Professional's Eyes
スタイルのある暮らし
大阪の第一線で活躍する方々と一緒に、生活を豊かにする視点、もの選びのコツに迫ります。館内の注目アイテム、心斎橋のお気に入りスポットをご紹介。心地よい暮らし、大阪のシビックプライドを求めて。
ARCHIVES今回の「PROFESSIONAL'S EYES」は、大阪を拠点に活躍するテキスタイルデザイナーでありアーティストのはしもとなおこさんをゲストに迎え、暮らしの中でデザインがどう生かされているか、食がどれだけ大切か、大丸心斎橋店を巡りながら考えてみました。
最初に訪れたのは、フィンランドを代表するブランドで、うつわや雑貨などを揃える「iittala(イッタラ)」。はしもとさんが手がけるテキスタイルデザインは、どこか北欧テイストを感じさせますが、はしもとさんは、実際に2015年の冬、フィンランドに1カ月半滞在したそうです。
はしもとさんが訪れた冬のフィンランドは日照時間が短く、日が昇るのは午前10時から11時、午後3時ごろにはもう日が暮れてしまいます。
「ヘルシンキ郊外の家で、Airbnbで滞在していたのですが、大家さんも同じ家で生活していて、ちょっとホームステイみたいな感じだったんです。その時感じた家での心地よさみたいなものを、コロナ禍になって家で過ごすことが多くなり、よく考えるようになりました」。
はしもとさんも好きだという、フィンランドのテキスタイルブランド・マリメッコも明るい色使いのデザインが多いですが、これは冬の間、外が暗いので、家の中を明るくするためとも言われています。
「『イッタラ』もカラフルな色のうつわが揃っていますが、色って精神に関わるんだなというのをその時に感じて。私の作品も、差し色などもちょっと心が華やぐようなものになればいいなというのは、最近絵を描いてても思いますね」。
動物をモチーフにしたテキスタイルや絵画も多いはしもとさん、「イッタラ」を象徴するアイテムの一つ、オイバ・トイッカの作品にはやはり心惹かれるようです。
「すごいですよね、オイバ・トイッカさん。余計なものを極限まで削ぎ落としてるのに、ちゃんとモノの形が表現できてるのがすばらしいです」。
クリスマスシーズンにフィンランドを訪れたはしもとさん、その時の街や滞在した家の様子を聞いてみました。
「街中にモミの木屋さんが出て、お子さんを連れて買いに来て、それを担いで帰ったり。滞在していた家のクリスマス会に誘っていただいたのですが、ディナー後にツリーの横の暖炉の部屋に移動すると、サンタが来るんですよ。近所に住むふくよかなおばさんだったんですけど(笑)」
はしもとさんが、ふくよかなサンタにもらったのは、イッタラのキャンドルホルダーだったそうです。
「フィンランドでは、ただおしゃべりするだけの時でもキャンドルを灯していて、すごくいいなあと思って、私もなんでもない時に灯しています。寒い時は、それだけであったかくなるような気がします」とはしもとさん。
「イッタラ」でも、たくさんのキャンドルホルダーが揃っています。
フィンランドではホテルでの滞在では味わえない貴重な時間を体験したというはしもとさん。
「滞在した家では、いろんなところに当たり前に「イッタラ」が使われていて、クリスマスの食事のテーブルセットも「イッタラ」のお皿やキッチンペーパーでした」。
大丸心斎橋店でも、オーナメントなど、クリスマスに向けた商品も順次導入予定ですので、お楽しみに!
※2024年5月をもって閉店いたしました。
「もともと家で過ごす時間は好きだったんですけど、コロナ禍になって強制的に家で過ごさなければならない時間が増えてきて、より家の中のものに対する考え方が変わったかもしれないです。作家さんの作品をすごく買うようになりました。家でそれをぼーっと見てるだけで、いろんなイヤなことを忘れられる。豊かにしてくれるものに囲まれていたいという願望が、前よりも出てきたかもしれないですね」。
おうちの中のものにもより気を使うようになったと言うはしもとさん。ぼーっと眺められるアート作品も大切ですが、日用品として使うものも、心地のいいものを選びたいと言います。
「前に『ジョンマスターオーガニック』のシャンプーをプレゼントしてもらったのですが、パッケージが素敵ですよね。デザインがシンプルで、お風呂場にあるだけで少し嬉しくなります」。
「ジョンマスターオーガニック」は、ニューヨークのヘアサロンのスタイリストだった創業者のジョン・マスターが、「お客様にできるだけ化学的なものを取り除いたヘアケアアイテムをつけてもらいたい」と1994年に生まれたオーガニックコスメブランド。ヘアケアアイテムは特に充実しています。
「こんなにシャンプーの種類がたくさんあって、香りも全部違うんですか?」とスタッフにたずねるはしもとさん。ミントやハイビスカスなど成分によって香りも変わり、同じ香りはないとのことです。
「ジョンマスターオーガニック」はヘアケア用品だけでなく、スキンケアも充実しています。セラム(美容液)を試してみたはしもとさん、香りを嗅いでみると…。
「いい香りです。こちらの商品は、強すぎず、ふわんというぐらいの香りが心地いいですね」。
「ジョンマスターオーガニック」のアイテムは、基本的に女性用、男性用と分かれておらず、スキンケア用品は男性にも好まれているそうです。
「男性は、普段自分では買わない人が多いと思うので、プレゼントされたらうれしいかもしれませんね」とはしもとさん。
これからの季節必需品のリップカームも、ラズベリー、ミント、シトラス、バニラの4種類の香りが用意されています。「私はシトラスの香りが好きですね」と言うはしもとさん、隣に置いてあったプチギフトケースにも注目します。
「これかわいい! これだけでも欲しいかも!」
ジーンズのタグなどに使われているウオッシャブルペーパーという素材で作られたプチギフトケース。
「こういうケースに入れてプレゼントをもらえると、すごくテンションが上がりますね。あとで名刺入れとしても使えるかも?(笑)」
はしもとさんはここ数年、家の中での過ごし方に加えて、食生活の変化もあったようです。
「『あなたは半年前に食べたものでできている』という本を4年前ぐらいにたまたま読んで、めっちゃ面白いと思って。そこからずーっと食べることを実験しているみたいな感じで、そうしたら薬膳料理にたどり着いて…」
3年前から薬膳料理を習っているというはしもとさん。家では自分を整えるような食生活を心がけ、最近はちょっとした体の不調にも気づくようになってきたそうです。
「薬膳料理を勉強されていると聞きましたので、その時に使われる道具はどういうものを使っているのかなと思いまして。調理に合いそうなお鍋などを紹介させてください」。
そう言って案内役をしてくれたのは、海外ブランドをメインに、デザイン性と機能性に優れたキッチングッズや家電を揃える「リアルキッチン」の店長・東條千恵子さん。
「私が習っている薬膳料理は、漢方薬を使うのではなく、日本の昔ながらのおばあちゃんの料理という感じです。土鍋で玄米を炊いたりしてます」というはしもとさんに、まず案内してくれたのは「Vermicular(バーミキュラ)」のコーナー。
「『バーミキュラ』のオーブンポットは愛知県の町工場の職人が作るホーロー鍋です。無水調理ができて、素材のうまみを引き出してくれますよ」と東條店長。
続いて東條店長、ドイツのブランド「WMF(ヴェーエムエフ)」のマルチポットを紹介してくれました。遠赤外線効果があり、煮物はもちろん、揚げ物もできる万能型のコンパクトな鍋です。
「この形やサイズはあまり見ないですね」と言うはしもとさんに、「世界中で使われていますが、このタイプが一番人気なのは日本なんだそうですよ」と東條店長。
片手で使いやすく、少量のものを作る時に便利、愛らしい形が日本人に人気の理由でしょうか。ほかの国ではこの形を置いてない国もたくさんあるそうです。
「限られたスペースでいろんなことができるので、日本のキッチン向きですね。めっちゃ使いやすそう。これぐらいの高さがあって、小さめの直径の鍋ってあまりないような気がします」とはしもとさん。
続いてキッチン小物のコーナーに案内してくれた東條店長は、「これは今人気のホットサンドを焼けるイタリアの『BawLoo(バウルー)』のサンドイッチトースターダブル。2つに分かれていて、真ん中に凹んだラインの跡がつきます」とおすすめを紹介します。
しばらくサンドイッチトースターダブルに触っていたはしもとさん、ふと思い出したのか「私、イカ焼き器を持ってるんですよ。1回も使ったことないんですけど(笑)」。
聞けば、近所にイカ焼き器を作っているおじいさんがいて、すごく気になっていたのだとか…。「あのおじいさんがお店をやめる前に買わな」と思って、お金を握りしめて買いに行ったそうです。
思い出話に花を咲かせていると、「このケトルすごくかわいい!」とはしもとさんが目をつけたのが「富士ホーロー」のグレーの笛吹きケトル2.1L。
「ピーっとなる笛吹きで、こんなにかわいいのは初めて見ました。欲しいものがいっぱいですね」と言うはしもとさんに対して、東條店長は「調理用品は飽きません。見ているだけでも楽しめますよ」とにこやかに応えます。
食への関心がより深くなってきているはしもとさんは、味噌も自ら手作りしているそう。そこで、次は江戸時代から味噌を作り続けている老舗を訪れることにしました。
「あーよかった。今日はお味噌が好きな人に会えて」
取材中何度もそう言ってはしもとさんに笑顔を向けたのは、文政6年創業で200年近い歴史を持つ「大源味噌」の店長・岡洋子さん。大阪・日本橋の本店以外で「大源味噌」の常設店があるのは大丸心斎橋店だけです。
「手前味噌ですが、味噌を作っています。でも自分で作ると、やはり安定しないんですよ。店長、今日はいろいろ教えてください」とはしもとさん。
岡店長、まずは店に掲げられた『M wanグランプリ』のボードを指差しました。
「これは、いつも大源味噌を食べていただいているお客様に人気投票をしてもらったものです。1位が『松風』、2位が『合せみそ』、3位が白味噌の『白冨士』です」
「お味見、どうですか?」
そう言って店長が誘導してくれたショーケースに並んだ味噌を見たはしもとさんは、「なんかジェラートショップみたい!」。
実際にジェラート用のケースが使われているそうですが、岡店長、人気No.1の「松風」を皮切りに、次から次へとさまざまな種類の味噌をはしもとさんにすすめていきます。中でも特に強く推したのが、天然醸造無添加生味噌の「いろは」です。
「これは年に1回限定発売している、魚沼産有機コシヒカリ米と同じく魚沼産有機さといらずという希少な青大豆を使った『いろは』です。まろやかさが全然違うと思います。こだわりです。」
試食したはしもとさんも、その味の複雑さにおどろかされたようです。思わず「ほかの味噌と材料の分量が違うわけではないんですか?」と質問。
はしもとさんの問いに答える前に、岡店長「麦は好きじゃないですか?」と次の味噌をすすめはじめます。
「私は出身が鹿児島なので、みんな麦味噌を作ってました。鹿児島ではこれしかないから、小さい頃からこれで酢味噌を作ったりしてたんですよ。この『麦こうじ』(500g・864円)も麦味噌です」
岡店長の話を聞いていたはしもとさんは、店長がいつ頃いろいろな味噌と出合ったのか興味が湧いてきたようです。
「40歳過ぎまで麦味噌しか知らなかったですよ」と言う岡店長、はしもとさんに、「お雑煮は白味噌ですか?」と訊きながら、「この『白冨士』を食べてみてください。お雑煮にもできます」。
次から次にいただく全くテイストの違う味噌に、はしもとさんも一口一口満足そう。そんなはしもとさんに岡店長がさらにすすめてくれたのが、ちょっと珍しい「カレーみそ」です
「おかげさまでよく売れています。若い女性がよく買われるので、どうやって食べます?って聞いたら、パンに塗ってチーズを上に乗せてオーブンで焼いて食べるんだそうです」と岡店長。
「おにぎりの具とかにもよさそうですよね。ピザに塗ってもおいしそうだし、これだけでお酒のアテにもなりそう。ワインや日本酒にも合いそうですね」とはしもとさん。
「大源味噌」では、ジェラートケースに入っている味噌なら100gから買うことができます。
「それはうれしい。いろいろちょっと買って、味見をして好きなものを選ぶという買い方もできますね。一人暮らしの方には最高ですね。なかなかスーパーではそういう買い方できないですもんね」とはしもとさん。
ふと岡店長の胸のプレートを見ると、「みそソムリエ」と書かれています。
「はい、みそソムリエ認定協会が実施している試験を受けました。筆記試験やこれは何味噌か当てる味見とかです。昨年、夜行バスで行って、朝東京に着いて試験を受けて。落ちたらどうしようと思ってたんですけど、なんとか受かりました」と岡店長。
「すごーい。そんな味噌のスペシャリストがお店にいると、こういうふうにいろいろとお話を聞けるからいいですね。お味噌のパッケージに書かれていることだけ読んでもわからないですからね」とはしもとさん。
「今はお湯を注ぐだけのものもあるけど、具沢山で季節のものを入れて作った味噌汁を飲んだらホッとしますよね」と岡店長。
「ホッとします。出張とか、どこへ行くにもお味噌を持って行くんですよ」とはしもとさん。
「すばらしい! だからきれいなんですね。肌もツヤツヤで」と岡店長。
「お味噌って乳酸菌とかも入っているんですよね」とはしもとさん。
「あら、よくご存知で…」
岡店長とはしもとさんによる、味噌愛あふれる味噌談義は尽きることなく続きました。
最後に訪れたのは、「蜜香屋TISOU」。「蜜香屋」は中崎町の本店をスタートに、ここ数年立て続けに関西に店舗を展開、大丸心斎橋店は、大阪のミナミエリア最初の店として2年前にオープンしました。
実ははしもとさん、「蜜香屋」のオリジナル風呂敷と手ぬぐいのデザインを手がけています。その縁もあって、大丸心斎橋店がリニューアルしてから初めて訪れたのも「蜜香屋TISOU」だったそうです。
「『蜜香屋』の創業者・石山陽介さんとは10年前ぐらいから知り合いで、私がテキスタイルデザインをしているのでお声がけいただいて、3〜4年前に京都店ができるときに風呂敷を3種類作らせていただきました。その流れでオリジナルの手ぬぐい2種類も作らせていただきました」。
石山さんが語る、土の中の微生物や生物などの環境を整えることで、おいしいお芋ができるという話が印象的だったというはしもとさん。その話を受けて、風呂敷も土の中にいるミミズや青虫などを描いています。
「土の中にたくさんいろんな微生物がいて、それが全部大切でみんなそれぞれの役割を担っていて、人間社会でもいろんな人間がいてそれぞれに役割があって、そういうふうな社会にしていきたいという、めちゃくちゃ熱い話を石山さんはしてくれるんです」とはしもとさん。
「蜜香屋」の想いに共感したはしもとさんは、ちょっとした手土産は中崎町の本店で買っているそう。商品についても詳しく、「ケンピは店を出すたびに、新しいものを出されていますよね?」と自らスタッフに話しかけます。
「そうですね。京都店では茶ケンピ、大丸心斎橋店はニューケンピを販売しております。ニューケンピは、カカオやチャイといったちょっと変わった素材と組み合わせた商品を展開しています」と店長の山田麻友美さん。
このニューケンピを店頭で買えるのはここ大丸心斎橋店とJR新大阪キヨスクだけだそう。最近は、人気テレビ番組で紹介されたこともあり、取材中もこれを目当てに買いに来るお客さんが引きも切りませんでした。
「私、さつま芋が好きで、芋ケンピもめっちゃ好きなんですけど、この細さがたまらないですね。普通はもうちょっと太いですもんね」とはしもとさん。
「蜜香屋」の焼き芋は、量り売りもしています。はしもとさんはこちらの焼き芋大好きなようです。
「蜜香屋さんの焼き芋を食べて、めちゃくちゃ感動して。ねっとりしてて、砂糖などを加えなくてもスィートポテトみたいに甘くて。それも嫌味ったらしい甘さじゃなくて」
はしもとさんも絶賛する「蜜香屋」の焼き芋は、ほかの店のとは何が違うのか、山田店長に訊いてみました。
「蜜香屋では、土づくりからこだわったお芋をじっくり時間をかけて焼いていて、品種によって焼き方を変えたりもしています」。
「蜜香屋」で焼き芋を買うときは、いつも、「おいしいのをお願いします」とおまかせしているというはしもとさん。山田店長が好みを聞くと、「ねっとり系で」。
山田店長は紅絹(シルクスイート)をすすめてくれました。スイートポテトのような洋風な甘みがあるお芋です。
「石山さんが中崎町で店をやり始めたのが、多分10年ぐらい前だと思います。その時は、二人立ったらいっぱいになるような小さな店で焼き芋だけ売ってたのが、今は百貨店にまで店を出すなんてすごいですよね。しかも今こういう焼き芋屋さんすごく増えてますよね? その先駆けになってるような気がします」。
そう語るはしもとさんもフリーランスのテキスタイルデザイナーになってから、ちょうど10年。最近では企業とのコラボも増えるなど、着実に仕事の幅が広がっています。いろんな人間がいる社会の中の一人として、これからも素敵なテキスタイルやアートを生み出してもらいたいですね。
インテリアテキスタイル会社での勤務を経て、2011年よりフリーランスのテキスタイルデザイナー、アーティストとして活動。“ふとした瞬間を描きたい”という想いをもとに、2015年よりオリジナルテキスタイルの製作をはじめる。図案によって、また人の手に渡ることによってさまざまなカタチに変化する布の面白さを日々感じ、国内外での展示や、靴下メーカーやテキスタイルメーカーへの図案提供など、活動の場を広げている。
HP:http://www.hashimotonaoko.com
Instagram:https://www.instagram.com/hashimoto___naoko/
※ソーシャルディスタンスに配慮しながら、写真撮影時のみ、マスクをはずして取材を行いました。
写真/竹田俊吾 取材・文/蔵均 編集/蔵均 WEBデザイン/唯木友裕(Thaichi) 制作・編集/河邊里奈(EDIT LIFE)、松尾仁(EDIT LIFE)
大阪の第一線で活躍する方々と一緒に、生活を豊かにする視点、もの選びのコツに迫ります。館内の注目アイテム、心斎橋のお気に入りスポットをご紹介。心地よい暮らし、大阪のシビックプライドを求めて。
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