Professional's Eyes
スタイルのある暮らし
大阪の第一線で活躍する方々と一緒に、生活を豊かにする視点、もの選びのコツに迫ります。館内の注目アイテム、心斎橋のお気に入りスポットをご紹介。心地よい暮らし、大阪のシビックプライドを求めて。
ARCHIVES関西フィルハーモニー管弦楽団の首席指揮者であり、同オーケストラと22年にわたり共演を続ける藤岡幸夫さん。1993年に英国でデビューして以降、クラシック音楽の裾野を広げることを使命に活動する、日本を代表するマエストロです。今回はそんな名指揮者がオフステージのリラックスモードで大丸心斎橋店を巡ります。
「そうそう、ここ。ひと月くらい前に、この靴をきれいにしてもらいに来たんです。修理ではなく、磨きにね」。
藤岡さんがまず訪れたのは、実際に愛用されているという1軒。“サービスのコンビニエンスストア”として、あらゆる困りごとに応えてくれる「MISTER MINIT(ミスターミニット)」です。1957年にベルギーのブリュッセルで創業。1972年に日本へ上陸し、現在は全国に約300の店舗を構えます。
「靴磨きもそうですけど修理も何度かお願いしていて。前回は仕事の合間に来ました。司会の仕事のリハーサル終わりに足元を見たら、ヤバイ…!と。修理したての靴を履いてきたつもりが、直してない方だった(笑)。それで慌ててここで磨いてもらって、傷もちょっと直してもらってね」と藤岡さん。
この日、藤岡さんが履いていた靴がまさにその時の1足で、6年ほど愛用しているお気に入り。
「靴を大事に履くのは昔から。でも、できるだけ長く履きたいと思って修理してもらうようになったのは、ここと出会ってからだよ。新品を買うと4〜5万円くらいするじゃないですか。買い直すことを考えたら、修理してもらう方が安い。それもすごくきれいにやってくれて。本当にダメになって、もう買い替えた方がいいですね、って言われるまでは履きたいと思ってる(笑)」。
「ミスターミニット」は、革靴の本場であるヨーロッパで培われた技術をベースに、良質な修理部材や商品をヨーロッパから調達。専門トレーニングを受けたスタッフが対応してくれるため、仕上げも一級。この日も靴磨きをお願いした藤岡さんは、スタッフの手元でみるみる輝いていく靴を眺め、「本当に見違えるくらいきれいになるんだよね」と目を細めます。
「いつもは靴だけど、そのうち印鑑も作りたいと思ってる(笑)。あとは合鍵も作れるんだよね?」と藤岡さん。まさに、「ミスターミニット」では靴だけでなく、合鍵やハンコの作製、バッグ修理なども手掛けています。
「バッグでしたらファスナーなどのパーツ交換もできますし、革の色が剥げてしまった場合は染め直しもできます。身の回りのモノを愛着を持って長く使っていただきたいという想いから、靴修理以外にもいろんなことをやらせていただいており、サービスのコンビニのように困った時にいつでも来ていただけるような場所を目指しています」と、スタッフの服部歩さん。
しばらくおしゃべりしている間に、藤岡さんの革靴が美しい姿で戻ってきました。つややかな靴に足を通し、思わず笑顔になるマエストロ。
「次は鞄も持ってこようかな。またお世話になります!」と、颯爽と店を後にしました。
続いては、MoMA(モマ)の愛称で親しまれるニューヨーク近代美術館がセレクトを手掛けるミュージアムショップ「MoMA Design Store(モマ デザインストア)」を訪れました。
入店早々、藤岡さんが吸い込まれるようにたどり着いたのは、音楽関連のアイテムが揃う一角。そのスピード感ある眼力は破格。やがて気になった商品を指差し、「これは何?」とスタッフにたずねます。
それは驚くほど小さい手のひらサイズのスピーカー。スマートフォンやタブレットから音楽をストリーミングできるBluetoothスピーカーで、防水機能付き。「バスタブやプールに浮かせることもできます」と、スタッフの上本麻衣さん。
ご自宅でも音楽を聴かれますか?と藤岡さんにたずねると、「寝るときとか、リラックスしたいときはクラシック以外の音楽を聴きますね。それもラフな聴き方で。だからこのスピーカーはいいよね。水に浮かぶのも面白いな」と、早速興味を持たれたようです。
スピーカーの隣には赤いボディが目を引くRolandのキーボード。幼稚園の頃からピアノを始め、音楽人生を疾走し続ける藤岡さんは、手がおのずと鍵盤へ。何気ない表情で気ままに音を奏でます。
さらに「これは何? 指揮できるじゃん!」と笑顔で振り上げたのは、折りたたみ式のストロー。近年、SDGsを意識したプロダクトを積極的に扱う「モマ デザインストア」らしいセレクトで、何度も使うことが可能。指揮棒さながらのスティックは見過ごせない(!?)。藤岡さんも、さすがにストローだとは想像が付かなかったようで驚きの表情に。
ほかにも、3つのデバイスを同時に充電することができるチャージパッド、スマートフォンと連動することで探し物を追跡してくれるスマートアクセサリーなど、「これは何? これは?」と興味を示す藤岡さん。
「面白いものがいっぱいある。見ているだけで楽しいよね」と、店内の随所に目配りするその好奇心は、さすが世界を舞台に活躍する名指揮者。実にエネルギッシュで、そばにいるだけで圧倒される迫力があります。
「日本料理 湯木」は、大阪生まれの名料亭「𠮷兆」の創業者である湯木貞一の精神を受け継ぐ料理店。湯木貞一の孫にあたり、看板を守る店主の湯木尚二さんと藤岡さんは、共に大阪ロータリークラブのメンバー。日本料理とクラシック音楽、活動するフィールドこそ違いますが、どちらも各界を牽引する第一人者です。
和食がお好きという藤岡さん。この日は昼のメニューでもとりわけ人気の松花堂御膳(税込4,180円)を注文しました。四季の味覚、風情まで堪能できるお弁当はもちろん魅力ですが、こちらの名物は最初に供される海鮮石焼。カツオの酒盗を使った自家製タレにネタを絡め、石の上で焼いていただくという作法まで心躍る一品です。
初体験の藤岡さんは、「これで焼くの!? 本当に?」と驚きつつネタを熱々の石の上へ。ジュジュッとおいしそうな音、さらに立ち上がる香ばしい匂いに「これはお酒を頼みたくなるね」と笑います。焼きたてを頬張り、「おいしいです。めちゃくちゃおいしい。これは絶対おすすめだね」と、1品目から太鼓判を押します。
2000年から関西フィルハーモニー管弦楽団の正指揮者を務め、2007年以降は首席指揮者として心血を注ぐ藤岡さん。在籍は今年で22年目。生まれながらの江戸っ子で現在もご自宅は東京ですが、年間約160泊は大阪に滞在。その際の食事は、もっぱら外食になってしまうと言います。
「こういう和食屋さんに来るとつくづく思うけれど、関西の方がおいしいよ。食生活で気をつけていることは、炭水化物を摂り過ぎないこと。もう歳だし、太るから(苦笑)」。
続いて配膳されたお弁当には、そんな藤岡さんにはうれしい魚や野菜中心のあでやかな料理が並びます。
英国でプロ指揮者としてデビューし、これまで日本はもとより、数多くの海外オーケストラでも客演を務めてきた藤岡さん。若き日に海外で口にした日本食を思い出しながら、「日本料理 湯木」の味わいを噛みしめます。
「海外はあやしい日本食ばっかりで(笑)。イタリアやフランスの有名なレストランに行っても、日本の方がおいしいと思うんだよね。特にこちらのように本当にいいお店は素材がいいから。(食べていると)それが伝わってきますよ。和食は日本人が蓄積してきた知恵を感じる。その知恵は長らく平和が続いた江戸時代に培われたもので、戦争を繰り返すヨーロッパではなかなか生まれ得ないものだと思うね」。
「どれもすごくおいしかった。どうもありがとうございました」とスタッフに挨拶をして、次なるお店へ向かいました。
続いては、シックでダンディな装いの藤岡さんにぴったりの革製品のお店「CYPRIS(キプリス)」を訪ねました。「キプリス」は東京に工房を構える日本のブランド。“一生愛せる本質的価値のあるものづくり”を基本理念に、上質な素材を使って職人が仕立てる、ベーシックなデザインの革小物にとりわけ定評があります。
なかでも多彩に揃うのが財布。秀逸なカード収納“ハニーセル”構造を取り入れた長財布、二つ折り財布、薄型で手のひらに収まるコンパクト財布、小銭入れなど、バリエーションはもちろん、さまざまな加工で仕上げた牛革、ディア(鹿革)、コードバン(馬尻革)など、素材も多様で、それぞれ異なる表情や手触りも大きな魅力です。
「なるべくカードは作らないようにしています。膨らんじゃうからさ」。
そう話す藤岡さんが手にとったのは、キップと呼ばれる生後6カ月から2年ほどの牛革素材を使った二つ折り財布。「すごく柔らかくていい革だよね。素敵」と、その表面を優しくなでます。
財布コーナーからぐるりと店内をまわり、「おっ、これいいね」と藤岡さんが続いて心惹かれたのは長いハンドル付きのバッグ。試しに腕を通し、「軽い…!」とその軽さに驚きます。「楽譜を入れるからさ」と、ファスナーを開けて内部も確認。A4サイズのフォルダもすっきり収まる大容量と側面まで大きく開くデザインは、藤岡さんにとってまさに理想的。「中に余計なポケットがないのもいいよね」と、次々と魅力を見つけ出します。
「こちらは当店(大丸心斎橋店)とブランドのオンラインストアのみで取り扱う限定品になります。レザーはポケットやアクセサリーなど、いろんなものを付けるとどうしても重量がかさんでしまいます。そのため当店のアイテムは内装をシンプルに。あえてデザインに特徴を持たせないことで、長くお使いいただける仕上げにしています」と、スタッフの森川さん。
表と裏で異なる牛革を使っている、そんなクラフトマンシップを感じる仕上げも藤岡さんはお気に召したようです。
「すごく凝っているよね。持ち手が長くて肩に掛けられるのもいいし」。楽譜を持ち歩く新たな相棒を見つけつつ、一生ものとも言える買い物に悩む藤岡さん。とはいえ、来阪は日常茶飯事。後ろ髪を引かれながらも、「またお世話になるかもしれません」と言葉を残し、最後の1軒へ。
最後はバンクーバー発のアスレティックウェアブランド「lululemon(ルルレモン)」へ。年間70〜100ものステージで指揮を振り、多いときには総勢100名を超えるオーケストラを率いる藤岡さん。そのパワーたるや想像を絶するものがありますが、その鍛錬はいかに?
「体力はもちろん、気力みたいなものも必要。あれだけの人間に常に気を出してなきゃならないからね」。
そう話す藤岡さんにみなぎる体力と気力、その根源は幼少期からの経験の賜物のようです。小学4年生で指揮者になる夢を持ち、“指揮者は「気合い」と「目力」が必要”というご家族のすすめで、音楽のレッスンのみならず、剣道の道場にも通い続けていたそうです。
現在もスポーツは大好き。「昔はジムで泳ぐことが多かったけど、最近はウォーキングとボクササイズもやっています」と藤岡さん。ヨガをはじめ、ランニングやジムのトレーニングウェアなど幅広いアイテムが揃う「ルルレモン」で、お気に入りを探すことにしました。
藤岡さんがまず興味を持ったのがボトムス。5ポケットジーンズにインスパイアされたデザインが特徴的なABC Pant Slim(税込18,800円)です。スポーツウェアだけでなく、普段使いできるカジュアルウェアまで揃うのも「ルルレモン」の魅力です。スポーツウェアを専門とするブランドの強みを活かし、ABC Pant Slimなら4方向に伸びるストレッチ素材を使用するなど、快適性も秀逸。
「特にがっつり汗をかく時は『ルルレモン』の服がおすすめです。速乾性に優れていることに加え、なかには生地に銀繊維が練り込まれ、防臭の効果があるものも。1日中フレッシュな着心地でお過ごしいただけるのが特徴です」とスタッフのダイスケさん。
「これ、いいね!」と藤岡さんが続いて手にしたポロシャツは、まさにその臭いを軽減するシリーズの1着。ライクラエラスタンという繊維を使い、伸縮性と形状維持性を兼備。繰り返し着てもよれにくく、またひんやりすべすべの感触も抜群です。
「いつもリハーサルで指揮するときはポロシャツだから」と、藤岡さんは試着室へ。普段からシックなお洋服が多い藤岡さんらしく、黒のポロシャツはぴったり。「いいね!すごく気持ちいい」とお気に召し、レジへ直行。まさに江戸っ子、その気風の良さは惚れ惚れします。
「これからは関西フィルとどこまで、どんなことができるかだよね。コロナ禍が明けた後にどれだけお客さんを呼び戻すことができるかも大きな課題」と話す藤岡さん。日本でクラシック音楽の裾野を広げる、その情熱あふれる活動は止まるところを知らず、今後も観客を魅了し続けてくれるに違いありません。
日本を代表する名指揮者、故・渡邉暁雄氏の最後の愛弟子。英国王立ノーザン音楽大学指揮科の奨学金特待生として入学し、1993年BBCフィルハーモニックの定期演奏会で指揮者デビュー。『タイムズ』紙などで高い評価を受け、翌年より同オーケストラの副指揮者に就任。以降、数々の海外オーケストラに客演。2000年から関西フィルハーモニー管弦楽団の正指揮者、2007年からは首席指揮者を務める。2019年以降、東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団の首席客演指揮者も兼務。司会・指揮を担当する音楽番組『エンター・ザ・ミュージック』(BSテレ東・毎週土曜8:30〜放送)は現在7年目を迎える。2020年12月にエッセイ集『音楽はお好きですか?』(敬文舎)を上梓。2021年内には続編を出版予定。
※ソーシャルディスタンスに配慮しながら、写真撮影時のみ、マスクをはずして取材を行いました。
写真/西島渚 取材・文/村田恵里佳 編集/蔵均 WEBデザイン/唯木友裕(Thaichi) 制作・編集/河邊里奈(EDIT LIFE)、松尾仁(EDIT LIFE)
大阪の第一線で活躍する方々と一緒に、生活を豊かにする視点、もの選びのコツに迫ります。館内の注目アイテム、心斎橋のお気に入りスポットをご紹介。心地よい暮らし、大阪のシビックプライドを求めて。
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