Professional's Eyes
スタイルのある暮らし
大阪の第一線で活躍する方々と一緒に、生活を豊かにする視点、もの選びのコツに迫ります。館内の注目アイテム、心斎橋のお気に入りスポットをご紹介。心地よい暮らし、大阪のシビックプライドを求めて。
ARCHIVES長らく大阪のアートシーンに根を下ろし、アーティストがチャレンジできる実験的な場を作りながら、自らもクリエイターとしてグラフィックや写真、映像などさまざまなメディアを通して表現活動をおこなっている滝本章雄さん。2023年の次なる活動に向けて、アイデアソースを探し求める滝本さんが、自身のアンテナを刺激した大丸心斎橋店本館の店々をめぐります。
「以前、個展をやっていたときにお花を持ってきてくれた若いアーティストがいて、花を贈るって素敵だなぁと。でも生花だから仕方がないんですが、枯れてしまった姿は少し寂しくなりますよね。贈り物ってそもそも気持ちが込められたものだから、何か残るものにならないかなって思ったことがあって。僕が制作する作品はグラフィックを用いたプリント作品なので枯れることなく残る。そこで“記録と記憶のあいだ”をテーマに、花の写真を幾重にも重ねた新作を制作しようと思ったんです」
アートディレクターでありクリエイターの滝本章雄さんが、最初に訪れたのは自身が現在取り組む作品のモチーフである花にまつわるお店。「Belles Fleurs(ベル・フルール)」は東京に本社と工房を構える日本初のプリザーブドフラワー専門店で、こちらの大丸心斎橋店は2022年8月に開店した大阪唯一の直営店です。
「コーディネートされているお花を見て、面白い感覚を得られたら」と興味をお持ちの滝本さんに、店長の内田しょうこさんが「ベル・フルール」のプリザーブドフラワーについて案内してくれました。
「プリザーブドは“保存する”という意味で、本物の生花に特別な加工を施すことで長期間楽しんでいただくことができます。弊社では生花を仕入れ、東京にいる専門のデザイナーが本社アトリエでブーケやグリーンウォールなどの作品を仕上げます。例えばお花は仕入れたものをそのまま使うのではなく、花びらに美しい動きが出るよう仕上げることも。そして小さな箱に収めてしまうのではなく、生花のフラワーアレンジメント同様に飾っていただけるようなデザインを考え作っていることも特徴です」と内田さん。
基本はオーダーメイド。店内にはフラワーコンシェルジュと呼ばれるスタッフが常駐し、お客様からうかがった要望を東京のデザインチームに伝えることで、世界に一つだけの、モダンかつ高級感あるプリザーブドフラワーを作り上げます。
華麗で色彩豊かな花々に囲まれ、内田さんの話に耳を傾けていた滝本さんは、「お花のあるところって幸せな場所が多いじゃないですか。だからお花を仕立てて届けるって素敵なお仕事ですよね」と頬を緩めます。新作の構想については、「お花がきれいな春先に撮影をして、2023年の年内には作品を発表できたらいいなぁと」。
続いて訪れた「MoMA Design Store(モマ デザインストア)」は、MoMA(モマ)の愛称で知られるニューヨーク近代美術館によるミュージアムショップ。自身もクリエイターとして作品発表を続けながら、同時に大阪・天満橋のクリエイティブスペース「PLANT/ART Lab OMM」を約10年に渡り運営するなど、現代の表現者やその作品の発信にも力を注いでいる滝本さん。
いわく、「MoMAはギャラリーからスタートして美術館になり、さらにミュージアムショップを世界に展開して。作家と一緒に活動できるフィールドをいろんな現場に作る、その発展の流れそのものがすごいことだなぁと。60年代にはビデオアートやメディアアートの所蔵も始めていて、MoMAは先駆的で、そういう点も素敵だと思っていました」。
大阪を拠点にアートシーンの一翼を担う滝本さんにとって、MoMAは敬意を払う存在であると共に、学ぶべきことが多い偉大な先輩でもあるようです。興味持って店内を歩きながら、「お箸も置いてるんですか?」と滝本さんがまず目を向けたのはウキハシ。先端が浮き上がるデザインになっていて、テーブルに直接置いても箸先が触れないというグッドデザインなプロダクトです。
「モマ デザインストア」が展開する商品は、すべてMoMAのキュレーターがセレクトしたもの。
「MoMAオリジナルで作られている商品もありますが、セレクトしている商品も数多くあります。なかには日本のバイヤーが選んだ国内独自の取り扱いアイテムもあり、ウキハシもその一つ。ですが、こちらも現地のキュレーターに承認を取った上で展開しています」と、案内してくれたのはスタッフの上本麻衣さん。
そんな上本さんにおすすめを聞くと、現在、京都で展覧会がおこなわれているポップアートの巨匠、アンディ・ウォーホルのプロダクトが並ぶコーナーへ。
すると滝本さんは、「ウォーホルのファクトリーという場や、そこで起こっていたことがすごく面白いと思っていて」と切り出し、やがて話題は「これからの大阪のアートシーン」へ至りました。
「心斎橋PARCOの地下にある『TANK酒場/喫茶』店主の古谷さんや、京町堀にある『chignitta』の谷口さんを筆頭に、場所は違ったり変わっても、関西カルチャーシーン・アートシーンを引っ張って来た先輩たちが何十年も前から今も続けてくれていることって、ウォーホルのファクトリーで起こっていたカルチャーパーティーのイメージに近いなぁと思っているんです。アートに限らず、いろんな業界の面白い人たちが集まって、つながることで何かが起こる。大阪って街や人の気質的にもカルチャーパーティーと相性が良い土地だと思うんです」
滝本さんは現在、大阪港にある「CASO」という大型フォトスタジオ内に、カルチャーシーンを発信できるスペースをつくるプロジェクトにも参加。CASOアート特区プロジェクトのディレクターとしても2023年4月のオープンに向け、企画を進めています。
「今後2〜3年の間に、大阪の各所で面白いカルチャーパーティーがもっと多く生まれる予感がしています」
※2024年7月をもって閉店いたしました。
自身の作品である証に、あるいは作品を販売する際の証明書に、直筆のサインを添える機会が少なくない滝本さん。
「大切な場面で使うペンは、できることならこだわりたい」と、続いてはクラフトマンシップあふれる世界の筆記具がそろう「心斎橋筆記具倶楽部」を訪れました。
宝石のごとくショーケースに並ぶ万年筆やボールペンを見つめる滝本さんに、「サイン用でしたら」と、筆記具を熟知した専門スタッフが差し出してくれたのは英国のブランド、PARKER(パーカー)が独自開発した「5th(フィフス)」と呼ばれるシリーズの1本。
「5thは、ボールペンやペンシルなど既存のペンの世界で5番目の、第5のペンという意味なんです。万年筆のような書き心地なのですが、インクは替え芯を交換しながら使える手軽さも魅力的な新感覚のペンです。替え芯は耐水性インクですので、耐水性ならインクが滲むこともありません。お水を含ませても、ほぼ滲みません」。
試し書きしたインクの上に水滴を落とし実演してくれるスタッフに、滝本さんの目は釘付けに。「ぜひお試しください」というすすめを受け、5thを走らせると「これすごい!」となめらかな書き味に驚いた様子の滝本さん。「作品や契約書へのサインは耐水が必須だから、すごく良いですね」と、早速お気に入りの1本に出会いました。
「作品づくりをされている方であれば」と、続いてスタッフが差し出してくれたのは、イタリアの2人の万年筆収集家が設立したブランド、VISCONTI(ヴィスコンティ)による逸品。ヴィスコンティは昔ながらのハンドメイドで万年筆を作ることで知られ、画家のフィンセント・ファン・ゴッホやレンブラントの名画をイメージして作られたアートシリーズは、表面のマーブル柄のカッティングが1本ずつ異なるという1点ものです。
「1点ものとか、触るのがこわいです…」と緊張した面持ちでゴッホシリーズを握り、紙にペンを走らせた滝本さんは、「これもまた書きやすいですね」と新たなお気に入りの出現に悩ましいご様子。続いて「こちらは表面に溶岩を使った商品になります」と繰り出したスタッフに、「持ってくる順番がやらしい(笑)。そう言われると気になるわ〜」と関西人らしいツッコミを入れながら、続々と登場するスペシャルな筆記具に「面白いなぁ」とひと言。
「鉱石が出てくるとは思わなかったですね。年末年始の個展で作品をちゃんと売って、来年にはお気に入りの1本を買いに来ます!」と宣言し、お店を後にしました。
※2024年7月をもって閉店いたしました。
世界遺産の町としても知られる、島根・石見銀山の麓に位置する大田市大森町。豊かな自然と懐かしい町並みが残るこの町に根を下ろし、ものづくりを続けている「石見銀山 群言堂」。その姿勢に共感されたという滝本さんですが、ショップを訪れるのは初めて。
洋服を中心に、生活雑貨や食品、基礎化粧品も並ぶ店内を見渡しながら、一角でお客様に商品について話すスタッフの姿に滝本さんは目をとめました。
「製品の作り手や、作られる経緯や過程についてすごく丁寧に伝えられているんだなと思って」
第一印象を伝えた滝本さんに、「群言堂は伝えることを大事にしている会社なんです」と店長の真谷有子さん。
「例えば洋服の生地を織っている機屋さんなど、強い想いを持ってものづくりをされている方たちとお仕事をさせてもらっているので、私たちはその想いをお客様や世界にいかに伝えるか?と。本社と本店がある大森町は、夜になると信じられないくらい真っ暗になる山の中で(笑)。本社スタッフもデザイナーも大森町で働きながら暮らし、町で感じたことを日本中に届け伝えたいという思いがあります」
「一見、商品を販売しているんだけど、いわば作り手をドキュメンタリーで追っていってはる感じがします」と、滝本さんは時に担う映像監督らしい視点でブランドのあり方を見つめます。
「石見銀山 群言堂」らしいこだわりあるアイテムの一つとして、店長の真谷さんが見せてくださったのはリズムジャガードと名付けられた刺し子入りの生地で仕立てたコート。
「じつはこの刺し子は機械で入れたものなんです。1万本のタテ糸と6種類のヨコ糸をすべて機械にセットして作業するという極めて大変な仕事で、職人の腕前があってこそできるもの。手刺し子とは異なる凄みや感動があると思います」と真谷さん。
大森町に根を下ろす「石見銀山 群言堂」に対して、滝本さんが根を下ろすのは大阪の街。来店前から気になっていたという書籍『群言堂の根のある暮らし』をレジへ差し出した滝本さんいわく、「僕は田舎暮らしができそうにないから」。撮影や展覧会の現場に赴く必要がある仕事柄、田舎に暮らせば旅費が莫大なことに…。東京に来たらといいのにって言われたこともありましたが、東京はせかせかしちゃうし、きっと心がもたない。僕は大阪の感じがちょうどいいんです」。
「普段から甘いものは食べるけれど、最新のスイーツ事情には疎い。情報を得ておかないと流行についていかれへんから、この機会に吸収しようと。可愛さは微塵もないおっさんなんですけど…(苦笑)」
恐縮する滝本さんが続いて訪れたのは、スタイリッシュなしつらえにグリーンのネオンロゴが映える焼き菓子専門店「BAKE the SHOP(ベイクザショップ)」。
チーズタルト専門店「BAKE CHEESE TART」や新感覚のバターサンド専門店「PRESS BUTTER SAND」、カスタードアップルパイ専門店「RINGO」など、「BAKE inc.」が展開する人気のブランドスイーツが一堂に集う、国内初の複合店です。
お店そのものがショーケースを思わす空間で、ガラスの先には併設の工房で焼きたてのお菓子がずらりと並びます。「BAKE CHEESE TART」の定番チーズタルトと「RINGO」のカスタードアップルパイは定番。さらに各ブランドの季節限定アイテム、贈り物にぴったりな「PRESS BUTTER SAND」のセットなども販売しています。
「パッケージがおしゃれですよね」と滝本さんがまず心奪われたのは、「PRESS BUTTER SAND」のボックスセット。見れば、ブランドロゴが箔押しされたオリジナルスリーブ入りで、ワンポイントになっているカラーのシールがおしゃれ。自身でもアーティストや印刷会社と協業し、アートマガジンを発行する滝本さんゆえ、秀逸なパッケージデザインに出会えば見逃せるはずなどないご様子。
「たとえば知り合いが集まっているところに持っていって、コレめっちゃ良くない?と話をしてみたり、ギャラリーに集まる印刷会社の方やアートディレクターや作家さんたちにこのお店良かったよ!と伝えたり。得たものは共有する方が僕にとっては面白い。日頃から付き合いのある人たちは、パッケージひとつとっても熱心に見入る方が多いから」と滝本さん。
花より団子、というより、団子より花!? クリエイターである滝本さんにとって、甘いものよりも、まず美しいオブジェクトに心惹かれることは当然のことなのかもしれません。
仕事の合間にリラックスしたいとき、また反対にじっくりと考え事をしたいときにもコーヒーが欠かせないという滝本さん。「毎日飲むのは基本的に水かコーヒー。それもコーヒーが大半で、摂取量が半端ない」。
そんなコーヒーホリックの滝本さんが最後に訪れたのは、大丸心斎橋店本館B2の心斎橋フードホール内にある「Coffee Taster HAMAYA(コーヒーテイスター ハマヤ)」。1924年、大阪市西区で創業したコーヒーカンパニー「ハマヤ」による豆の販売所を備えたコーヒースタンドで、カウンターには専属のコーヒーテイスターが常駐。お客様とじっくりと会話することで、お一人お一人に合ったお好みのテイストを見つけ出してくれます。
「豆の種類とか全然わかっていなくて。だけど酸味は少なめのものがいいです」。
そう話す滝本さんに、「苦味はどうですか?」とスタッフの足立宏美さん。「大丈夫です。基本的に飲むときはブラックで」と滝本さんが答えると、「ブレンドコーヒーやストレートコーヒーのこだわりはありますか?」と、好みを導き出すための質問を穏やかに繰り出します。
滝本さんは、酸味が少ないマイルドなコーヒーをブラックで飲むのが定番。
「最も飲みやすくてクセがない、一番人気は大丸スペシャル。毎週火曜日、工場で焙煎したばかりのものを販売している銘柄で、鮮度がすごく高いお豆です。あるいはブラックで飲みやすいものだと、期間限定の秋のブレンドもおすすめです。人間の味覚は季節によって変わるもので、風味濃厚な食材が多い秋はコーヒーもコクのあるものがおいしい季節。しっかりしたお味の秋ブレンドはそれでいて飲みやすいのでおすすめです」と足立さん。
「秋ブレンド、いいですね!」と、心躍るコーヒー豆に出会った滝本さん。気分はすっかりコーヒーモード。お気に入りの豆を購入するだけでなく、やっぱりこの場で1杯味わいたいとブレンドコーヒーで小休止。「今日はもう仕事したくないなぁ…(笑)」と、最後は思わず心の声がこぼれてオフモードに。
1978年大阪生まれ、和泉市出身。成安造形大学 洋画・構想表現コースを卒業。自身もクリエイターとして作品を発表しながら、映像では様々なジャンルのミュージックビデオや展覧会・作品制作のドキュメントを担当し、企業の広報ツールのアートディレクションやデザインも手掛けるなど幅広く活動。クリエイティブスペース「PLANT / ART Lab OMM」をロケット・ジャックと共に運営、アートマガジンの発行、アートプロジェクト「ART GOES ON」、「CASOアート特区」の企画・運営にも携わっている。
※ソーシャルディスタンスに配慮しながら、写真撮影時のみ、マスクをはずして取材を行いました。
写真/西島渚 取材・文/村田恵里佳 編集/蔵均 WEBデザイン/唯木友裕(Thaichi) 制作・編集/河邊里奈(EDIT LIFE)、松尾仁(EDIT LIFE)
大阪の第一線で活躍する方々と一緒に、生活を豊かにする視点、もの選びのコツに迫ります。館内の注目アイテム、心斎橋のお気に入りスポットをご紹介。心地よい暮らし、大阪のシビックプライドを求めて。
ARCHIVESProfessional's Eyes Vol.48
Professional's Eyes Vol.47