Professional's Eyes
スタイルのある暮らし
大阪の第一線で活躍する方々と一緒に、生活を豊かにする視点、もの選びのコツに迫ります。館内の注目アイテム、心斎橋のお気に入りスポットをご紹介。心地よい暮らし、大阪のシビックプライドを求めて。
ARCHIVES2022年6月1日〜28日、大丸心斎橋店と心斎橋PARCOをステージに開催するアートイベント「SHINSAIBASHI ART WEEKS」。そのメイン企画となる「ART SHINSAIBASHI コンテンポラリーアートコレクション」で個展を開催する現代美術家の杉田陽平さん。今、躍動する美術家の一人である杉田さんが、気になるアイテムを求めて大丸心斎橋店を巡ります。
画材の特性を活かしたキャンバスドローイングや立体作品など、独創的かつスタイルレスな作風で近年注目が高まる現代美術家の杉田陽平さん。2020年にはAmazon Prime Videoの婚活サバイバル番組『バチェロレッテ・ジャパン』に参加し、「杉ちゃん」の愛称を得て話題に。美術界にとどまらないその活動は、アートの裾野を広げようと奮闘する一種の挑戦といえます。
そんな“異色の現代美術家”である杉田さんが最初に訪れたのは、「男の憧れ」と話す「S.T. Dupont(エス・テー・デュポン)」。1872年創業のフランスを代表するラグジュアリーメゾンで、ブランドの代名詞はライター。重厚感あるボディのキャップを開ければ響く、「ピーン」と甲高い音は唯一無二の気品を放ちます。
数あるガスライターのなかでも杉田さんのお目当ては、モネの名作「印象・日の出」を描いた限定コレクション。2019年に発売されたもので、表面には職人が漆塗りにより再現した名画が彩られています。
「6月の個展に向けて描いた作品には、この『印象・日の出』にオマージュを捧げた絵があるんです」。
杉田さんはスマートフォンを取り出し、その作品『朝と夕焼けが同じになった時間』のイメージを見せてくれます。
「朝焼けを描いたものですが、構図が似ている。モネさんって、肉眼で見える光を追いかけながら風景を描いていく。僕はアトリエの中で、夜の照明の光、窓から差す朝の光など、その時々で変化するトーンや時間帯を封じ込めるように描いていて、これは昔の巨匠になりきって描いた作品なんです」と杉田さん。
自作のモチーフに関わる名品を前にした杉田さんですが、ライターが活躍する喫煙習慣はありません。愛煙家の友人知人のためにポケットに名品を忍ばせておく、というのも粋な一手ですが、店内には実用的かつエレガントな高級筆記具もそろっています。
近年、新作の登場が続く限定コレクションは、シェイクスピアの戯曲「ハムレット」をモチーフにしたものも。
「アトリエって、あらゆるものが汚れちゃうので高級なものは置けない。でも、とっておきのペンはあったほうがいいでしょうね」。
万年筆を試し書きする杉田さんに、「ここぞ!という時のために、いいですよね」とスタッフの方が。「高級な作品の誓約書用とか(笑)。お客さんにそっと差し出して、断りづら〜くしたりして」と杉田さん。
冗談を飛ばしながらも、「デュポンに見合う男性になりたいもんです」とひと言。素敵なセットアップを身にまとい店内を巡るその姿は、ラグジュアリーメゾンの品格に決して劣らぬ気鋭作家の風格が漂います。
※2024年7月をもって閉店いたしました。
2021年にスタートした現代アートの一大イベント「ART SHINSAIBASHI」。来る6月15日〜20日に行われる第4弾は史上最大規模となり、期待の若手から巨匠作家の現代アート、人気の立体作品まで約200点の現代アートが大丸心斎橋店と心斎橋PARCOに集結します。
そのメイン会場となる心斎橋PARCO 14F PARCO GALLERYで、個展「色彩が、あなたの特別な言葉になれたなら」を行う杉田陽平さん。そのタイトルは、会場が彩り豊かな空間になることを予感させてくれます。
大丸心斎橋店にあるショップの中でも、色彩が重要なブランドイメージといえるのが「UNITED COLORS OF BENETTON.(ユナイテッド カラーズ オブ ベネトン)」。1955年にイタリアで創業されたブランドで、アイテム全般に共通するカラフルな色使いは、「第二次世界大戦後の暗い世界から早く脱却できるように」という創業者ルチアーノ・ベネトンの願いが込められています。
「ベネトンのアイデンティティは女性性なのですか?」と問う杉田さんに、「アイデンティティは人種や性別を超えたもので、レディスラインを男性がご購入されることもあります」とスタッフの児玉聖子さん。
大丸心斎橋店のラインアップはレディス中心ですが、今春より一部メンズの展開もスタート。2019-2020年秋冬コレクションからアーティスティックディレクターに就任したジャン・シャルル・ド・カステルバジャックは、ファッション業界だけでなく、アート業界の第一線でも活躍するデザイナー。
ルチアーノ・ベネトンとも長年の付き合いのあるカステルバジャックの洋服は、色を愛するエモーショナルなDNAと、ファッションではなく、スタイルを提案することを大切にしています。 原色のカラーパレットを感じるルックやスポーツシックなアイテムが並ぶ店内を歩くと、“色は自由や楽しさの象徴であり、万人が共通して愛するモノだ”というカステルバジャックの想いが伝わってくるようです。
「パリコレやファッション雑誌を参考にして、作品の色合いを考えることもあります。キャンバスをモデルに、絵の具のドレスを着せるイメージで」。
そう語る杉田さんにとって、ファッションはアイデアソースの一つ。レディスアイテムを中心に展開されるフロアを歩きながら、「お店って購入するだけじゃなくて、いろんな視点で楽しめる場所ですからね」と、色鮮やかな洋服たちに目を向けます。
個展タイトルに添えるほど、杉田さんが心を寄せる“色彩”。そこにはどんな思い入れがあるのか? 気になり問うと、来場するお客様との“あるやりとり”を教えてくれました。
「日本ならではの文化だと思うんですけど、お客さんがお土産をくださることがよくあって。抱えきれないバラをいただくこともあれば、肉まんやチョコレートなど食べものである場合も。すごくうれしいけれど、持ち帰れない、食べきれないということがあって。でも捨てるのはあまりに失礼。そこで、もしお持ちいただけるのなら絵の具をください、とお願いするようになったんです。すると僕が普段選ばないような色やメーカーの絵の具が届く。そうしていただいた絵の具を使って作品を仕上げる。だから僕の作品って、お客さんとの共作なんですね」。
観る者と共に作り上げる現代美術が、現在の杉田陽平さんの真骨頂。6月は大阪を舞台にどんな個展が繰り広げられるのか? 期待が高まります。
続いては、アートに通じるデザイン性を携えたプロダクトの宝庫、「MoMA Design Store(モマ デザインストア)」へ。MoMA(モマ)の愛称で知られるニューヨーク近代美術館のキュレーターがセレクトしたグッドデザインなアイテムがそろうミュージアムショップです。
ニューヨーク・ハーレム出身のアーティスト、フェイス・リングゴールドのアートワーク『Woman Freedom Now』を再現したスケートボードや、アナログレコードが自作できるトイ・レコードメーカーなど、店頭のニューアイテムに目を奪われつつ、杉田さんは「車の中で楽しめそうなもの」を探すことに。
“完売作家”の異名を持つ売れっ子美術家である杉田さんの愛車は、ポルシェのカイエン。クールな高級SUVの車内にどんなアイテムが仲間入りするのだろう…と注目していると、ひょいと手にされたのがミッフィーのライト。「バックシートにあったらかわいいですよね」と、想定外のチョイスに親近感を抱かずにはいられません。
「ここに置いてあるということは、これもアートに縁があるのですか?」と、続いて興味を示されたのは、LEXONのBluetoothスピーカー。
「LEXONのプロダクトを手掛けるデザイナーの作品がMoMAに収蔵されていることから、こちらでもお取り扱いしています」と店長の豆鞘徹平さん。
作品制作の際にも音楽を聞くという杉田さん。「ジャンルはR&BやHIP HOPが好きです。最近は大阪出身のSIRUPさんが大好きで、ずっと聞いています」。
6月の「ART SHINSAIBASHI」でも出品されるバンクシーやKAWS、ジャン=ミシェル・バスキアなど、現代アートの巨匠や人気アーティストの作品をモチーフにしたプロダクトが数多くそろう一角を前に、「影響を受けた作家はいますか?」と問うと…。
「ピカソですかね。ピカソって確固たるスタイルがないんです。語弊を恐れずにいえば、他人の良い部分を盗む天才。積極的に他者の才能を取り入れて自らの作品に昇華するのが本当に上手な気がして・・・」と杉田さん。次代を担う美術家の、創作性の片鱗が見えた瞬間でした。
※2024年7月をもって閉店いたしました。
モダンアートの世界から一転。続いては現代の暮らしに溶け合う“日本の工芸”を提案する「中川政七商店」へ。日常生活で用いる日本の道具は、「びいどろの酒器と洗体タオルくらい」という杉田さん。ですが、創作のヒントは日本古来のものから得ることもあるのだといいます。
例えば、着物や浴衣の裾が風でめくれる際にわずかに覗く、裏地の色柄にも気遣った江戸時代の人々に感化され、その発想を自作に投影したことも。
6月の個展に向けて新たなヒントがあればと、まず向かったのは世界的建築家の隈研吾と中川政七商店のコラボレーションから生まれた「Kuma to Shika」シリーズがそろう一角。なかでもユニークなのは、建築資材である飛散防止シートで仕立てたバッグ。プリーツ加工が施された生地は薄手で、驚くほど軽い。それでいて耐荷重は15kgと、実用性も抜群のアイテムです。
お皿やグラス、カトラリーや調理器具など、とりわけ食卓の道具が充実している店内ですが、杉田さんの食生活は外食あるいは出前が大半。幅広い交友関係を持ち、年に数度の個展を開く人気作家ゆえ当然で、器などは「父母や姉へのプレゼントで買うくらいなんです」と恐縮する杉田さん。
ぐるりと店内を巡り、最後に辿り着いたのは涼しげな扇子が集う一角。
「似合う男性になりたいですよね」と、さらり広げてみた姿は、今日のお召しものと相まって、まるで若旦那のよう。
「いらんことばっかり言ってそうですよね」と謙遜しながら笑う姿は、本当によくお似合いでした。
色鮮やかな扇子を前に、「好きな色は?」と問うと、「赤ですかね」と杉田さん。
「でも好きな色と身につける色は別。身につけるものは地味なものが好きなんです。正直、目立ちたくない(苦笑)。『バチェロレッテ・ジャパン』の出演時は、バラの刺繍など派手なあしらいの衣装を作って演じていたんですけど、あれは普段の僕とは逆。(自ら制作する)作品も同じで、僕自身ではない産物なので色鮮やかに好きなようにできるんですよね」。
「個展の時はこれを持って。和装で在廊するのもいいかもしれないですね」と、最後は扇子をお買い上げ。6月の心斎橋PARCOでは、若旦那さながら粋な装いの杉田さんに出会えるかもしれません。
三重県がご出身の杉田さんにとって、「大阪すし」とも呼ばれる押し寿司は親しみのある関西グルメ。「父や親戚が大阪へ行ったからとおみやげで買ってきてくれて、食べていた記憶があります。でも、こうしてお店でいただくのは初めてです」。
杉田さんが背筋を伸ばして着席したのは、江戸時代から大阪すしを守り伝える老舗「すし萬」のカウンター。初めてならば看板名物をと、注文したのはその名も「大阪すし」。懐石料理の全要素が盛り込まれることから、“二寸六分の懐石”なる異名も持つ「すし萬」の代名詞的逸品です。
「元々、押し寿司というのは冷蔵技術や汽車などの交通手段がない時代のお弁当でしたので、常温で日持ちがするように作られています。酢が調味料として普及する前は、白ご飯に魚を置き、漬物石のような重しをのせて自然発酵させることで酸味を醸した。ご飯粒の間に空気が入っていると腐敗が進むので、押して仕上げる工程になったのだそうです」と教えてくださったのは、店長の岡村さん。
「こうしてお話を伺えるのもおもしろいですね」と、杉田さんはカウンターの醍醐味を堪能しながら大阪すしを堪能しました。
改めて6月の個展について伺うと、「(PARCO GALLERYで開催する)コンテンポラリーアートコレクションと題したイベントは、僕の展示以外にも名だたるアーティストの作品が並びますので、全体を巡りながらぜひ見比べてみてください」と杉田さん。
「僕は(美術家でありながら)つなぎ役。通常のアートの展覧会は、既存の価値がわからない人は置いてけぼりになりがちだと思うのですが、僕はお客さんとコミュニケーションを取ることで現代美術の何がすばらしいか?を伝えたい。個展に来てくださる方はお子さん連れの親御さんも多くて、子どもがさわれる作品も用意しています。僕をきっかけに、アートっておもしろいのかもしれないと好奇心を持ってくれた人たちに、本当にアートを好きになって欲しいんです」。
業界の裾野を広げるべく、矢面に立ち活動するアーティストは少ないが、杉田さんはそれを自ら買って出る類い稀なる現代美術家。彼の存在は、これからも多くの人に開かれた現代アートの入口となるはずです。
2022年6月15日〜20日の「ART SHINSAIBASHI」では、心斎橋PARCO 14F PARCO GALLERYで個展を開催。三重県立飯野高等学校応用デザイン科卒業後、武蔵野美術大学造形学部油絵科に進学。在学中に革新的な絵画を次々に考案し、様々な絵画コンクールで受賞を重ねる。2020年にはAmazon Prime Videoの婚活サバイバル番組『バチェロレッテ・ジャパン』に参加し、アート業界にとどまらない大きな注目と人気を得る。
※ソーシャルディスタンスに配慮しながら、写真撮影時のみ、マスクをはずして取材を行いました。
写真/西島渚 取材・文/村田恵里佳 編集/蔵均 WEBデザイン/唯木友裕(Thaichi) 制作・編集/河邊里奈(EDIT LIFE)、松尾仁(EDIT LIFE)
大阪の第一線で活躍する方々と一緒に、生活を豊かにする視点、もの選びのコツに迫ります。館内の注目アイテム、心斎橋のお気に入りスポットをご紹介。心地よい暮らし、大阪のシビックプライドを求めて。
ARCHIVESProfessional's Eyes Vol.42
Professional's Eyes Vol.41