は瀬戸内海まで流れ込みます。廃水を放流するには、環境保護のためにいくつかの規制があります。瀬戸内海は国立公園もあり内海で海流がたまりやすく規制が厳しいのですが、ダイワタオルはその規制をクリア。「GOAL14:海の豊かさを守ろう」に大きく貢献しています。
数十年も前から、できるだけ環境に、人にやさしいタオルづくりを目指してきたツバメタオルとダイワタオル。風呂上がりに「SLOW ORGANICS」と「Calme」のバスタオルで体を拭いた時のなめらかな肌触りには、そんな想いが込められていると思うと、ずっと大切に使いたくなります。
※この記事の内容は2021年3月30日に公開された時点のものです。
写真/竹田俊吾 取材・文/蔵均 WEBデザイン/唯木友裕(Thaichi) 制作・編集/河邊里奈(EDIT LIFE)、松尾仁(EDIT LIFE)
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