Professional's Eyes
スタイルのある暮らし
大阪の第一線で活躍する方々と一緒に、生活を豊かにする視点、もの選びのコツに迫ります。館内の注目アイテム、心斎橋のお気に入りスポットをご紹介。心地よい暮らし、大阪のシビックプライドを求めて。
ARCHIVES2009年に芥川賞を受賞して以来、何気ない日常をとりあげながら、ユニークで斬新な視点で小説を書き続ける津村記久子さん。創作の時間はほとんど自宅でという津村さんが、家での時間をより充実させるアイテムを探して、大丸心斎橋店を巡りました。
※2023年7月をもって閉店いたしました。
『ポトスライムの舟』で芥川賞を受賞した当時は、会社勤めをしながらの作家活動をしていた津村さん。その後小説家専業となり、自宅での執筆活動が日常の大半を占めることになりますが、原稿は、タイプライターを置いた机を前に、椅子に座って執筆しています。
「もうずっと家にいて、すごく座っている時間が長いので、どういう椅子がいいんだろう?と、いろいろ試しています。『Style』さんの商品も知っていて、購買を考えたこともあるんですよ」
膝から腰までの長さと座面の幅が合わない椅子が多いらしく(津村さんいわく、「男性の体型に合わせた椅子が多いんじゃないか」)、そのせいか腰の調子が良くないそう。悩みを解決すべく、カイロプラクティックのノウハウをもとに独自開発したチェアやシートを販売する「Style(スタイル)」の店長・武内愛海さんに話を聞きました。
「腰に問題があるということですが、『スタイル』の商品は、体にいい姿勢を意識して作られています。これが3年程前に開発されたドクターチェアプラスですが、よかったら一度座ってみてください」。
フロアに直置きされた赤いチェアに座った津村さんは、「すごいラクですね。沈んでいく感じがします」。
ドクターチェアプラスの背もたれは角度が80度。武内さんいわく、座りが浅いと自然に骨盤が前に出てしまうそう。
「ラクだからということで浅く座ったり、足を組んだりしていると、骨盤がベストな位置からずれてしまいます。深く座って骨盤を正常な位置に近づけることで、腰、肩、首への負担をサポートします」。
「いいですね。無理をしているところが全然ないような気がします」と、座り心地の良さを実感した津村さんは、日々の執筆時に近い環境を試すべく、「あんな感じの机と椅子で仕事をしています」と店内にあるデスク&チェアへ。ここでは、手持ちの椅子に置いて使えるプレミアムデラックス(37,180円)を試してみました。
「以前は足が地面に届かない座面の高い椅子で、キャスターがはまっている脚に足を置いて座っていたのですが、しっくりこなくて。最近、座面が低くて足の裏が床にちゃんと着く椅子にしたらマシにはなったんですけど、一人で仕事をしていると、つい右足を上げて椅子の座面に置いたりしてしまいます」と津村さん。
「いつも自分がラクだなと思っている姿勢が、意外に負担になっていたということもあると思うんですよ。いい姿勢をずっと自らキープするのは難しいのですが、このチェアはそのアシストをしてくれます。それを習慣化させていくと、自分でベストの姿勢を作れるようにもなりますよ」と武内さん。
プレミアムデラックスの背もたれは、ドクターチェアプラスと同じで骨盤を立たせる構造ですが、違っているのは、中に低反発と高反発の2種類のウレタンが入っていることです。
「低反発でより沈み込ませて、高反発で下から支える」と説明する武内さんに、「先に低反発があって、それを高反発でフォローするわけですね。すごい」と素早く解釈する津村さん。
「今年で一番いい姿勢ですね。これだと座るのが楽しい。普段は横になることが楽しくて(笑)、それしか考えてないから。これは、座りたくなる!」
日々の生活の中での、新たな喜びが見つかったようです。
※2024年7月をもって閉店いたしました。
普段、机に向かって原稿を書くときは、「ポメラ」というタイプライターを使っているという津村さん。しかし、小説に関するまとまったアイデア出しをするときは、もっぱら万年筆派なのだそう。海外の高級万年筆が並ぶ「心斎橋筆記倶楽部」を訪れました。
「たくさん字を書くのに、手に力を入れずに書けるのが万年筆なんですよ。だからいっぱい持っているんですけど、数千円で買えるものばかり。このお店に並んでいるのは、全然違いますね。うん、全然違うのはわかります」
「モンブラン」や「ペリカン」など、高級な万年筆が並ぶ中、「これはなんですか?」と津村さんが興味を持ったのが、「PARKER 5th」。万年筆、ボールペン、ローラーボール、ペンシルなどと並ぶ、5番目のペンという意味合いの新しい形の筆記具です。
「軽いですね。全く力を入れずに書けます」と津村さん。
スタッフにペンの特徴を聞いたところ、「イメージとしては、鉛筆を削ってピンピンに尖った状態から、書きこむにつれ、だんだん丸みや太さが出てきて、するっと書けるような書き心地」だそう。
万年筆で書くときは大量に字を書くので、手がすぐインクで汚れてしまうのが悩みという津村さん。「PARKER 5th」は速乾性と耐水性にも優れているので、そんな悩みを解消してくれるかもしれません。
「5thのカートリッジのインク、“オリーブグリーン”(*完売致しました)は珍しい色ですね。今だけの限定色? じゃあ欲しい人は今すぐ買わないとですね。万年筆もロイヤルブルーとかワインレッドとか美しい色のインクがあって、色がきれいだから書こうという気にもなりますよね」と津村さん。
店内を見て回り、「ペン先が作品のイメージにぴったり」と、津村さんが興味深く見ていたのが、「クロス」の『STAR WARS』モデルです。
『STAR WARS』モデルは、シリーズ第1作が初公開された年にちなんで1977本を製造。全世界で販売していますが、どこの店舗でどのキャラクターのものが売られているかは明らかにされていません。「心斎橋筆記倶楽部」には、ストームトルーパーモデルが1本だけ置かれていますが、他にダース・ベイダー、スカイウォーカー、チューバッカなどのモデルもあります。
「C-3POの万年筆に出会ったら、欲しいですね」と津村さん。旅先でふと訪れた文具店で思いがけぬ出合い、というのもいいですね。
実は、津村さんは1日のうちに2回睡眠をとります(津村さんの著作に『やりたいことは二度寝だけ』というエッセイ集がありますが、この“二度寝”とは意味合いが違います)。かなり珍しい習慣ですが、どのようなサイクルで眠っているのでしょうか…?
「夜中の0時から3時ごろまで寝て、一度起きて執筆し、午前中から昼ぐらいにかけてまた寝るという感じです。3時間と4時間とか、5時間と2時間とか2回に分けて。6〜7時間連続で文章を書くことはできないので、3時間文章を書いたら一度寝て脳の中をきれいにする感じですかね」
津村さんのこのような睡眠スタイルは、体や健康に影響はないのか? 質の高い眠りをサポートする「airweave(エアウィーヴ)」を訪れ、店長の三島忍さんにお話をうかがいました。
「通常は、一回に6時間とか7時間連続で睡眠をとっていただくと睡眠の質が上がります。夜勤が不規則に入ったりして、寝る時間や睡眠時間がバラバラだとバランスを崩してしまいますが、津村さんのようにだいたい毎日同じ時間に寝て、同じぐらいの時間眠るサイクルであれば、問題ないと思います」と三島さん。
加えて三島さんは、寝入りばなの眠りの質が大切だと言います。
「3〜4時間の短い睡眠時間でも、最初の90分にぐっと深い眠りがとれると、スッキリ起きられます」。
質のいい眠りをとるためにはどうすればいいか? そのヒントをと三島さんがすすめてくれたのが i-body(3D スキャナー体型測定機)。機械の上に立つだけで、その人に合った寝具のタイプがわかるというものです。
「8個のカメラから出るお客様には見えない光で、身長体重、脂肪分、筋肉量などをスキャナーで測り、それをデータとして入れ込みます。そこからお客様の体に合ったマットレスのタイプを判定してくれます」と三島さん。
エアウィーヴでは、眠りに大切な部分として肩、腰、足の3つのパートを挙げ、それぞれが状態に合った硬さのものを使うことを推奨。硬さを1〜3の3段階に分けています。
「たとえば卓球の石川佳純選手は、腰の部分は硬め、足は標準で肩がやわらかめがいいので1・3・2、スキージャンプの高梨沙羅さんは均一で2・2・2と、アスリートでもその人によって違いますね。この機械では、どのタイプに当てはまるかを測定します」と三島さん。
スキャンされたデータが、パソコンに取り込まれ、それが解析されていく画面を興味深く見ていた津村さん。自分が着ていた服を着たアバター(?)が現れると、がぜん画面に注目です。
「『バイオハザード』みたい! 自分がこういうふうになると、ちょっと笑えますね」。
津村さんが盛り上がっている間もパソコンは稼働し、津村さんは1・2・1が合うと判定。浅田真央さんと同じタイプで、肩と足はやわらかめ、腰は少ししっかりめがいいようです。
体に合ったタイプがわかったところで、実際に寝てもらうことにしました。家では、フローリングに布団を敷いて寝ているという津村さん。「こういう感じです」と近寄っていったのが、エアウィーヴ四季布団 和匠。
「エアウィーヴは、マットレスだけでなく布団タイプのものがあります、構造はマットレスと同じで、90%以上空気でできているエアファイバーという樹脂素材。これがお客様の体をふわっと持ち上げて支えるので、ウレタンなどのやわらかい素材と比べると、高反発な素材です」と三島さん。
マットレスは3つのパートに分けて硬さを調整することができますが、和匠は1・3・2の硬さで設計されています。津村さんの理想形、1・2・1にも近いバランスなので、横になっている津村さんも快適そう。
「これ、いいですね。起きたくない。ここに住みたいですもん(笑)」
※2023年2月をもって閉店いたしました。
次に津村さんが訪れたのが、地2階にある「マンゴツリーキッチン“ガパオ”」。
「梅田の『マンゴツリーカフェ』にはよく行くんですよ。おいしいですし、自分で作れないものをいただけますから」。
2日に一度は近所のスーパーに買い物に行き、毎日料理をするという津村さん。午後からの仕事が終わった夕方や夜に自炊するそうですが、タイ料理などエスニック料理を作るのは、なかなかハードルが高いようです。
「エスニックは好きなんですけど、調味料を揃えるのが大変だなあと思って。うまく作れるか自信がないないし、毎日食べたくなるものでもないし…」。
外食で重宝するというマンゴツリー系列店は全国に約30店舗あり、心斎橋店は“ガパオ”専門店。
「専門店として、うちのグループの中ではガパオの種類が一番多いです。鶏、豚、サラダ、シーフード、クリスピーの5種類が定番で、月替わりのもの(7月はペッパーガパオ)を合わせて6種類ですね」と店長の森望さん。
種類が多いので、あれこれ迷ったあと、豚のガパオを選んだ津村さん。
「このガパオ本当においしいです。家で作れないぶん、ここでいただけてありがたいです」
久々のエスニック料理を楽しんだ津村さん。会社員時代は大阪市北区で勤めていて、心斎橋に来るのは、年に2、3回だそうです。
「久しぶりに心斎橋に来ましたけど、めっちゃ都会ですね。この街は好きで、手芸をするのでシモジマに行ったり、心斎橋筋をぶらぶらしますね」
最後に訪れたのは、地1階にある「バースデイ・バー アポルト パー レ マルシェ」です。
「『バースデイ・バー』って、誕生日プレゼントにいいものばかりを置いている店なのか、気になってたんですよ。そんなにしょっちゅうプレゼントをするほうではないのですが、友達の子どもさんに贈ったりはするので」と津村さん。
店長の青木菜己子さんに聞いてみると、「 “365日プレゼントのチャンス” が店のコンセプトで、贈り物をメインにアイテムを揃えています」。
ショップ内には、ファッション、食品、美容、ベビー用など、ギフトにしたいものが約1,000アイテム並び、系列の店舗と比べると、大丸心斎橋店は特に美容系が充実しているそうです。
「中でも『uka』のアイテムが今すごく人気でして、頭をマッサージするスカルプブラシKENZANが爆発的に売れています。自分で使ってみてよかったから、プレゼントにも、というお客様も多いですね」と青木さん。
店頭で扱っている3種類の硬さのうち、バリカタを手にした津村さん、「ずっしりと手応えがありますね。私も原稿を書いていて煮詰まったら、頭をブラッシングするんですよ」。
プレゼント欲が芽生えたのか、目を輝かせながら店内を巡る津村さん。「これ、おしゃれ!」と目に留まったのが、線画のイラストがあしらわれたコーヒーやマグカップなどです。
「インスタグラムで人気の福岡のイラストレーター、COFFEE BOYさんのイラストが描かれています。」と青木さん。
次に津村さんが手に取ったのは、色合いもきれいな「SWATi」の入浴剤。
「これ、贈ったらきっと喜んでもらえますよね。あげるほうも気分がいい。とても色がきれいですけど、こういうのは、自分で買って使うとなるともったいないから、ちょっとずつ使おうとなりがちですけど、もらうと気兼ねなく使えるから(笑)、すごく嬉しい」
青木店長も「そうですよね。自分で買わない、買えないからこそ、もらって嬉しいというのも、プレゼントの極意なんじゃないでしょうか」と納得。
ギフトに喜ばれそうな数々の商品を前に、とても楽しそうな津村さん。中でも一番テンションが上がったのは、タコのぬいぐるみでした。
「欲しいものがすごく多いです。元気がないときとかにもらえたらすごく嬉しいし、不意にこういうものをもらえたらずーっと感謝しますね」
小説家として、執筆するための時間の多くを家で過ごす津村さん。在宅時間を充実させるさまざまなアイテムが見つかりましたが、同時に、近いうちに、お気に入りのプレゼントを持ってお友達のところへ、気兼ねなく遊びに行ける日が来ることを願ってやみません。
1978年大阪府生まれ。2005年『マンイーター』(改題『君は永遠にそいつらより若い』)で太宰治賞を受賞してデビュー。2008年『ミュージック・ブレス・ユー!!』で野間文芸新人賞、2009年『ポトスライムの舟』で芥川賞、2011年『ワーカーズダイジェスト』で織田作之助賞、2016年『この世にたやすい仕事はない』で芸術選奨新人賞、2017年『浮遊霊ブラジル』で紫式部文学賞、2019年『ディス・イズ・ザ・デイ』でサッカー本大賞、2020年、翻訳された『給水塔と亀』でPEN/ロバート・J・ダウ新人作家短編小説賞を受賞。最新刊は今年発刊された『つまらない住宅地のすべての家』。
※ソーシャルディスタンスに配慮しながら、写真撮影時のみ、マスクをはずして取材を行いました。
写真/エレファント・タカ 取材・文/蔵 均 WEBデザイン/唯木友裕(Thaichi) 制作・編集/河邊里奈(EDIT LIFE)、松尾仁(EDIT LIFE)
大阪の第一線で活躍する方々と一緒に、生活を豊かにする視点、もの選びのコツに迫ります。館内の注目アイテム、心斎橋のお気に入りスポットをご紹介。心地よい暮らし、大阪のシビックプライドを求めて。
ARCHIVESProfessional's Eyes Vol.27
Professional's Eyes Vol.26