Professional's Eyes
スタイルのある暮らし
大阪の第一線で活躍する方々と一緒に、生活を豊かにする視点、もの選びのコツに迫ります。館内の注目アイテム、心斎橋のお気に入りスポットをご紹介。心地よい暮らし、大阪のシビックプライドを求めて。
ARCHIVES大阪にゆかりのある人にテーマを持って大丸心斎橋店をめぐってもらう「PROFESSIONAL‘S EYES」。今回は、2022年の「M-1グランプリ」で初の決勝進出を果たし、注目の的となっている漫才コンビ、カベポスターさんにSDGsをテーマにショップを訪れてもらいました。
※2024年7月をもって閉店いたしました。
最初に訪れたのは「中川政七商店」。日本各地の産地や作り手にスポットを当てて、今の暮らしに合う衣食住の逸品を幅広く扱うショップです。
店の前に到着するやいなや、「前を通りがかったことはあります。自然な感じの商品が多いですね」という永見さんに対して、スタッフの齋藤優さんは、「そうですね。天然素材のものを多く取り扱っております」。
今回の記事のテーマはSDGs。地球の環境を保護したり長く使い続けられるサステナブルな商品をたくさん展開していそうな「中川政七商店」。「ほんとにあるんですか?」という浜田さんの少々“イジリ”を効かせた問いかけに、齋藤さんがまず紹介してくれたのが茶巾生地のコーヒーフィルターです。
「うわっ、めっちゃいいじゃないですか!」と先ほどの穿った表情から一転して歓喜の表情を見せる浜田さん。聞けば、毎日豆を挽いてコーヒーを淹れているそうです。
「これって、ドラマ『愛の不時着』で、主人公がヒロインにコーヒーを淹れてあげてるやつですよね? めっちゃかっこよかったんですよ」と浜田さん。
齋藤さんは、「使っていくうちにだんだんコーヒーの色に染まっていきます」と、約4カ月使用したフィルターを見せてくれました。
「こんなきれいにムラなく染まるんですね。この商品、何回も繰り返して使えるということでSDGsにつながると思うんですけど、素材自体も環境にやさしいものなんですか?」と質問する浜田さんに対して、「茶道のときにお茶碗を拭く茶巾と同じ生地でつくられていて、素材は中川政七商店の原点となる“手織りの麻”なんですよ」と齋藤さん。
これ、かなり欲しいですという浜田さんに、永見さんは「前金だけ払っとこ」とひと言。
「1,100円で前金いります? 50万とかの支払いのときに払うもんやろ」とすかさずツッコむ浜田さん。ふだんの生活から舞台同様のテンポのいいかけあいが展開されているようです。
2人とも学生時代に野球部に所属していたということを聞いて、齋藤さんは「実は、野球に関連したアイテムも置いているんですよ」と次の商品へと提案します。
「えっ、こんな“ていねいな暮らししてます”な感じの店に、野球と関係するものがあるんですか? いったいなんやろう? あっあれかな、ピッチャーのつま先につけるやつ?」と不思議そうな表情を見せる浜田さん。
「こちら、スポーツブランドの『MIZUNO』とコラボした巾着です」
齋藤さんが自信満々で紹介してくれたのは、グローブをつくるときの端材の革でつくったグラブ革の巾着です。
「おーかわいい! この丸結びの感じ、めっちゃグローブや」と永見さん。
「中にちゃんと仕切りがついていていいですね。これは古田モデルですか?」とボケる浜田さんの言葉に、すかさず、巾着を持ってキャッチャーが構えるポーズをとる永見さん。
なぜか齋藤さんがピッチャー役に回り、店内はいきなり野球グランドと化します。
「変化球がすごいですね。バッター、ようつられんかったな」
「すごい曲がりますね。球離れはストレートのフォームやのに!」
困惑する齋藤さんをよそに、勝手に盛り上がるカベポスターズ。
「グローブと同じ生地ならめちゃくちゃ丈夫ですよね。使ってたら味とかも出てきそう」と浜田さん、すっかり気に入ったようです。
「SDGsにつながる商品がたくさんありますね。でももうないでしょ?」とけしかける浜田さんに、「ちょっとお待ちください」と齋藤さんが紹介してくれたのは、波佐見焼の保存の器です。
「蓋と容器が一体になっていて、そのまま冷蔵庫で保存できますし、電子レンジにも対応しています。なのでラップいらずです」と齋藤さん。
じっと保存の器を見ていた永見さんは、「ちょうど今、保存の剣と保存の盾があるので、あと保存の器はどこにあるんやろうと探してたけど、ここにあったか」
「何それ、勇者の3種の神器みたいなん」と間髪入れずに反応する浜田さん。
「和のものが多くて癒されますね」と店内をめぐるカベポスターさん、齋藤さんが半年前から新店長になったと聞き、「ちょうどオーラが出てくる頃ですよね」と永見さん。「何それ、見えんの?」とツッコむ浜田さんに、「球筋に出てましたよ」。
ピッチャー役まで買って出てくれた新店長さんに、スタッフが楽しく働いている姿が想像できました。
※2024年7月をもって閉店いたしました。
続いて二人が訪れたのは、「SOMES SADDLE(ソメスサドル)」。本社がある北海道では馬が開拓を支えてきましたが、その馬具づくりの技術を原点に、革をはじめとするアイテムをそろえるブランドです。
「30年ほど前から競走馬の鞍もつくり始め、いまJRAの騎手の7割以上は『ソメスサドル』の鞍を使っていただいています」とエリアマネージャーの中村健治さん。
パリで毎年行われる伝統的なレース、凱旋門賞でも「ソメスサドル」の鞍が2020年、2021年と連覇したという話を聞き、競馬好きの浜田さんは、「えっ!クリスチャン・デムーロが乗ってたんですか! すごいですねえ」と興味津々のご様子です。
「エルメス」や「グッチ」などヨーロッパで革で有名になったブランドは、元をたどれば馬具メーカーが多いという中村さんの話にも、「めちゃくちゃ面白い話ですね」と浜田さん、深く聞きいっています。
革のものづくりが得意な「ソメスサドル」が、今年新たにプロダクトしたのが、革と異素材を組み合わせてつくる「エフェクト」シリーズの新展開です。
「こちらで使われているナイロンは、地元北海道で使われなくなった漁網を一度溶かしてまた繊維にするというアップサイクル素材。そのままだと廃棄されてしまう古い網を有効活用しています」と中村さん。
「漁網ですか! 実は、仲良くさせていただいているオズワルドの畠中さんの実家が北海道で漁師をされているんですよ」と言う浜田さんの言葉に、「そうなんですね! 漁師さんは網が古くなったら買い替えて捨てるしかないんで、それを引き取って再利用する取り組みが行われているんです」と中村さん。
アップサイクルしたナイロンを使ったバックパック、トート、ポシェットのラインアップから永見さんがバックパックを身につけてみました。
「背負った感じがあまりしないぐらい軽いし、かっこよくもありますね。これを身につけて漫才したら、なんか優勝しそうですね」
「いつリュック背負うん? 漫才中? こいつもう諦めたんかって思われるよ」と浜田さん。相変わらず絶妙なやりとりが店内で展開されます。
動物の革を使うプロダクトが多い「ソメスサドル」ですが、「牛などは人間が食べるために命をいただくじゃないですか。昔であれば馬車を引く馬の働きが悪くなれば殺されてしまっていました。人間のために動物の命をいただいているので、最後まで何かに生かそうということで革製品が生まれています。元々革製品って、限りある資源の副産物という点でSDGsなんですよね。革を取るために動物を殺しているわけじゃないんです」と中村さん。
それを聞いた浜田さんは、「そうなんですか。最後のいただきなんですね。革製品を使わせてもらっていますが、それを聞けてよかったです」と感慨深げです。
SDGsの観点からヴィーガンレザーへの注目度が高まっていますが、食用肉などの副産物として生まれる動物の皮は使わなければ廃棄されますし、水分を含む皮は廃棄するのにも手間がかかります。革製品を選ぶ際には、「アニマルライツの視点」や「地球環境における優しい循環」、「動物の命を無駄にしないこと」など、素材の背景にあるストーリーに目を向けて考えることが求められるのかもしれません。
動物の命の尊さをあらためて実感した様子のお二人に、「今年の年末は、腹を抱えて笑えるように待ってます。今年もM-1出ますよね?」という中村さん。
「そうですね。いい革製品が見つかったら出ようかなと思います」と浜田さんに、ヨーロッパでは幸運を呼ぶといわれている馬蹄がついたお財布を勧めていました。
続いて訪れたのは「MoMA Design Store(モマ デザインストア)。ニューヨーク近代美術館(MoMA)のキュレーターがセレクトしたアートグッズやさまざまなアイテムが並ぶショップです。こちらではSDGsにつながる世界中のアイテムも常時多数置かれています。
スタッフの上田望可さんがまず案内してくれたのが、アメリカのブランド「Baggu(バグゥ)」とMoMAがコラボしたエコバッグです。
「これは100%リサイクル素材でできています。デザインはニューヨークの象徴的なプラスチック製ショッピングバッグを模したもので、“MoMAで買い物をしてくれてありがとうございます”というメッセージが描かれたものなどが、MoMAロゴで再現されています。また、MoMAの住所が小さく描かれているのもポイントです。」
「えっ、MoMAの住所?」となぜか反応する永見さんに「ニューヨークの53番街って書いてあるよ」と浜田さん。「ああ、あそこの角んところか」という永見さんに、「角ではないんですよ(笑)」と上田さん。
MoMAの住所に関する軽やかなトークに続いては、エコバッグ論が展開されます。
「エコバッグ持ってるんですけど、買い物のときに、忘れちゃうんですよね。だから食品を抱えて持って帰る」という浜田さんに対して、「レジのところで忘れたことに気づいて、ちょっとのけぞるんですよね」と語る永見さんに、「気づくの遅すぎひん?」とツッコむ浜田さん。
続いて紹介されたのは海洋プラスチックごみでつくられたコースターです。
「うわあカラフルですね。」と興味を示す浜田さん。聞けば、ちょうど今ラジオ番組で、海洋プラスチックごみのコーナーを担当しているそうです。
「ラジオの番組で海洋ごみに関わるようになって、最近、興味を持ち始めました。海の中で見たらめっちゃゴミなのに。こういうふうにきれいに生まれ変わらせるとすごくいいですね」(浜田さん)。
「ゴミ袋なんですけど、インテリアとして使ってもいただけます。マンションなどでゴミを捨てに行くときに、そのまま使っていただけます」
続いて上田さんが紹介してくれたのが、アンディ・ウォーホルのバナナの作品があしらわれたトートバッグ型ダストボックスです。
「ゴミ袋には見えへんね」という永見さんに、「ゴミを捨てに行くのは結構億劫なんですが、これやったら楽しくなりそう。出しに行くときは『お出かけかな?』と思わせといて、帰ってくるときは、『あれ?忘れ物したんかな?』と思ってもらえる…かな?」と浜田さん。
「心斎橋で誰かと待ち合わせして友達が時間遅れてきたときには、ここで時間を潰したいですね。最近やっと一人暮らしを始めたので。インテリアとか家のグッズにこだわりだしたら、ここはめっちゃいいですよね」
「モマ デザインストア」に置かれているさまざまな商品を見ていた浜田さん、どうやら自分の部屋を快適にするアイテムがたくさん見つかったようです。
駆け足でお店をめぐり少し喉も乾いてきたところで、お茶でも飲もうということで訪れたのが「お茶屋バー 近江榮」です。
「お茶屋バー?やったー!京都のお茶屋さんには行ったことがないので、雰囲気を味わえるのはうれしいですね」と喜んだ浜田さん、奥の小上がりに入るやいなや「なんかすごいですね。畳があるのも新鮮で、このカウンター、懐石やお鮨が出てきそう」と興奮気味。「おしぼりが分厚いですね」とは永見さん。
店の空間を感慨深げに見回す二人に、店長の上田裕さんが勧めてくれたのが、ロイヤルブルーティーというワインボトルに入ったお茶です。
「こちらは、ワイングラスで香りと味を楽しんでいただくお茶ですが、なかなか飲める機会のない貴重なもので、うちでは5種類を用意しています」と上田さん。
ワインボトルとワイングラスとお茶の組み合わせに驚く二人は、上田さんにオススメを聞きます。
「香ばしさを求めるのであれば『玉露焙じ茶KAHO 香焙』か、台湾の烏龍茶『Queen of Blue Deluxe』。一番飲みやすいのは京都の宇治の碾茶(緑茶)を使っている『The Uji』で、一番お茶を味わう価値があるのはこれですね」と味の違いを説明する上田さんに、「じゃあ価値あるやつで」と永見さん。
ワイングラスを顔に近づけた浜田さん、「めっちゃいい香りがしますね。いただきます! 何これ! なんかもう何を抽出したらこんな味になるんやろう? なんて表現すればいいんですかね。濃いとはまた違う。深みと苦味を凝縮しましたみたいな」
永見さんも初めて経験する味に感嘆しながら、「えっすごっ! だしっていうか。お茶の延長線上にある旨みというか。最初香りを嗅いだときは海苔の香りがしたんですよ。飲んだら、その風味が…自然でこんな味になるのはすごいですね」
「デザートなど甘いものにも合いますよ」と言う上田さんの言葉に、本日のSDGsクルーズの締めくくりは、ハニートーストをいただくことにしました。
「このトーストは、大丸心斎橋店の屋上でミツバチを飼って採取したはちみつ『心斎橋のはちみつ』を使っているんですよ」という上田さんの説明に、浜田さんと永見さん、「えっ、大丸の屋上で!?」と一瞬目が点に。
心斎橋という都会のど真ん中で都市養蜂がされていて、生態系の循環で緑化にも貢献するプロジェクトだということを聞き感心していた二人ですが、トーストが運ばれてきた瞬間、「あー、おいしそう!」と浜田さん、早速手に取りパクつきます。
チーズとハムをのせて焼いたトーストに、はちみつとコショウをかけていると聞いた浜田さん、「僕、同じレシピのトーストをよくつくってます。でもうちで使っているはちみつはこんなにドロッとしてなくて。心斎橋で採れたはちみつ、こんなに濃いんですね」
「ミツバチが蜜を集めてくる花が変わるので、はちみつの味も毎年変わるんですよ」という上田さんの言葉に、「へえ、そうなんですね」とうなずく二人。「ミツバチが受粉する」→「受粉した植物が実をつける」→「街に緑が増える」→「また受粉する」という循環でSDGsの「陸の豊かさも守ろう」という目標にもつながると聞き、感心していました。
「SDGsのネタなどをやったことありますか?」という質問に、浜田さんは「まだやったことないですね」と答えながら、こう続けます。
「僕のツッコミはSDGsを意識してるんですよ。いろんなボケに対して、どなたでも再利用できるような言葉選びを心がけていますね。1回きりのゴミになるようなツッコミじゃなくて、汎用性のあるような。リサイクルというか、なんの差別もない言葉遣いを選んでいます」
それを聞いた永見さんは、「それって、ええんかなあ…」とポツリ。
リサイクルのツッコミがいいかどうかはさておき、聞いていて誰もイヤな気分にならず多くの人をハッピーにするカベポスターさんの漫才は、きっと「平和と公正をすべての人に」というSDGsの目標にちょっと貢献しているに違いありません。
大阪府出身の浜田順平さんと三重県出身の永見大吾さんによるお笑いコンビ。NSC大阪36期生の同期で2014年にコンビ結成。2019年にABC「お笑いグランプリ」準優勝、2020年、2021年、第六回上方漫才協会大賞新人賞受賞などを経て、2022年に「M-1グランプリ」決勝進出と着実にステップアップし、今関西で注目されているしゃべくり漫才師。
※ソーシャルディスタンスに配慮しながら、写真撮影時のみ、マスクをはずして取材を行いました。
写真/コーダマサヒロ 取材・文・編集/蔵 均 WEBデザイン/唯木友裕(Thaichi) 制作・編集/河邊里奈(EDIT LIFE)、松尾仁(EDIT LIFE)
大阪の第一線で活躍する方々と一緒に、生活を豊かにする視点、もの選びのコツに迫ります。館内の注目アイテム、心斎橋のお気に入りスポットをご紹介。心地よい暮らし、大阪のシビックプライドを求めて。
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