Professional's Eyes
スタイルのある暮らし
大阪の第一線で活躍する方々と一緒に、生活を豊かにする視点、もの選びのコツに迫ります。館内の注目アイテム、心斎橋のお気に入りスポットをご紹介。心地よい暮らし、大阪のシビックプライドを求めて。
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京都を拠点に活動する現代美術家の笹岡由梨子さん。大学在学中より国内外のグループ展や滞在制作で作品を発表し、数々の賞を受賞する注目のアーティストです。普段はスタジオにこもって作品制作に没頭している笹岡さんが、新たな刺激を求めて大丸心斎橋店へおでかけ。果たして、心を揺さぶられるものはあったのでしょうか。
笹岡さんがまずやってきたのは本館9階にある「JUMP SHOP(ジャンプショップ)」。『ONE PIECE』や『僕のヒーローアカデミア』、『呪術廻戦』など「週刊少年ジャンプ」に連載中の人気作品をはじめとしたキャラクターグッズを販売する集英社のオフィシャルショップです。
「昔から『DRAGON BALL』が好きで」と笹岡さんのお目当ては決まっている模様。では、早速のぞいてみましょう。
店長の金山明姫さんと挨拶をかわすやいなや、バッグから手帳を取り出す笹岡さん。「これを見ると勇気がもらえる」と手帳の表紙には『DRAGON BALL』のシールが一面に貼られていました。いきなりの愛の告白に驚くと思いきや、金山さんも「見るだけでテンション上がりますよね! めちゃくちゃわかります!」と共感。
好きなキャラクターは?と聞くと? 「餃子(チャオズ)。あとセルもかっこいい! 『DRAGON BALL』のキャラクターはみんなオシャレ」と笹岡さんの想いは止まりません。
『DRAGON BALL』のコーナーには孫悟空が飛び出て見える3D下敷き、ライブや映画の半券を保管できるチケットファイルなど、笹岡さんが子どもの頃にはなかった商品がそこかしこに。
孫悟空のイラストを眺め、「鳥山明さんの人体デッサンって筋肉の描き方、立体感がものすごく上手で、マンガを見ていても動いている感じがする」と笹岡さん。
店長の金山さんいわく、「鳥山先生のイラストは時代によって少しずつ変わっています。昔はザ・男の画! という感じでしたが、今はややマイルドにキャラっぽくなって。昔から『DRAGON BALL』が好きな方は男っぽいテイストを好まれますね」
ちなみに、グッズは今と昔の両方のバージョンがあるので、ぜひ店頭で見比べてみてはいかがでしょうか。
笹岡さんと『DRAGON BALL』の出会いは小学生の頃、テレビアニメがきっかけ。「当時、友達の間では『DRAGON BALL』派か『美少女戦士セーラームーン』派かに分かれていて、ウチは断然『DRAGON BALL』派でした。闘いが常にストイックだったから」
「なるほど~、へぇ、こんなのもあるのかぁ……」と、1つ1つの商品を丁寧に見て回っていた笹岡さんの心を一瞬にして奪ったのは「フリーザ様♡」でした。ぷにぷにした触り心地が気持ちいいフリーザのジェルビーズキーホルダーは「自転車につけたい! ウチのすっぴんもこんな感じ。似とる。てことはウチも戦闘力高めかも(笑)」と興奮。
フリーザは女性客から「かわいい!」という声が多く、「ジャンプショップ」としてもフリーザグッズを絶賛増量中。ぬいぐるみから名刺ケースまでストックされていました。
続いて金山さんが案内してくれたのは『ONE PIECE』コーナー。
「数々の人気作品を生み出している「週刊少年ジャンプ」ですが、その中でも『ONE PIECE』はずっと手元に置いておきたいマンガだなと思います」と金山さん。
作品によってグッズの内容も異なるようで、『ONE PIECE』はマスクケースやハンドジェル、リップクリームなど実用性の高いものが充実していました。
笹岡さんの作品には自画像が多く登場します。
「実は自画像を描くとき、無意識のうちに鳥山明さんっぽい作画になっているんです。等身が近くて、戦士みたいな感じに。鳥山さんの方が全然うまいから失礼な話だけど、勝手にシンパシーを感じています」
心の奥底にある熱狂の記憶は、無意識のうちに作風に影響を与えていたようです。
「ジャンプショップ」で内に秘めたる少年性を垣間見せた笹岡さんですが、今度は打って変わって、麗しのレディモード。ドイツ・シュニール織の名門ブランド「FEILER(フェイラー)」にやってきました。
こちらはハンカチやエプロン、バッグ、ポーチなどオリジナル商品を幅広く展開。一目見れば「フェイラー」だとわかる美しい発色と上質な風合いが印象的です。
高校生のとき母親に買ってもらって以来、笹岡さんにとって「フェイラー」のハンカチは身だしなみに欠かせないアイテムになっています。デザインはもちろん、厚みのあるソフトな質感と吸水性、繰り返し洗濯しても毛羽立ちにくい丈夫さも魅力で、「ハンカチは20年使われる方もいます」と店長の畠中瞳さん。
「かわいいのを見つけたら衝動買いしちゃいます」と笹岡さん。今は「フェイラー」のハンカチを10枚ほどコレクションしています。お気に入りは童話の名場面を絵柄にしたおとぎ話シリーズ。
「まるで1枚の絵のように美しくて飾りたくなります」
もうどれを見ても「かわいい!」と思う、フェイラー無双状態に入ってしまった笹岡さん。「フェイラー」のどこに惹かれるのかをうかがうと、「ちょっと懐かしい感じです。外国のおばあちゃん家みたいな温かさがあるんですよね」と説明。
ハンカチコーナーで笹岡さんが「色めっちゃいい! 今日の服装に合いそう」と見つけたのはパンダや万里の長城など中国の名物が散りばめられた“ワールドトリップ”という国別シリーズのハンカチ。ビビビと来たようで「私、記念に買います」と即決していました。
「フェイラー」でお気に入りのハンカチを見つけた後はちょっとひと息。本館5階の「SALON de thé VORIES(サロン ド テ ヴォーリズ)」でコーヒーブレイクです。ここで笹岡さんが絵を描き始めた経緯や作品制作のモチベーションについてうかがいました。
フルーツあんみつを頬張る笹岡さんにまずうかがったのは、アートの道に進んだきっかけについて。それは笹岡さんが高校2年生のときでした。
「当時、上履きに絵を描くのが学校で流行っていて、友達の上履きにその子の似顔絵を描いたら、その子がショックを受けて泣いたんです。似顔絵って顔の特徴を誇張して描くのでそれが原因だったと思うんですけど……」
人を泣かせるってよっぽどのこと。もしかしたらそれだけ人の心を動かす何かが絵にあるのかも。笹岡さんはそう思い始め、英語の先生から「あなたは絵の才能がある。美大を目指すのはどうか」と薦められたこともあり、美大への進学を決意したといいます。
その後、大学在学中から現代美術家として頭角を現し、作品をコンスタントに発表している笹岡さん。気になるのはそのアイデアの源。一体どういうところから生まれるのでしょうか。
「作品のイメージはストレスがたまったときに湧くことが多いです。昔から嫌だなと思う人がいたら、その人の似顔絵をすごく嫌な感じに描くようにしているんです。すると実際に会ったらそんな嫌な顔はしてなくて(笑)。恐怖やネガティブな感情を克服するために、小さい頃からそういう絵を描いて解決してきました。絵にすると頭のこんがらがっている部分が整理される。その人の内側にある、理解できる部分を見つけることができたので。作品も、自分が抱えているストレスをかわいいものに変換したいと思ってイメージを湧かせています。だから作品が完成したらストレスが全部解消しているんです!」
つまり、笹岡さんにとって作品制作=問題解決の手段であり、それが多くの人に共感してもらえたということ。
「人間ってたくさんのタイプがあるように思いますが、大体同じ行動をするもので。私が嫌だと思うことはみんなも嫌だと思ってることが多いんじゃないかな」と話します。
「久しぶりに素敵なうつわでコーヒーを飲みました。こんなに幸せを感じられるんですね」と心身ともにほぐれたようです。
今年はポーランドで個展を開催。ロシアのグループ展にも参加予定の笹岡さん。海外で初めて滞在制作を行ったのもマケドニアと、東欧諸国に何かしらの縁があるようで……。
「マケドニアに行ったのはマザーテレサについて調べるためでしたけど、東ヨーロッパの田舎には土着の文化が残っていて、面白い人や物と出会えたんです。そこから縁があって、ポーランドやロシアに行く予定ができたので“呼ばれている”感じですね」
余談ですが、笹岡さんがアディダスの洋服を着ているのは、ロシアの“ヤンキー”にインスパイアされたからだとか。1980年のモスクワ五輪のとき、社会主義国だったソ連がアディダスとユニフォーム契約を結び、それまでのダサいユニフォームから一変。アスリートの活躍を見ていた国民の間でアディダスのジャージが大人気になったといいます。
「現地のヤンキーの一張羅はアディダスのジャージ。見た目はコワモテ、でもジャージをパンツインするのが愛らしい」と笹岡さんは心をつかまれたそうです。
人生の半分を占める睡眠に興味があるという笹岡さんが続いて訪れたのは、創業455年の西川が手がける快眠寝具コンサルティングショップ「日本橋西川」です。常駐するスリープマスターが眠りに対する悩みをヒアリングし、それぞれに合った寝具を提案します。
スリープマスターの池田真由美さんによると、心地よい睡眠は寝具、本人の習慣、部屋の環境が関係するそうです。笹岡さんの悩みはズバリ、枕!
「朝起きたら首が枕から落ちて、変な姿勢で寝てるんです。枕が合ってないのかな?」と困り顔。笹岡さんの使っている枕は真ん中がへっこんで、両端が高くなっていて、仰向けのときは真ん中、横向きになったときは端が使えるタイプ。
話を聞く池田さんは、枕の端の高さが邪魔になっていると推測。普段より低い枕に「一度寝てみられますか?」と薦めてくれました。その枕とは……あの大谷翔平選手が愛用するエアー4DX(30,800円)。頭部を包み込む心地よいホールド感と、ほどよい反発力でスムーズな寝返りをサポートする最先端モデル。寝そべった瞬間に笹岡さんも思わず「いいわ」とつぶやきました。
ショップオリジナルの測定器で頭と首の形状を調べると、ちょうどいい枕の高さがわかります。計測してみると、笹岡さんはストレートネックの傾向があるので、やはり低めの枕の方が合うようです。
「枕って毎日頭をのせるものなので寿命が早いんです。3~4年くらい。それ以上長く使うと形状が変わってきます」と池田さん。それを聞いて「今の枕10年以上使っているかも。ヤバい!」と笹岡さんは危機感をあらわに。
エアー4DX以外の枕も見てみたいと笹岡さん。他にも、素材や高さをオーダーメイドできる枕や、備長炭を練りこんだパイプとヒノキを混ぜたアロマと消臭効果のある枕などラインアップは多彩。一生ものの枕と出会えそうな予感がします。
さらに池田さんは、「枕が高すぎると首にシワができたり、自分に合っていない枕を使い続けると顔が変わったりします」とアドバイス。笹岡さんも頷き、「そうなんです。シワできます」と納得。本気で買い替えを検討していました。
枕や敷き布団と同様に、良質な睡眠には欠かせないのが掛け布団。最高級の掛け布団ってどういうもの? そんな話題から池田さんが紹介してくれたのがアイダーダウン(200万円以上!)。アイスランドに生息するアイダーダウンの羽毛は最高級で、しかも雛鳥が巣立った巣跡からわずか20gしか採取できない希少品。「羽毛の宝石」と呼ばれています。
実際にその保温性を確かめるために1つの実験を行いました。その内容は笹岡さんが目をつむり、両手を差し出し、そのどちらかにアイダーダウンの塊をのせるというもの。
「どうです。じんわり温かいでしょ?」と池田さんが聞くと、笹岡さんも温もりを感じたようで、「アイダーダウン半端ない。ヤバー!」と大興奮。拳大サイズの塊なのに、手に乗っていることすらわからない軽さにも驚いていました。
では、「せっかくなので」と池田さん、アイダーダウンの掛け布団をお試しさせてくださいました。
「百貨店に来ないと絶対にわからないことですね」と笹岡さんは深く感謝しつつ、するりと布団の中へ。その感触は「ベイマックスに抱きしめられているみたい」。
アイダーダウンの親鳥が卵を孵化させるために温める、いわば巣の中の状態ですから、優しく包み込まれるはずです。
「いかに日頃布団のストレスを感じていたかがわかりました」と笹岡さん。「出たくない!」という気持ちもわかります。なぜなら布団の生地は寝心地抜群の総シルク。さらに敷き布団は耐圧分散のムートンシーツ(88万円)。つまり、約300万円の布団にサンドされていたわけですから。
「貴重な経験をさせていただき、ありがとうございます! お金持ちになったらまず布団を変えよう!」そう固く決意し、お店を後にしました。
気になるお店を縦横無尽に巡ってきた笹岡さん。京都に帰る前に立ち寄りたかったのが、本館地2階にある「たこ家 道頓堀くくる」。地元・大阪に帰ってきて、たこ焼きはスルーできません。こちらは道頓堀に本店を構えるたこ料理専門店で、コナモン王座日本一に輝いた「大たこ入りたこ焼」が味わえます。
仲さんは焼き場に立つこと12年のベテラン。両手に目打ちを持ち、華麗に突いてたこ焼きをくるんと回していきます。仕上げに風味づけの白ワインをかけて出来上がり!
笹岡さんも大阪生まれ大阪育ち。ご実家にたこ焼き器は?
「もちろんあります。でもふわとろの食感はお店でしか味わえないですよね。柔らかそう!」と運ばれてきたたこ焼きに目をらんらんと輝かせます。
焼きたてを頬張り、「おいしい~! めちゃとろとろ」とご満悦の笹岡さん。たこ焼きは海外の友人にも人気で、道頓堀を案内するときは必ずおすすめするそう。「たこ焼きとビールを持って街を歩けるなんて天国だよって言われます(笑)」
もう1つの店の名物が明石焼だと知り、「京都ではあまり見かけない」という笹岡さんに、仲さんは「たこ焼きと比べ物にならないほどふわふわですよ。明石焼もいきましょか~」と腕まくり。明石焼もいただくことに。
板の上にひっくり返す瞬間が「シャッターチャンス」と仲さん。明石焼(8個790円)は、鰹と昆布で取った関西風のだしに三つ葉と紅しょうがをお好みで加えていただきます。
笹岡さんもだしに浸してパクリ。「このアツアツとろとろ具合は中毒性があるかも。だしだけでもずっと飲める」
明石焼を食べ終え、「晩ごはんは要らないかも」とお腹をさする笹岡さん、衣食住のお店を巡った感想は?
「日頃、ごはんも手を抜いていたし、ひどい環境で寝ていたし(笑)、大事にできていない部分を見直すきっかけになりました」と。現代美術家である前に1人の人間として体が資本であることを痛感したようです。
「素敵なうつわでコーヒーを飲んだり、かわいいハンカチを見つけたり、そういうやすらぎやかわいいものを日常に取り入れるだけで、こんなに満たされるんだなって改めて思いました。作品で幸せになることって完成した瞬間の5秒くらいなんです。制作しているときは心配事ばかりで戦場(いくさば)って感じ。だから、休むときにいかにして幸せをチャージできるかが今後の私の課題だと思いました」
1988年、大阪府生まれ。2012年、京都市立芸術大学美術学部油画専攻卒業。2014年、同大学院美術研究科修士課程油画専攻修了。2017年、同博士(後期)課程メディア・アート専攻満期退学。その後、国内外のグループ展や滞在制作などで作品を発表。2018年に京都市芸術新人賞、2019年にKyoto Art for Tomorrow2019-京都府新鋭選抜展-最優秀賞、2020年には京都府文化賞奨励賞と咲くやこの花賞をW受賞。現在は京都のシェアスタジオ「Vostok」を拠点に活動中。
※ソーシャルディスタンスに配慮しながら、写真撮影時のみ、マスクをはずして取材を行いました。
写真/竹田俊吾 取材・文/福山嵩朗 編集/蔵均 WEBデザイン/唯木友裕(Thaichi) 制作・編集/河邊里奈(EDIT LIFE)、松尾仁(EDIT LIFE)
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