Professional's Eyes
スタイルのある暮らし
大阪の第一線で活躍する方々と一緒に、生活を豊かにする視点、もの選びのコツに迫ります。館内の注目アイテム、心斎橋のお気に入りスポットをご紹介。心地よい暮らし、大阪のシビックプライドを求めて。
ARCHIVES大阪・九条にある「シネ・ヌーヴォ」は、1997年に開館し、ロードショーの大作とはまた一味違う作品の上映やユニークな企画でファンも多いミニシアターです。支配人の山崎紀子さんは20年前からこの映画館で働き、現在は支配人を務めています。良質な佳作を観客に届ける山崎さんの目に大丸心斎橋店はどのように映るのか? 気になるショップを巡ってもらいました。
「このお店を初めて訪れた時、ディスプレイや空間の斬新さにびっくりしました。博物館みたいと思って」。
山崎さんが、そう言って驚いたのが「日本橋木屋」。東京・日本橋が本店の江戸時代に創業した老舗で、包丁を中心に金物全般や台所用品を扱うショップです。
空間ということでは、「シネ・ヌーヴォ」も独特で、今はなき大阪発の劇団・維新派が手がけていて、ほかの映画館とは一味違った趣を見せます。
「維新派のデザインは日常とは違う空間を訪れて映画を観てもらう、そういった演出がされています。天井も高く、映画館というより芝居小屋のような雰囲気もあります」と山崎さん。
西日本唯一の直営店である大丸心斎橋店の「日本橋木屋」も、山崎さんが感じたように、百貨店に入るショップとしてはかなり独特の空間。スタッフの天野花音さんは、「商品をいろんな角度から見て、実際に手に取っていただけるようにディスプレイしています。手になじむものを見つけて選んでいただき、愛着を持って育ててもらいたいですからね」。
天野さんの言葉に、山崎さんもモノを長く大事に使う大切さを改めて思い返したようです。
「今は安価で手に入るものも多いから、簡単に買い替えることもできるけど、私のおばあちゃんの家には、金だらいとか私が子どものころからすごく長く使っているものがあって。モノを大切にする暮らしには、やはり憧れますね」。
今どきのキッチンだと、道具は収納するシーンも多いけど、昔の台所はいろんなものを仕舞わずに調理台などにそのまま置かれていたイメージがある。「日本橋木屋」の店内は、その姿を思い出すと山崎さんは言います。
「昔ながらの道具も多いからですかね? ご年配のお客様でも『懐かしい〜』と言ってくださる方も多いです」と天野さん。
「ずっと使っているものってありますか?」という質問に、「20代の時から使っていた皮むき器が最近壊れて困っています」と山崎さん。すかさず天野さんは、「この『リッター』のピーラーは、私も、私の実家も使っていて、軽いのに切れ味がよくて、私はこれが一番好きです」と猛プッシュ。山崎さん、天野さんの勢いに押されて(?)ご購入されました。
「展示台の高さも、調理台の高さに合わせてあるのかなあ?」と言いながら、商品をゆっくり見て回る山崎さん。あるアイテムの前で足が止まりました。
「このすき焼き鍋、いいですよね。道具って、あれこれ万能なモノよりも、これだけにしか使わないモノがなぜか愛おしくなります。取っ手のデザインもかわいい」
肌寒くなってきて、「もう、日々鍋です(笑)」と言う山崎さん。というわけで、次は鍋関連の商品も充実し始めた「中川政七商店」へと向かいました。
※2024年7月をもって閉店いたしました。
「コロナの影響で飲食店が閉まっている時期に、家で料理を作ることが多くなりました。今の季節はやはり鍋ですね。鍋や湯豆腐ばっかり(笑)」
日用品や衣服、美容など、日本の工芸をベースにした生活雑貨を全国800のつくり手とともに生み出す「中川政七商店」を訪れて、山崎さんは食に関する商品の充実ぶりに目を見張ります。
「調味料もたくさんあるんですね。食品すべてにというこだわりはないんですけど、調味料はいいものを使いたいなというのはあります」という山崎さん。
「調味料は毎日使うものですから大事ですよね。お塩やお醤油など、いろいろと全国各地の産地のものを揃えています。今人気があるのが、こちらの浪速釜焚和砂糖。サトウキビを原料にしていて、甘さが控えめです」と店長の大槻紘子さん。
「全国各地で作られているものとして、今まではうつわを扱うことが多かったのですが、その地域を彩るものとして、食もうつわと一緒に味わっていただけたらいいなと思います」。
大槻店長の言葉を聞いた山崎さんは、「そうなんですよね。併せて買えるんですよね。だから家で何か料理をしようという気になれる」。
“併せて買える”というキーワードは、山崎さんが贈り物をする際にも当てはまるようで、親戚や元スタッフなどの出産祝いに、「中川政七商店」をよく利用するようです。
「スタイとかブルマパンツとか、同じ色みでセットにしてもらって贈ったりもしています。シンプルなデザインでめちゃくちゃかわいい」。
山崎さんはこういった赤ちゃん用の贈り物と併せて、お母さんへのプレゼントも買われるそう。化粧水やハンドクリームも一緒に贈ると、とても喜ばれるとか。
「そういうふうに贈られるとうれしいですよね。ハーブティーなど飲み物と併せて贈られる方もいらっしゃいますね」と大槻店長。
ベビー用品は素材も気になりますが、300年以上の歴史を誇る「中川政七商店」創業の地、奈良の工芸”かや織”は吸水性に優れ、使うほどにふんわり柔らかい風合いを楽しめます。
「このかや織ケットは甥っ子にプレゼントしたのですが、一緒に寝たら気持ちよくて。今は私も使ってます(笑)」と大槻店長も愛用する商品の肌触りを山崎さんが確かめます。
山崎さんは、映画館支配人として仕事上の付き合いなどで贈り物をする機会も多いのでしょうか?
「お世話になっている方を訪問する時に、手土産としてお菓子を持っていったりはしますね。劇場のスタッフに差し入れすることもよくありますよ」
スタッフの休憩時間がバラバラなので、その都度みんなが食べられるよう、個包装のものや常温のものを差し入れするという山崎さん。贈り物をする時に大事にしていることはありますか?
「まずは自分が欲しいものを、ってことも考えるんですけど、いや、この人はそういうのじゃないなと思ったり。考えだすとすごく時間がかかって、どっと疲れますけど(笑)、それは好きな時間ですね」。
贈る相手のことを考えながら、時間をかけてプレゼントを選ぶことは素敵なことです。山崎さんは、さらに個性的なプレゼントをいろいろ選べそうな「MoMA Design Store(モマ デザインストア)」へと向かいました。
実は山崎さん、2018年にニューヨーク近代美術館(MoMA)を訪れ、ミュージアムショップも訪れたそうです。そしてそこで親戚へのプレゼントを購入しました。
「姪っ子に、となりのトトロのぬいぐるみ型ポーチを買いました。すぐに姪に写真を撮って送ったんですけど、『なんでニューヨークでトトロ?』って感じでした(笑)」
ニューヨーク近代美術館のキュレーターがセレクトしたアートプロダクトや雑貨などを置く「MoMA Design Store(モマ デザインストア)」。日本の直営店は東京、京都、大阪の3カ所にしかありません。
「2年前、大丸心斎橋店がリニューアルオープンした時に訪れて、エスカレーターで上がってきたら目の前に『あっ!MoMAがある!』って。びっくりしてうれしかったです」と山崎さん。
プレゼントするのにもよさそうなアイテムがあちこちに並ぶ店内ですが、セレクトは全てニューヨーク近代美術館のキュレーターが担当しています。
「ニューヨーク近代美術館(MoMA)、ミュージアムショップは2019年に大きなリニューアルをして、ミュージアムショップのラインアップもどんどん変わってきています。チャンピオンやヤンキースキャップなど、MoMAロゴの限定商品や、MoMA収蔵アーティストとのコラボ商品を豊富に取り揃えています」と店長の豆鞘徹平さん。
そのほか目についたのは、アーティスト、キース・ヘリング関連のグッズ。氏の作品だけではなく、ちょっと珍しいアイテムも並んでいます。
ポラロイド社とコラボしたカメラを手に取った山崎さん、「ポラロイドカメラは好きで、よく撮っていました。今でも家にはありますよ」。
美術館を訪れた時は、必ずミュージアムショップを覗くという山崎さん。アート関連の本も好きで、アーティストとコラボした一筆箋などは、その場所でしか買えないので、よく手に入れるそうです。
「『シネ・ヌーヴォ』で上映する映画のチラシを送ったりするときに、一言メッセージを添えたりするので、一筆箋はよく使いますね」。
アートと映画がシンクロすることも多そうですが、「シネ・ヌーヴォ」ではアーティストの映画を上映したりもするんでしょうか?
「最近だと、写真家の森山大道さんのドキュメンタリーをかけましたね。10数年前には「≒(ニアイコール)シリーズ」というのがあって、草間彌生さん、舟越桂さん、会田誠さんなどが登場するドキュメンタリー映画を上映しました」と山崎さん。
ほかにも、先日、「シネ・ヌーヴォ」で開催された「妖怪・特撮映画祭」で上映した『宇宙人東京に現わる』では、宇宙人のキャラクターデザインを岡本太郎が手がけていたそう。
「昔は今よりも少し、アーティストと映画の関わりが多かったような気がします。垣根があまりなかったのかもしれませんね」。
続いて、この9月にオープンしたばかりの「聖庵」を訪れた山崎さん。朝はトースト、夜もワインのお供にパンをいただくことも多いそうです。早速、お好みのパンを探しにトレイを持って店内を回ります。
「聖庵」は1995年に北新地でオープンし、今では西淀川や中之島に店舗もあるのですが、オープンしたばかりの大丸心斎橋店は、他店にはないパンに合うコンフィチュールなども販売しています。
「進化した聖庵です」と胸を張る店長の森村明浩さんがお薦めしてくれたのは、イートインコーナーで食べることができるステーキサンド。
「神戸ビーフを扱う『ビフテキのカワムラ』とコラボしてできたサンドイッチです。サーロインは60℃で40分間の低温調理。ここでそれを炙って、小麦粉と酵母と砂糖と塩だけで焼き上げた『聖庵』の日本の食パンでサンドしています。ソースはカワムラの秘伝のソースで」と森村店長。
ゆったりしたイートインコーナーでステーキサンドを頬張った山崎さんは、「すごく贅沢ですね。パンがこんがりと香ばしいし、肉のやわらかさと肉汁がパンに染み込んで、絶妙な香りが口の中に広がります」。
ステーキサンドとコーヒーをじっくり味わった山崎さん。お家で食べる用に、と購入したのは、2種のオリーブとハーブのパンと田舎パン。
「田舎パンはトーストで。オリーブとハーブのパンは、チーズやワインと一緒に楽しめそうですね。アテっぽいパンもよく食べます(笑)」。
ワインに合いそうなパンを購入した山崎さん。次は、おいしいワインを探しに「Liquorshop GrandCercle(リカーショップ グランセルクル)」を訪れることにしました。
映画館での仕事を終えて、家に帰るとまずはビールかワインを飲まれるという山崎さん。オンとオフの切り替えに大切な役割を果たしているお酒についてもっと知るべく、「Liquorshop GrandCercle(リカーショップ グランセルクル)」に到着。
対応をしてくれたのは、ソムリエの資格を持つ店長の髙橋健次さん。普段山崎さんがどのようなお酒を飲んでいるかを聞きこみます。
「食べるものに合わせてお酒も変えるという感じです。お酒の知識がそんなにあるわけではないので、今日はいろいろと教えていただけるとうれしいです」と山崎さん。
「この店に置いているお酒は、ワインがメインで500種類ぐらいあります。そのほか日本酒、焼酎、ウイスキーといったものを扱っています。山崎さん、ワインは白、赤、スパークリングなどがありますが、お好きなのは?」と髙橋店長。
「一番多いのは赤ですね。昨日の夜はラムのスライス肉を買って、野菜と炒めたものをツマミながら、赤ワインを飲みました」といかにもおいしそうなマリアージュを語る山崎さんに、髙橋店長も相好を崩します。
「それは間違いなくおいしいですね。ワインもいろんな産地があって、最近はニューワールドと呼ばれるチリやカリフォルニアも多くなっていますが、うちの店はヨーロッパのワインが多いですね。フランスだったりイタリアだったり。」
先日「聖庵」で買った、くるみとイチジクのパンで赤ワインを飲んだと山崎さんが話すと、髙橋店長は早速合いそうなワインを薦めてくれます。
「そのパンなら、このアンティカ ヴィーニャ ヴァルボリチェッラ リバッソ2016なんてどうでしょう? イタリア・ベネト州のフルボディの赤ワインで、重過ぎない力強さで、凝縮感もあり、ちょっと甘みを感じられて合うと思いますよ」。
髙橋店長の的確なリコメンドに感心しながら、年代物のワインが並ぶ棚を見上げていた山崎さんは、「あっ、この1977年のワインは私と同じ生まれ年です。1950年代のワインもあるんですねえ…日本映画の黄金期ですね」。
「こういう古いものはなかなか見つからないので、贈り物にはいいかもしれませんね」と髙橋店長。
「グランセルクル」では、コロナの影響でしばらくお休みしていた試飲も再開しました。
「いただいていいんですか…」と遠慮がちに(?)、山崎さんも白2種、赤2種のワインを口に含みます。
この日試飲をした白ワインは、イタリアのパオロ レオ シャルドネ サレント ヌーメン2020(3,300円)と、同じイタリアのヴィラ モンガリ トレッビアーノ スポレティーノ ウンビリア カリカント2019(3,300円)。
飲み比べした山崎さんは、「全然違いますね。シャルドネはちょっと甘みがありますね」。
「こちらのワインは木の樽を使って熟成させているので、ちょっとバニラのような香りが付いていて甘みを感じるんですよ。ステンレスの樽で熟成させるともっとスッキリした味わいになります」と髙橋店長。
続いては、赤ワインも試します。まずはフランスのシャトー モン ベラ2015(3,520円)。
「このワインは、『神の雫』というマンガに登場して、当時1,000円台だったんですけど、高級ワインと飲み比べしても引けを取らないということですごく人気が出て、当時はなかなか手に入らなかったワインです。おいしいと思いますよ」と髙橋店長。
「おいしいです。あまり行かないんですけど、フレンチレストランやイタリアンで出てくるおいしいワインの味がします」と山崎さん。
続いては、スペインのニーチェ デ トーレ オリア プティ ヴェルド メルロ2016(2,200円)を試します。
「かわいらしい味。フルーツとかと一緒に飲みたいような。こういう独特な味のワインは初めて飲むかもしれないです」と言う山崎さんに、髙橋店長は「プチヴェルドという、普段スペインでは使われないブドウが入っているので、そのニュアンスが出て独特に感じるのかもしれません」。
最後に、好みのワインを見つけるためにどうすればいいかを髙橋店長に聞いてみました。
「好きなブドウ品種に出会ったら、それをいろいろ探してみるのがいいかと思います。僕は赤ワインは大体なんでも飲みますが、白はソーヴィニヨンブランという品種が大好きで、いろんな国のソーヴィニヨンブランを試しています」。
試飲した赤ワインを買って帰られた山崎さんは、今回大丸心斎橋店のショップを巡って、「どのお店でも、スタッフのみなさんが商品に対する愛情があって、それをちゃんと言葉で伝えてくれるのがすごいなと思って」と。それは、もしかしたら映画館の支配人として、自分が好きになった作品を観客に届けることと似ているのかもしれません。
大阪市出身。大阪美術専門学校で油彩画を学び、在学中には映画館でアルバイトをしていた。1997年に大阪・九条に開館した「シネ・ヌーヴォ」に2001年からアルバイトとして働き、2008年に支配人に。特集上映の企画や作品の選定、カウンター業務からフィルム手配まで、劇場運営全般の仕事に携わる。
※ソーシャルディスタンスに配慮しながら、写真撮影時のみ、マスクをはずして取材を行いました。
写真/コーダマサヒロ 取材・文/蔵均 編集/蔵均 WEBデザイン/唯木友裕(Thaichi) 制作・編集/河邊里奈(EDIT LIFE)、松尾仁(EDIT LIFE)
大阪の第一線で活躍する方々と一緒に、生活を豊かにする視点、もの選びのコツに迫ります。館内の注目アイテム、心斎橋のお気に入りスポットをご紹介。心地よい暮らし、大阪のシビックプライドを求めて。
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