Professional's Eyes
スタイルのある暮らし
大阪の第一線で活躍する方々と一緒に、生活を豊かにする視点、もの選びのコツに迫ります。館内の注目アイテム、心斎橋のお気に入りスポットをご紹介。心地よい暮らし、大阪のシビックプライドを求めて。
ARCHIVES大阪にゆかりのあるゲストに、その人の視点を持って大丸心斎橋店を巡ってもらう「PROFESSIONAL‘S EYES」。今回は令和3年度NHK新人落語大賞を女性で初めて受賞。2022年に繁昌亭大賞、咲くやこの花賞を受賞するなど、今もっとも注目されている落語家のひとり、桂二葉さんをゲストに迎え、仕事やふだんの生活の話を交えながらショップを巡ってもらいました。
「松屋町から谷町六丁目あたりは、上方落語の舞台が多いんですよ。『らくだ』で出てくる長屋があるところは野漠と言って、松屋町筋と谷町筋の間、『次の御用日』では、今でも地名が残る安堂寺町二丁目という場所が出てきます」
古典落語を演じることが多く、そこに登場する地名をたどりながら歩くのが好きだと言う二葉さん。まず最初に訪れた「Ek-Chuah(エクチュア)」は、その界隈の古民家に本店を構え、土地になじみのある二葉さんは、たびたび訪れているそうです。
「本店のスタッフの方が私の落語をよう見にきてくれはるみたいで。それもあって、ちょこちょこ行ってます」
やわらかな大阪弁と美しい着物がお似合いの二葉さん。「エクチュア」は、特にバレンタインの時期によく利用するようです。
「本店では、ハートのチョコレート1個だけという売り方をしてはって、めっちゃ気に入ってるんですよ。1個でちゃんとパッケージに入れておリボンつけているお店って少ないから、多くの人にあげたいときに1個上等なものを渡せるのはすごく重宝していて。おいしいし、見た目もかわいいし」と二葉さん。
大丸心斎橋店では、ギフト用のパッケージは2個からとなりますが、チョコひとつひとつのかわいさに見惚れる二葉さん。ここで、ふと思い出したかのようにスタッフの木村さんに質問します。
「私、オランジェットが前からめっちゃ好きで、今お店で特別にコーナーができてたり、すごく人気じゃないですか。前はオランジェットって、隅の方に追いやられてるかわいそうなイメージを持ってたんですけど、いきなり流行って、やっと気づいたか(笑)って感じなんですが、なんでこんなに人気が出たんですかね?」
「確かに今年のバレンタインでも特集されてたりしましたね。申し訳ないのですが、私もなぜ流行りだしたかはわからないんですよ」と木村さん。
二葉さんのお父様は料理上手で、オランジェットも手作りして差し入れしてくださるそうです。
「父にもらったり、いただきものでもチョコレートはめっちゃ多いので、家の中はチョコで溢れかえっています」。
※2024年8月をもって閉店いたしました。
続いて訪れたのは、「SIXIÈME GINZA(シジェーム ギンザ)」。大人の女性のために、本質、上質、一流をベースにしながら、遊び心もあるアイテムを置くショップです。
高座に上がるときは着物を美しく着こなしていますが、洋服を見るのも着るのも好きだという二葉さん。興味深そうに店内を見て回ります。
「上品な感じのアイテムが多いですね。私、落語家になって13年目なんですけど、最近はスカートを穿くようになってきました。若い時は下働きがめっちゃあったので、スカートとか穿いてられへんくて」
先輩の着物をたたんだりするとき、スカートはジャマになっていたという二葉さん。最近はやっと下働きも少なくなり、スカートを穿くことを楽しめるようになったそうです。
「このブルーのロングスカートかわいいですね。『探偵!ナイトスクープ』のロケで着ようかな」
そう言って、二葉さんが手にしたのは、ギンガムチェックのスカート。この春から人気テレビ番組の新探偵となり、ロケの衣装は自前で用意するそうです。
「今までは黒っぽい服が多かったのですが、テレビなどで衣装を着るようになって、最近明るい元気な感じの服もいいなという気がしてきました」
さわやかなブルーのスカートは、テレビ画面でもとても映えそうです。
最近は東京での仕事も多いという二葉さん。移動も多くなり、その際に重要視したいのが、着ていてストレスがない服だと言います。そんな二葉さんにスタッフが薦めてくれたのが、「シジェーム ギンザ」別注の「マディソンブルー」のジャケットです。
「ウールトロピカルという素材を使うことで、すごく薄手でシャツのようにさらっと羽織れるため、ストレスを感じず、オールシーズン日常的に楽しめるアイテムとしてつくりました」とスタッフ。
「これもかわいい」と二葉さんが手にとったのは、「LOEFF(ロエフ)」のブルーの長袖シャツ。店内には半袖のシャツもそろい始めていましたが、それらの商品にはあまり目が向かないようです。
「私、半袖は着ないんですよ。着物を着たときに袖から出る腕が日焼けしてるとすごくイヤで。うなじも日焼けしないように、できるだけ襟がある洋服を選んでいます」と二葉さん。
落語家ならではの身だしなみについて聞かせてくれた二葉さん。仕事着として取材当日も淡いピンクのステキな着物をお召しになってくれましたが、高座にあがるとき、どのような着物を着るか決まっているのでしょうか?
「やるネタによって決めてますが、出番が最初の時はピンクを着ます。幕が上がったらできるだけ陽気な気持ちになってもらいたいし、自分もなりたいので、明るい色で高座に上がります」
もちろん着物は大変お似合いですが、身長164cm、小顔でスタイルのいい二葉さんは、どんな洋服でも似合いそうです。
「最近、マネージャーと『どこかのブランドのモデルの仕事が来ないかな』と話したりしています(笑)」
続いて訪れたのは、「日本橋木屋」。江戸時代に創業し昨年230周年を迎えた老舗で、包丁を中心に金物全般や台所用品を扱うショップ。料理好きの二葉さんは、以前にも「日本橋木屋」に包丁を見に来たことがあるようです。
「お料理しているときは、言葉や文字から離れることができるのでいい。千切りとかめっちゃ好きです。今忙しくて外でごはんを済ますことが多いけど、それってすごくメンタルによくなくて。自分でちゃんとつくって食べるということが精神的にすごくいい。土井善晴イズムを持ってるんで(笑)」
料理研究家の土井善晴さんと親交があるという二葉さん。天満天神繁昌亭で、食がテーマの落語と土井さんのトーク&料理を盛り込んだイベントも企画しているそう。
「あっ、これ土井先生が使てはるお鍋ちゃう?!」と早速店内に置かれた道具に反応する二葉さん。料理をするときにちゃんとした道具を使いたくて、今アルミのゆきひら鍋を探しているそう。スマホの検索でチェックしたところ、土井善晴さんのものとは、少し違っていたようですが、鍋をじっくりと見入ります。
「おひつも欲しいなと思ってるんですよ。やっぱり炊いたごはんをおひつに入れるといいんですよね?」とスタッフの天野花音さんにたずねる二葉さん。
「そうなんです。お米を炊いた後、余分な水分をさわらの木が吸ってくれて、炊きたても冷めてもおいしく食べていただけます」と天野さん。
おひつを前にして、おもむろに扇子を箸に見立ててごはんを食べるような動作をし始めた二葉さん。高座では、扇子と手ぬぐいだけでさまざまな表現をしますが、お得意な所作などはあるのでしょうか?
「私は特にないのですが、最近面白かったのは、植木屋さんが剪定するときに扇子をハサミに見立てて演じてる噺家さんがいたこと。扇子でハサミを表現するのは初めて見ました」
「日本橋木屋」は料理道具の他にも、刃物を使う生活道具として、ハサミや爪切りなども豊富にそろっています。
「これは便利そう」と二葉さんが手にしたのはミニスライド鋏。天野さんに試し切りを勧められて紙を切ってみると…。
「めっちゃ切れる! ちょっと疑ってたのごめんやわ。着物のしつけ糸を切るときによさそう」
コンパクトな耳かきや鼻毛鋏、爪切りなどが入ったグルーミングセットKIYA 缶を見つけた二葉さんは、「このセット、師匠への贈りものにすごくいいかも。これはもらったら嬉しいやろなあ。これはいいもん教えてもらいました」とご満悦でした。
ていねいにつくった料理を、よりいっそうおいしく見せてくれるうつわにも興味があるという二葉さん。
「最近、よくうつわを探しています。先日も岐阜の多治見に行ったときに地元の人に窯元に連れて行ってもらったり、有田焼の産地に行ったり。ちょこちょこ集めていますね」
そんな二葉さんが訪れたのは「綱具屋」。全国の作家や窯元が手掛ける陶磁器を中心に、暮らしを彩る雑貨や衣類が幅広くそろうセレクトショップ。焼きものの産地・瀬戸で創業し、70年以上にわたって食器に携わってきた会社が運営しているため、食器はとりわけ充実しています。
「おうどんをよく食べるので、それを食べるお丼とかありますか?」と店長の田中未玖さんに聞く二葉さん。
田中店長に勧められた丼を手に取りここでも扇子を箸に見立てて、うどんを食べるポーズをとってくれた二葉さん。
「おうどんやおそばが出てくる演目はあまりやったことないので、下手ですけど」と言いながら、扇子を口へと動かします。今後はうどんが登場する落語も演じるかもしれませんね。
広い敷地に店内にうつわがたくさん置かれている「綱具屋」。二葉さんは、「切子かっこいいですよね」、「抹茶茶碗が欲しいです」と言いながら、自宅の食卓を飾るうつわをじっくりと探していました。
最後に、「このお店はどうしても行きたいんです」と二葉さんが訪問を熱望したショップが「正起屋」。創業60余年、大阪を中心にイートインやテイクアウトの店を展開する焼き鳥屋です。
店前に来た二葉さん、「めっちゃおいしそう! 百貨店で見る風景とは思えない」と驚きの表情。店の中で炭火で焼いている店舗は、百貨店では希少だそうです。
煙をもうもうと立てながら炭火で焼かれていく焼き鳥をじっくり見る二葉さんに、「好きな焼き鳥の部位はありますか?」と尋ねたところ…「ずりが好きです」と即答。
「でもずりって言ったらモテへんやろうなとは思ってます(笑)。つくねって言ったほうがモテるんやろうな」と独特な焼き鳥論を展開します。
「1回目のデートでずり頼んだら引きません? でも私はつくねを頼む女は疑ってます(笑)」
打ち上げも焼き鳥屋でやることが多い二葉さん。焼き鳥がお好きなことはわかりましたが、「どうしても正起屋に行きたい」と言った理由はそれだけでしょうか?
「実は、数年前に天満天神繁昌亭で落語をやったとき、終わってから『ありがとうございました』ってお客さんを送り出していたら、全然知らんおっちゃんが『ねえちゃんよかったで』って声をかけながら帰っていきはって。しばらくしたら戻ってきて、『やるわ!』ってこれを渡してくれたんですよ」
そう言って二葉さんが名刺入れから取り出したのが、「正起屋」が発行しているポイントカードです。
「私、カードが見えたときに、1,000円分のクオカードくれたんや! と一瞬喜んだんやけど、ポイントカードって! 嘘やろって思って(笑)」
そのカードには、スタンプがびっしりと埋まっていました。
「どんだけ正起屋行ってんねんって思って(笑)。しかもスタンプの形跡からしてめっちゃこまめに行ってはるんです。これだけ貯めたのに、この子になんかあげたいと思てくれたのが、なんかすごくうれしい。だからすごくうれしくて、ずっと名刺入れに入れて大事にしてるんです」
カードの有効期限は切れているけど、あのおっちゃんと二人で「正起屋」に飲みに行きたいと言う二葉さん。上方落語には人情に厚いとっつぁんたちがよく登場しますが、その世界から出てきたようなどこかのおっちゃんの話、二葉さんらしいエピソードにほっこりしました。
*大丸心斎橋店 正起屋ではポイントカードのお取り扱いはございません。
1986年大阪市生まれ。大学卒業後、スーパーマーケット勤務を経て、2011年に桂米二に入門。その年に梅田・太融寺にて「道具屋」で初舞台。2021年に令和3年度NHK新人落語大賞を受賞し、2022年には第17回繁昌亭大賞、咲くやこの花賞を受賞。2023年4月から『探偵!ナイトスクープ』の新探偵に起用される。
※ソーシャルディスタンスに配慮しながら、写真撮影時のみ、マスクをはずして取材を行いました。
写真/岡本佳樹 取材・文・編集/蔵 均 WEBデザイン/唯木友裕(Thaichi) 制作・編集/河邊里奈(EDIT LIFE)、松尾仁(EDIT LIFE)
大阪の第一線で活躍する方々と一緒に、生活を豊かにする視点、もの選びのコツに迫ります。館内の注目アイテム、心斎橋のお気に入りスポットをご紹介。心地よい暮らし、大阪のシビックプライドを求めて。
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