Professional's Eyes
スタイルのある暮らし
大阪の第一線で活躍する方々と一緒に、生活を豊かにする視点、もの選びのコツに迫ります。館内の注目アイテム、心斎橋のお気に入りスポットをご紹介。心地よい暮らし、大阪のシビックプライドを求めて。
ARCHIVES大阪にゆかりのあるゲストに、テーマを持って大丸心斎橋店を巡ってもらう「PROFESSIONAL‘S EYES」。今回のゲストは、大阪を拠点に世界的に活躍する絵本作家・谷口智則さんです。氏が手書きで描く本の世界に通じる、ぬくもり、あたたかみのあるものを大丸心斎橋店で探してみました。
谷口さんは、四條畷に「gallery & cafe Zoologique」を構え、大阪を拠点に活躍している作家ですが、フランスでも絵本が出版されるなど、世界的に知られた絵本作家。この5月には新作の『つきをなくしたクマくん』も発行されました。
「このブランドは、素材や仕立て方などにぬくもりがあり、僕の絵本の世界に通じるものがあるような気がします」。
そう言って谷口さんがまず訪れたのは、大丸心斎橋店本館5階の「Jurgen Lehl+Babaghuri(ヨーガンレール+ババグーリ)」。ポーランド生まれのドイツ人であるヨーガン レール氏が立ち上げたブランドで、天然素材や(大量生産を避け)人の手によるものづくりを大切にしているブランドです。
「これはいい色ですね」と谷口さんが手に取ったのは、リネン100%の半袖シャツ。
「形も好きだし、涼しげでこれからの季節にぴったりですね。パッと見たら水色なんだけど、よく見たら黄土色っぽい色も入っているんですよね。僕も絵の具を混ぜて色をつくるので、何か近いものを感じます」と谷口さん。
谷口さんが絵を描くときは、赤、青、黄などアクリル絵の具6色だけを使い、混ぜることで自分の色をつくりだしているそうです。
さらに藍色の長袖ブラウスを手にする谷口さん。ご自身が運営する「gallery & cafe Zoologique」では、谷口さんご本人が染色したTシャツを販売することもあるそうで、興味をひかれた様子。
試着した谷口さんは、「肌触りがめちゃくちゃ気持ちいい。素材感がいいし、手織りですよね?」
谷口さんは、2年前にギャラリー&カフェの2階に日本各地の民芸品や手づくりの生活雑貨などをそろえるセレクトショップをオープンしました。
「最近、いろいろな職人さん、作家さんのものづくりの現場を見る機会が増えて、そういうものを紹介する店ができればいいなと思ってつくりました。一つ一つ手づくりされたものがいかに価値があるか。それを子どもたちに伝えていきたいなと思うんですよね」。
デジタルで絵を描く作家さんも増えている中、手描きですべての絵本を生み出している谷口さんは、手仕事へのリスペクトがあり、「ヨーガンレール+ババグーリ」のアイテムにもシンパシーを感じるよう。店頭に置かれているカトラリーを見ながら、「これ水牛の角ですよね? 僕は学校の支援をする絵本プロジェクトに関わっていてカンボジアにも行くのですが、水牛がいっぱいいますよ」。
鉄器や銅のケトルを見ていた谷口さんは、「『つきをなくしたクマくん』にも似た感じのケトルが出てきますよ。本に登場するものは、ちょっとした小物でも全部こだわって描いてるんです」。
『つきをなくしたクマくん』ではハチミツも重要な役割を果たしますが、店内にあるエチオピアのハチミツを見つけた谷口さんは、「コーヒーの中でエチオピアのコーヒーがいちばん好きです。ハチミツもきっとおいしいでしょうね」。
※2024年7月をもって閉店いたしました。
手描きで作品を生み出す谷口さんにとって、筆記具は重要なもの。続いては、万年筆やボールペンなど、海外の筆記具が豊富にそろう「心斎橋筆記具倶楽部」を訪れました。
「本のあとがきを万年筆で手書きしたものをそのまま載せたり、イラストを万年筆で描くこともあります」と谷口さん。今持っている万年筆はあまり高級なものではなくカジュアルなものだそうです。
スタッフさんに「よかったら書いてみられますか?」と勧められて手にしたのは、ドイツのブランド『Pelikan(ペリカン)』の万年筆・スーベレーン800。「ちょっと書いてみますね」と、谷口さんはサイン、サルとウサギの絵をスラスラと描きはじめます。
「書き味が全然違いますね。今使っている万年筆はペン先が引っかかったりするんですが、これは全くないですね。これ欲しいです。サインをこれで書いたらすごくよさそう。サインペンのようなもので書いていると、結構手首が痛くなってくるんですよ。これは力を全く入れずに書けるからいいですね」
サイン会などで多いときは日に300冊ぐらいの本にサインをするという谷口さん。実際のシーンを想定して、ご自身の著書にサインとクマと女の子の絵を万年筆で書いてみることに。
「これだと効率が上がるなあ」。
サインペンではなく、万年筆がサイン会で活躍する日が近いかもしれませんね。
「これ、デザインがかわいいですね。こちらも試し書きしてみていいですか?」と谷口さんが手にしたのはボディにシルバーのラインが入ったクラシック215ブラックの万年筆。18金のペン先だったスーベレーンに対して、こちらのペン先はステンレススチールです。
「僕の持っているのはカートリッジ式で、インクを注入するは初めてなんですよ。どうやってやるんですか?」という谷口さんに対して、「ピストン吸入式となっていて、ペン先をインク壺に隠れるぐらいまでつけて、尻軸の吸入ノブをゆっくり回していただくとインクを吸います」とスタッフさん。
「ブルドッグの探偵が主人公の本があって、その探偵がインク壺にペンをつける絵を描いたことはあったんですけど、実際に使っているところを初めて見ました(笑)」と谷口さん。
クラシック215で書きはじめた谷口さんは、「ラフスケッチは、いつもボールペンで描いているんですけど、万年筆で描くのもいいですね。インクのたまったところなど、線にぬくもりが出ていい感じです」。
谷口さんのトレードマークとなっていると言っていいのが、頭の上にちょこんと乗った帽子。かつては色々な種類をかぶっていましたが、今は「ボルサリーノ」ばかりを身につけているそうです。昔から大丸心斎橋店でよく購入していたという谷口さん、愛用する理由はなんですか?
「デビューしてからずっとこのスタイルなので、サイン会にも帽子をかぶって行くんですが、めちゃくちゃ疲れるんですよ。ある時『ボルサリーノ』をかぶってやってみたら、すごく軽くてすごく楽だったんですよ。それ以来『ボルサリーノ』ひと筋です」。
冬にかぶることの多いフェルトハットや夏のパナマハットなど、多くの「ボルサリーノ」の帽子を持っているという谷口さんですが、そのスタイルには独特のこだわりがあるようです。
「好きな形が限られていまして。つばが短くて高さがあるスタイルが好きなんですね。今かぶっている帽子も自分でトップをふくらませて少し高くしています」。
谷口さんの好みに合うようにと、セールスエキスパートの森真子さんが、つばが短めのパナマハットを用意してくれました。
「トップクラウン(帽子のてっぺんの部分)は同じ木型を使って作っているのでほぼ同じ高さなんです。リボンが細いと高さがあるように見えるという視覚効果はあると思いますが…」と森さん。
「持っているのは、基本的に黒が多いですね」という谷口さん。ナチュラルベージュのパナマハットはリゾート感があるため、公式な場には合わないと思っていたそうですが、真っ白なタイプなら、「カジュアル感も抑えめで、サイン会でかぶるのにもよさそうです」とのこと。
店を歩き回り1点1点手に取って素材感や形を確認する姿から、深い帽子愛が伝わってきます。
「この色いいですね」と谷口さんが見つけ出したのは、今年登場したという新色のパナマハット キート(39,600円)。
「『ボルサリーノ』の中では、パナマハットもいくつか種類がありまして、このキートは、『ボルサリーノ』でメイン・アイテムとなるパナマファインよりも少し太いトキヤ草を使って編んでいるタイプです。太いので、編んだあとしっかりした硬さが出ます」と森さん。
「軽いですねえ。タグの方が重いんじゃないですか?(笑)」と谷口さん。
帽子の形を自分で変えるのは、作家が持つ堅いイメージをやわらげ、親しみやすいかわいらしさを出したいからという谷口さん。描いている動物たちにも通じる、愛らしさを醸し出しています。
フランスでも絵本を出版している谷口さんは、20代の後半から30代の前半にかけて、パリやフランスの都市に年に何度も足を運んで、サイン会などをする日々を過ごしていました。その後もコロナ禍前までは、年に1度はフランスを訪れていたそうです。
「パリ郊外のモントルイユで、毎年12月に世界的な児童書の見本市があって、世界中から絵本作家さんが集まってきてサイン会をするんですね。週末は家族連れが多く集まり、子どもたちは作家さんに絵を描いてもらった絵本を持って帰れるんです」。
谷口さんが絵本作家を目指す大きなきっかけとなったのは、浪人生活の頃、大丸梅田店で開かれたイギリスの絵本作家展を見たことだそうです。
「ブライアン・ワイルドスミスやチャールズ・キーピングなど、今でも好きな作家さんの絵を見てすごく感動しました。絵もきれいだし、ストーリーも深くて伝わってくるものが多くて、絵本作家になりたいと思いました。ある年のモントルイユの見本市で、その展覧会に出展していた作家さんがサイン会をしているのに出くわして。こういうのいいなあ、日本でもやりたいなあと思って、カフェをオープンしました」と谷口さん。
モントルイユに交通の便がいいバスティーユ近辺に宿を取ることが多いという谷口さん。関西では大丸心斎橋店にしかない「LE CHOCOLAT ALAIN DUCASSE(ル・ショコラ・アラン・デュカス)」のパリの本店は、バスティーユにあり、そこにも訪れたことがあるそうです。
パリに行くときはパティシエの友人と同行し、カフェなどでスイーツも堪能するという谷口さん。チョコレートも大好きということで、「ル・ショコラ・アラン・デュカス」のイートインコーナー、ル・サロンで期間限定のデザート、パヴロヴァ・ショコラ・エキゾティックを味わっていただきました。
運ばれてきたデザートを見た谷口さんは、まず「めちゃくちゃ美しいですね」と一言。そして「新しいものより、歴史のあるものが好きなんですが、パリの街並みにはそういうものが残っていて美しいですよね」と、パリの美しさにも話が広がります。
パヴロヴァ・ショコラ・エキゾティックをひと口食べた谷口さん、「マンゴーとメレンゲが入っていておいしい。ライムのジュレがいい仕事していますね。甘いものの中に、酸っぱいものが一つ入るとすごく合いますよね」。
最後に訪れたのは、7階の「For kids’by こぐま」。国内外のおもちゃや知育玩具が数多くそろうショップです。
絵本作家として、世界中にファンの子どもがいる谷口さんですが、ご自身も小学校6年生の息子さんと小学校2年生の娘さんがいます。
「息子はプラレール、娘はメルちゃんでよく遊んでいました」
谷口さんは、絵本が出版される前に、誰よりも早く息子さんや娘さんに読み聞かせをして、その反応を見て描き直しをすることもあるそうです。「一番最初の読者ですね」と優しい表情で教えてくれました。
動物が主人公の作品が多い谷口さんですが、「For kids’by こぐま」にもフランスで生まれたキャラクター「キリンのソフィー」のアイテムが置かれています。
「1961年に誕生しているのか。長く使われているというのはいいですね。絵本も長く読み継がれていくものだと思っているので」。
親が読んでいた絵本を、その子どもがまた読んで、時代を超えて愛されていく。それと同じように、「キリンのソフィー」も、自分の子どもに買って遊ばせていたというおばあちゃん世代が、孫へのプレゼントにまた買うこともあるそうです。
「これ、全部かわいいですね」と谷口さんが注目したのが、「Attipas(アティパス)」という歩育シューズ。はだしの感覚で歩けるベビーシューズで、つかまり立ちなどでちょっと歩き出した子どものサポートになるものです。
海辺で履けそうなデザイン、シンプルな無地のデザインなど、多彩なデザインに目を凝らしていた谷口さんは、「僕の絵本の女の子が、こういう靴を履いてるんです」と目に留めたのが赤いリボンがついた「アティパス」。
「ちょっとしたプレゼントにとてもいいですね。妹にもうすぐ女の子が生まれるので買っておこうかな」。
黒い紙にすべて手描きで色を重ねていくという谷口さんの絵本の世界。それに通じるぬくもり、あたたかみのあるものが大丸心斎橋店でも数多く見つけられました。
1978年大阪府生まれ。20歳の時にボローニャ国際絵本原画展や大丸心斎橋店で開催されたイギリスの絵本作家展を見て、独学で絵本を作り始める。金沢美術工芸大学で日本画を専攻しながら絵本を制作。2004年に『サルくんとお月さま』でデビュー。2007年にはフランスのLe petit lezard社より絵本『cache-cache』が出版される。その後数々の絵本を出版し、2012年に四條畷に「gallery&cafe Zoologique」オープン。2022年5月には新作『つきをなくしたクマくん』が発行され、7月9日〜9月11日まで、広島・ふくやま美術館で「絵本作家 谷口智則展〜いろがうまれるものがたり〜」を開催。
※ソーシャルディスタンスに配慮しながら、写真撮影時のみ、マスクをはずして取材を行いました。
写真/西島渚 取材・文/蔵均 編集/蔵均 WEBデザイン/唯木友裕(Thaichi) 制作・編集/河邊里奈(EDIT LIFE)、松尾仁(EDIT LIFE)
大阪の第一線で活躍する方々と一緒に、生活を豊かにする視点、もの選びのコツに迫ります。館内の注目アイテム、心斎橋のお気に入りスポットをご紹介。心地よい暮らし、大阪のシビックプライドを求めて。
ARCHIVESProfessional's Eyes Vol.43
Professional's Eyes Vol.42