Professional's Eyes
スタイルのある暮らし
大阪の第一線で活躍する方々と一緒に、生活を豊かにする視点、もの選びのコツに迫ります。館内の注目アイテム、心斎橋のお気に入りスポットをご紹介。心地よい暮らし、大阪のシビックプライドを求めて。
ARCHIVES大阪・キタのシンボル、グランフロント大阪の中核を担う「ナレッジキャピタル」の総合プロデューサーとして、知とイノベーションに満ちた場を作り続けている野村卓也さん。ワークライフバランスではなく、ワークアズライフの姿勢を大切にしているという野村さんと、今回はミナミのランドマーク、大丸心斎橋店を巡ります。
世界最高峰の帽子ブランドと名高い「Borsalino(ボルサリーノ)」は、1857年に北イタリアの都市・アレッサンドリアで創業。以来160年超に亘り、創業の地で製作を続ける老舗メーカーです。
「最近、映画『ボルサリーノ』を見直して。先日亡くなってしまったジャン=ポール・ベルモンドとアラン・ドロンによるギャング映画で、かつ男の友情の物語でもあるんですけど、この映画が好きでね。1930年代のマルセイユが舞台だからか、今よりもちょっといかつい帽子をかぶっているんですよね」。
1970年公開の仏・伊合作映画『ボルサリーノ』をきっかけに、「ボルサリーノ」の帽子に出会った野村さん。ブランドの代名詞はフェルトハット。正面に2つのくぼみを付けた中折れ帽で、この形状を発案したのが創業者のジュゼッペ・ボルサリーノ。女性の前で帽子を脱ぐことがマナーだった20世紀初頭に、素早く脱げるようにと考えたデザインでした。
「1930年代の当時はジャケットを着たら帽子をかぶるのは当たり前だったんです。映画『ボルサリーノ』はフランスが舞台ですが、イギリスのギャングはハンチングやカスケットをかぶったりして、身分や階級を表すアイテムでもありました」とエリアマネージャーの土田賢司さん。
日頃から帽子を身につけることが多いという野村さんですが、「ボルサリーノ」のフェルトハットはお持ちでないそうで、土田さんおすすめの数品を試着することに。
ビーバーの毛100%で作られたアルプスブラウンのファーハットをかぶれば、シックな貫禄が漂い、変わってベージュのラビットファーハットをポンと頭に乗せれば、イメージは激変。華やかな若々しさがあふれるようで、その印象の違いは目を見張るものがあります。
「(ベージュは)ちょっと目立ちすぎかな?」と照れ笑いしながらも、絶妙な一着との出会いに購入を即決!
「今日はスーツにネクタイだけど、Tシャツでも大丈夫?」と相談する野村さんに、「大丈夫です。前の角度を上げてカジュアルにかぶっていただけたら、ジーンズとスニーカーでも良いと思います。コーディネートの幅をきっと広げていただけます」と土田さん。
“品格を高めるのは帽子ではなく、それを着用する頭だ”。これは創業者ジュゼッペ・ボルサリーノの言葉ですが、「ボルサリーノ」の帽子を付けた野村さんを眺めていると、まさに!と心底納得いたしました。
※2024年7月をもって閉店いたしました。
「元々、どちらかというとクラシコ的なスーツをオーダーしていたんですけど、先日こちらへ伺って、アメリカンなものもいいなぁと」。
続いて野村さんが訪れたのは、1899年にニューヨークで創業されたエグゼクティブ・ファッションブランド「HICKEY FREEMAN(ヒッキー・フリーマン)」。世界の一流ファブリックメーカーによる生地などハイクオリティな素材はもちろん、クラフトマンの手仕事による優れた着心地も定評ある老舗。とりわけ、ソフトテーラリングと呼ばれる仕立てを伝統とするスーツやジャケットは、歴代アメリカ大統領も愛用するという一級品です。
イタリアのクラシックエレガンスなクラシコを長年愛用してきた野村さんですが、この日はアメリカントラッドな「ヒッキー・フリーマン」のジャケットに袖を通します。選んだのは、大丸心斎橋店別注の一着。
実は「ヒッキー・フリーマン」大丸心斎橋店では、シーズンごとにベルギーの高級服地ブランド「スキャバル」へ生地を特注。他店にはない限定生地でオリジナルジャケットを仕立て、店頭に揃えています。
野村さんがまず試着したのは、淡いラベンダーカラーのジャケット。
「このお色は関東では売れないんです。やっぱり、大阪独特のお好みがあるようで」と、店長の稲森順一さん。“大阪独特”といえばヒョウ柄のようなアクの強さを連想しますが、この別注の一着を羽織った野村さんは、気品漂うエグゼクティブ!
「これが東京では売れないの? なんでやろ? 上品だよね。やっぱり着る人が着たら(笑)」と、さすが、場を和ませる洒落っ気も忘れません。そして「ボルサリーノ」同様、購入を即決! 大胆な買いっぷりが器の大きさを物語るようです。
グランフロント大阪の中核施設「ナレッジキャピタル」の総合プロデューサーとして、イベントや国際フェスティバルのプランニングなども手掛ける野村さん。オンとオフでファッションは随分違いますか?と問うと、「あまり分けない。プレゼンや公式な場所に出るときはスーツを着るけれど、ジャケットにスニーカーで会社へ行くときもある」と、線引きはとても緩やか。
「ワークライフバランスという考え方があまり好きではなくて、大事にするのはワークアズライフ。メディアアーティストの落合陽一さんが提唱している働き方ですけど。僕は仕事も楽しくやるし、遊んでいても仕事のヒントになるものを見つけることがある。休日に妻と出かけているときにも、これ使えるなぁ…とかね。パソコンの前に座っていたらいいアイデアが出るか?っていうとそうでもない。もちろん、どこかで死ぬほど考えないといけないんですけどね」。
「ナレッジキャピタル」のエグゼクティブは、仕事も生活も分け隔てなく楽しむからこそ、おもしろい発想を柔軟に生み出し続けられるのかもしれません。
奮発したお買い物のあとは、くつろぎのチョコレートタイムを。「MARIEBELLE THE LOUNGE(マリベル ザ ラウンジ)」は、ニューヨークのショコラティエ「MARIEBELLE(マリベル)」初のエクスクルーシブストア。バカラのシャンデリア煌めく店内は日常を忘れるような優雅な空間で、代表的なアートガナッシュなどを購入できるショップとともにカフェも併設されています。
発想や閃きが仕事の軸である野村さんにとって、チョコレートはデスクに忍ばせておきたいスイーツのひとつ。
「何かモノを考えたりするときは、ちょっと甘いものを。おかきも好きで、普段はチョコと交互に食べる。辛いもんの後に甘いもんって、おいしいから(苦笑)。ここのは上等なチョコレートだから、それだけでおいしいんやろうね」と野村さん。
「マリベル ザ ラウンジ」の代名詞であるホットチョコレートを味わいながら、話題は野村さんが総合プロデューサーを務めておられるグランフロント大阪の「ナレッジキャピタル」について。「ナレッジキャピタル」は2013年に開かれた“知的創造と交流の場”。企業人、研究者、クリエイター、さらに一般の生活者などさまざまな人々が交流し、それぞれの持てる知を結集することで新たな価値を生み出すための場として、会員制サロンやオフィス、ショールーム群、シアターなども備えた壮大な複合施設です。オープンイノベーションが活発化する現在ですが、8年前の開設時はあまりに斬新で、「説明しても、よぅわからんって言われました(笑)」と野村さん。
「僕が関わり始めたのが開業の約5年前。現在、“うめきた”と呼ばれるあのエリア周辺は、明治末期から昭和の初頭にかけて学校がいっぱいあったんです。中学、高校、大学が集まったナレッジの場だったと。元々、“ナレッジキャピタル”を作るというお題はあった。でも世界的にみても前例がない施設だから、どうやったら成立するか? 具体的に何をするのか?という構想の具現化を担うことになりました。あのエリアについてさらに調べてみると、かつては自動車や電気、科学など、今でいうベンチャー企業が集う場所でもあって、ナレッジだけでなくイノベーションにちなんだDNAも持っている土壌だった。それを引き継ぐというわけじゃないけど、そうしたバックボーンを掘り起こせたことが具現化する上での自信になりました」。
現在も「ナレッジキャピタル」でおこなわれるプロジェクトの大半は野村さんが発案。「放っておいてもなかなか交わらない人同士をかき混ぜることが必要で、そのための仕組みとか仕掛けを考えるのが僕たちの仕事」。
高級な「マリベル」のチョコレートをナイスなアイデアが閃いた際のご褒美にまた味わっていただけますように。
「心斎橋の百貨店へ来たら、『くくる』の明石焼をよく食べてたんですよ。おやつ代わりにね。リニューアルした大丸心斎橋店にも入ってるかな?と思って先日来てみたら、ちゃんと入ってはったから久々に食べて。やっぱりおいしいなぁと」。
大阪っ子にとって、デパ地下になくてはならないソウルフードといっても過言ではない「たこ家 道頓堀くくる」。メニューは、たこ焼と明石焼の2種類。「たこ焼は外では食べない。2カ月に1回くらい、家で焼くから」という野村さんが決まってオーダーするのは明石焼。
「ミツバとショウガが付いてる。これが良いんですよ」と、おなじみの一品を前に頬が緩みます。
「たこ家 道頓堀くくる」の明石焼は、卵たっぷりの生地に大だこ入り。鰹と昆布の風味濃厚、それでいてあっさりと仕上げたダシも、長年、ファンの心を掴んで離さないおいしさです。
大阪生まれで、ご実家は南海沿線。「元々、ミナミの人間」という野村さんにとって、心斎橋は幼少期から親しみのあるにぎやかな街。「子どもの頃は、親に連れられて千日前や道頓堀、心斎橋へ来て。ミナミのなかでも心斎橋は別格で、おしゃれなイメージがありました。バブルの頃はヨーロッパ通りの界隈で遊んで。コンクリートの打ちっぱなしビルの地下にあるプールバーとかでね(笑)」。
1985年、前身の「タコヤキハウス・KUKURU」として道頓堀に誕生した「たこ家 道頓堀くくる」は、まさに野村さんが若かりし時代を謳歌していたミナミの地で、みるみる躍進を遂げたブランド。白ハト食品工業株式会社が手掛けるブランドで、店名はハトの鳴き声であるクックルが由来、というのも、どこか大阪らしい愛嬌があります。
「逆に最近の心斎橋を知らなくて」という野村さんですが、食べ慣れた明石焼の味に「変わらないですね」と、ひと言。変わり続ける街の変わらない味は、いつでも温かく迎え入れてくれる故郷のようにホッとするものかもしれません。
最後は、ワインがお好きな野村さんにぴったりの一軒へ。「Liquorshop GrandCercle(リカーショップ グランセルクル)」は、国内外を問わず500種前後の銘柄が揃う、ワイン好きには頼もしいセラー。イタリア、フランスを中心に、近年、海外に劣らぬクオリティといわれる国産ワインまで幅広く揃い、お客様のお好みに適した1本をスタッフが選び、案内してくれます。
「好きなだけで、あんまり詳しくないんやけど」という野村さんに、「よく飲まれるのはどんなワインですか?」と、スタッフの網倉浩文さんがたずねます。
「これ!というものは本当に決まってなくて。イタリアもフランスもアメリカも、その都度、おいしそうと思ったものを。たくさんではないけれど、家でも外でも飲みます」。
野村さんの答えに、「お家ではどんなお料理と一緒に?」と網倉さん。
「オイルフォンデュとかも好きなんです」。
その言葉を聞き、網倉さんが案内してくれたのはフランス・ブルゴーニュの銘柄が揃う一角。「白でしたら、ドメーヌ・ド・ヴィレーヌのリュリー グレジニー。古木を使っているんですけど、ボリューム感のある果実味が特徴です。赤でしたら、クロード・デュガのブルゴーニュ ルージュ。とろけるようなタンニンと生き生きとした酸が豊潤で、飲み心地は柔らかい印象です」。
「家にストックするのは、ちょっと飲む分くらい」。そう話す野村さんですが、網倉さんのおすすめを聞いて「よし、買って帰ろう!」と、再び威勢良く即決。
「あまり考えない。考えても結果は一緒かなって。直感は大事だから」と野村さん。
洋服であれメニューであれ、この日、驚くほどの速さで決定を下していった野村さん。それも常に自らの感覚を研ぎ澄ませ、確かなものを選び抜くパワーのようなものが感じられ、さすがは「ナレッジキャピタル」の総指揮者らしい豪快さにしびれました。
うめきた・グランフロント大阪「ナレッジキャピタル」総合プロデューサー。株式会社スーパーステーション代表取締役社長。「ナレッジキャピタル」開業に先立ち、2009年よりコンセプトや事業戦略などを担当。2017年より、内閣府の科学技術・イノベーション分野における政策参与を務め、関西大学、大阪芸術大学の客員教授も兼任。
※ソーシャルディスタンスに配慮しながら、写真撮影時のみ、マスクをはずして取材を行いました。
写真/西島渚 取材・文/村田恵里佳 編集/蔵均 WEBデザイン/唯木友裕(Thaichi) 制作・編集/河邊里奈(EDIT LIFE)、松尾仁(EDIT LIFE)
大阪の第一線で活躍する方々と一緒に、生活を豊かにする視点、もの選びのコツに迫ります。館内の注目アイテム、心斎橋のお気に入りスポットをご紹介。心地よい暮らし、大阪のシビックプライドを求めて。
ARCHIVESProfessional's Eyes Vol.31
Professional's Eyes Vol.30