Professional's Eyes
スタイルのある暮らし
大阪の第一線で活躍する方々と一緒に、生活を豊かにする視点、もの選びのコツに迫ります。館内の注目アイテム、心斎橋のお気に入りスポットをご紹介。心地よい暮らし、大阪のシビックプライドを求めて。
ARCHIVES大阪で活躍する人、大阪にゆかりのある人をゲストに迎え、大丸心斎橋店を巡ってもらう「PROFESSIONAL‘S EYES」。今回は初めての外国人ゲストが登場! イタリアのジェノバ出身で、中崎町のイタリアン「LA LANTERNA di Genova(ラ・ランテルナ・ディ・ジェノバ)」のオーナーシェフをつとめるシルビアさんに独自の視点でショップを訪ねてもらいました。
※2024年6月をもって閉店いたしました。
「中崎町にお店を出したのは2012年。日本にやってきたのは14年前で、それからずっと大阪で暮らし続けています」
とても流暢な日本語を話すシルビアさん。すっかり日本の生活にもなじんでいるようですが、もちろん母国イタリアのライフスタイルも大切にしています。そこで最初に訪れたのは、イタリアの本場の味が楽しめる大丸心斎橋店B1Fの「セガフレード・カフェ」です。
「セガフレード・カフェ」は2022年9月にオープン。イタリア・トレビゾに本部を構え、ワールドワイドにコーヒー関連の事業を行っている“マッシモ・ザネッティ・ビバレッジ・グループ”の中核企業イタリア・ボローニャ発のコーヒー焙煎メーカー、”セガフレード・ザネッティ”が日本で初めて展開する新業態。自慢は本場イタリアと同じクオリティで提供されるエスプレッソです。
「エスプレッソはもちろんイタリアでも飲んでいました。代表的なコーヒー豆の会社はいくつかありますが、その中でもセガフレードのエスプレッソはおいしいと思いますよ」とシルビアさん。
イタリアでは朝、昼、夕方と3回エスプレッソを飲んでいたというシルビアさん。
「イタリアのバルやカフェでは、エスプレッソを飲むときはスタンディングの場合も多く、キュッと飲んだらすぐに店を出ますね。日本の喫茶店のように、1杯のコーヒーで長い時間を過ごすという習慣はあまりないです」
「セガフレード・カフェ」では、エスプレッソだけではなくて、イタリア仕込みのフードを楽しむことができます。エスプレッソをキュッと飲み干したシルビアさんの目に留まったのは、イタリア版のシュークリームであるビニエ(ビニェ)。
「日本のシュークリームもそうですが、イタリアのビニエも丸い形が多い。でもここのビニエはキューブ型ですね。面白い」
大丸心斎橋店限定メニューとして、抹茶や紫芋など和の素材と組み合わせたビニエも用意されていて、今回シルビアさんがセレクトしたのは黒蜜きなこ。たっぷりきなこがまぶされたビニエには、トロッと黒蜜がかけられています。
「イタリアではビニエを手で食べるので、今日もそうやって食べますね。きなこは大好きですが、ビニエにも合っていますね。とてもおいしい」
納豆は少し苦手ですが、それ以外はほとんどの日本の食材が好きだというシルビアさん、黒蜜きなこでコーティングされたビニエも気に入ったようです。
続いて、イタリアのフードといえばおなじみのパニーニをチョイス。ハムやチーズを挟んだ定番のほか、大阪ならでは! ということで、なんとお好み焼き味もあります。エビやキャベツが入っていてソースのかかったイタリアと日本の味のコラボレーションはいかがでしょうか?
「これもおいしいですね。大阪で暮らしているので、もちろんお好み焼きも大好きです」とシルビアさん。イタリアでパニーニがよく食べられている地方があるのかを聞くと、「イタリアではパンに具材を合わせるのは日常で、ローマ帝国時代からあった食べ方。だから、どこの地方でもよく食べられていると思いますよ」。
昨年オープンしたばかりの「セガフレード・カフェ」では、これからそれらの素材を使ったメニューも増える予定というから、ますます本場イタリアの味をデパチカで楽しめることになりそうです。
「イタリアでは、大人になってから何十年もずっと使えるようにと、10歳ぐらいの頃に親から子供へ、いい時計を贈るという文化があるんですよ」
母国のステキな習慣を教えてくれながら、シルビアさんが次に訪れたのが「Grand Seiko Salon(グランドセイコーサロン)」。イタリア人の親ならずとも、子供に贈りたくなるような“いい時計”がずらりと並ぶサロンです。
「グランドセイコー」は、「SEIKO」のトップクラスの時計を揃えているブランドで、「部品ひとつひとつからすべてメイドインジャパンで、職人が手作業で仕上げていきます」とスタッフの岩國知子さん。
「イタリア人は時計がとても好き。親から子どもへ贈る習慣が根づいているのもその理由のひとつかもしれませんね。お父さんとお母さんが亡くなっても、次の世代へつながるものの象徴として時計があるのかもしれません」と話すシルビアさんに、「グランドセイコー」の時計にも通じるものがありそうですね、と岩國さんが応えます。
「時計の本質は、見やすさ、正確さ、そして美しさだと思います。『グランドセイコー』は、基本的にはシンプルなデザインで見やすく、“時間は正確”をコンセプトに時計をつくっています。デザインも流行りに影響されることなく、どの世代の方にも愛され、長く愛用していただけるブランドですね」
今回の取材にあたって、シルビアさんが時計店をいくつか回ったとき、クラシックなデザインがいいなと思って「グランドセイコー」に好印象を持ったとのこと。時計好きのイタリア人にも好まれそうな、シンプルで美しい時計がショーケースに並びます。
シルビアさんに似合いそうな時計のセレクトをお願いしたところ、岩國さんがすすめてくれたのが御神渡り(おみわたり)コレクションのウォッチです。
「この時計をつくっている工房が長野県の諏訪湖の近くにありまして。ここで真冬に起こる自然現象が御神渡りなんです。湖が全面凍結して氷が割れて山脈のようなものができるんですが、氷の表面に光が当たる様を文字盤に表現して、少し立体感のあるデザインになっています」と岩國さん。
御神渡りの時計を手にしたシルビアさんは、「思ったより軽いですね」とひと言。
「薄くて軽くつくられています。ベルトはステンレスで、サイドにダイヤが入っていて、光が当たるとチラッと輝いてさりげなく美しいんですよね」と言う岩國さんに、「すごくかっこいいですね。いただいてもいいですか?(笑)」とジョークで場を和ませながら、真剣に時計のデザインを確かめます。
「グランドセイコー」では、文字盤に日本の四季を表現したモデルも多く、近年、外国人に人気なのが「花筏」。桜の花びらが池に散る姿を表現しているそうです。御神渡りコレクションは、メンズとレディースがあるので、ご夫婦やカップルでつけるのもおすすめとのこと。
「日本では人生の節目に時計を買ったり、いただいたりすることも多いので、結婚されたときにご夫婦でお揃いの時計をつけていただくのもステキかと思います」と言う岩國さんに、「いいですね。婚約指輪じゃなくて婚約時計もいいんじゃないかな」とシルビアさん。
シルビアさんは、料理人として時計は日常になくてはならないものと言います。
「調理中は腕時計を外しますが、それ以外のときはしょっちゅう時計を見ています。朝の出勤のときや営業前の準備の時間など、いつも時間を見ながら動いています」
日常で使うものとして、あるいは次世代へ贈る“いい時計”として、シルビアさんが「グランドセイコー」を選ぶ日がくるかもしれませんね。
シルビアさんが子供のときに時計を贈ってくれたお父様はカメラが好きで、シルビアさんもときどき借りて写真を撮っているそう。
「お父さんは古いカメラが好きで、50年前とか70年前に製造されたマニュアルのカメラを使っています。最近のオートフォーカスは確かに便利だけど、ピントや露出を自分で合わせないといけないマニュアルのほうが、腕が上達する気がして私は好きですね」
そんなシルビアさんが次に訪れたのは「Leica(ライカ)」。世界中の写真・カメラファンが憧れるドイツ生まれのブランドです。
マニュアルカメラを使っているというシルビアさんに、店長の新潟憲章さんがライカM11を使い、ピントの合わせ方などを丁寧に教えてくれます。
「お父さんのカメラもそうですけど、ずっしりと重たいですね」とシルビアさん。
ライカの創業は1849年と170年以上の歴史があり、人気のM型のカメラが登場したのが1954年のこと。
「M型カメラは、その頃のフィルムカメラと今のライカM11では大きさや重さがほとんど変わっていません。そのため、ずっとライカを使っていただいている方は、持った感じは変わらないねと言ってくださいます」と新潟店長。
日本国内もよく旅行をするシルビアさん。カメラを持ち歩き、その土地の風景やお寺など古い建物の写真を撮るそうです。
「そういう写真も、『ライカ』は雰囲気よく撮れると思います。これは私の個人的な見解なのですが、色がものすごく鮮やかに出るというよりは、現実を超えた写りと言いますか、独特な雰囲気の色が出ます」と新潟店長。
レンズもスペックだけを突き詰めているだけではなく、例えば人物の顔なら鼻と頰と耳の奥行きをとらえて立体感を生み出すレンズなのだと新潟店長は教えてくれました。そこから生まれる「ライカ」の独特の世界観が、多くの写真ファンを惹きつけるのでしょう。
「もちろんマニュアルの良さもあるのですが、シルビアさんのようにお忙しい方だと時間がかかって大変なときもあると思います。そんな方にお薦めなのがこのカメラです」と新潟店長がすすめてくれたのがライカQ3。フルサイズセンサーを搭載したコンパクトデジタルカメラです。
「確かに、今は店が忙しいですね。少し時間ができたら『ライカ』のようないいカメラを持って写真を撮りたいですね」
そう言いながらシルビアさん、早速大丸心斎橋店内で楽しそうに試し撮りを始めていました。
研修のために毎年のようにイタリアへ旅するというシルビアさん。次に訪れたのは、アメリカのコロラド州デンバーで創業された「サムソナイト」のスーツケースを扱う「Samsonite Black Label(サムソナイト・ブラックレーベル)」。「サムソナイト」の中でもハイクラスなアイテムを扱うブランドの直営店です。
取材日の1週間後にはイタリアへ旅立つというシルビアさんに、ショップおすすめのスーツケースを店長の五十嵐さんから提案してもらいました。
「今うちで人気があるのが、リッチモンド2です。カラーはオフホワイト、グリーン、ブラックの3種類を用意しています。その名の通り、大変上品で贅沢なデザインとなっております」
オフホワイトの75cmを手にしたシルビアさんは、「めちゃくちゃ軽いですよ」と驚いた様子。素材は軽くて丈夫なカーボネイトを採用しています。
続けて五十嵐店長は、さらにリッチモンド2の魅力は車輪にあると言います。
「シルビアさんの母国・イタリアをはじめ、ヨーロッパでは石畳の道も多いですよね? このスーツケースのホイールにはサスペンションとベアリングが使われていて、振動と音を低減されているので、走行性がとてもスムーズです」
シルビアさんはケースをクルクル回しながら、笑顔で「ほんとうになめらかに動きますね」と満足気な表情。
実はシルビアさん、海外へ旅行するときはハードタイプではなくソフトタイプのスーツケースを愛用しているそう。そこでナイロン素材のスーツケース・ハーミテージを見せてもらいました。
「こちらの商品は、高密度のナイロンにテフロン加工を施しているので、雨降りの日でも安心です。ハードタイプがケースの半分のところで開くのに対して、ソフトタイプはボックスに蓋をしているようなものですから、箱状の荷物などはとても入れていただきやすいかと思います」と五十嵐店長。
「なるほど。私も行きは荷物がほとんどないのですが、帰りはワインや食材を結構持って帰るので、ソフトタイプが使いやすいのかもしれません」とシルビアさん。
ソフトスーツケースの上に乗ったボストンバッグを見て、「料理教室などで移動するときなどは、こんな感じのバッグですね。コックコートや着替え、包丁などを入れています」とシルビアさん。
「サムソナイト」は、“世の中の移動に携わる人のお役に立つ企業”を理念として掲げているそうで、旅や仕事に欠かせないバッグは、100年以上前にアメリカで生まれてから、ますます進化を遂げているようです。
世界の逸品にふれたシルビアさんが最後に訪れたのは「青空blue」。石臼で小麦の実から挽く自家製粉粗挽きうどんが人気の店です。
「麺はとても好きで、岐阜県や長野県に行ったときには蕎麦をよく食べますし、香川に行ったときには、もちろんうどんを食べます」
パスタの国の生まれだけあって、やはり麺がお好きなシルビアさん。「ラ・ランテルナ・ディ・ジェノバ」の看板メニューは、故郷・ジェノバ名物のパスタ、ジェノベーゼですが、ジェノバとはどのような街なのでしょうか?
「神戸の街を、少し小さな規模にしたようなイメージ。前には海があって後ろに山がある。雰囲気がよく似ていますね」
海にも山にも面しているジェノバは食材も豊富そうですが、ジェノベーゼ以外の料理はどのようなものがあるのでしょうか?
「港町なので魚介類を使った料理も多いですが、山もあるので牛や羊の肉料理もあります。あと、イタリア料理といえばポモドーロ(トマト)を使うイメージがあるかもしれませんが、ジェノバでは意外と使わない。トマトがアメリカ大陸からイタリアに入ってきたのは18世紀なのですが、南イタリアを中心に普及したので、ジェノバの伝統料理ではトマトはほとんど使わないんですよね」
北部や南部など地域ごとに個性があり、食文化もそれぞれ違なるのもイタリアの魅力のようです。南イタリアの代表的な食材であるトマトが、北イタリアのジェノバではあまり食べられていなかったというのも興味深いお話ですが、今回「青空blue」でシルビアさんがオーダーしたうどんにも、同じように大阪ではかつて主に南部でしか食べられていなかった食材が使われています。
「水なすは、最近居酒屋などで関西の店ならよく見かけますが、20年ほど前は、泉州のほうの店にしかなくて、大阪市内ではあまり見かけなかったですね」
水なすと辛い大根のサラダぶっかけうどんを運んできてくれた店長の松井宏文さんは、そう説明してくれました。イタリアにおけるトマトのように、水なすは南から大阪全域に広がっていったのです。
「あっ、そうなんですね。私が大阪にやってきたのは14年前なので、水なすは大阪市内でもう普通にありました」とシルビアさん。
「泉州ではショウガではなくカラシをつけて食べることが多いようですね。このうどんは、味を締めるために辛味大根をのせています。つゆをかけてお召しあがりください」と松井店長。
巧みに箸を操りながら、ひと口食べたシルビアさんは、「ちょっと太めでちょっと芯が残っていてすごくおいしいうどんですね。水なすが入っているのはうれしいですね。正直、なすはそれほど好きではないんですよ。でも水なすはさっぱりしていてすごく好き。自分の店でも、夏はバーニャカウダで使ったりしています」
おいしそうにうどんをすするシルビアさんは、「ミョウガも入っていておいしいですね。ミョウガはイタリアではまだほとんど使われていないと思います。シソなどはあるんですけどね」
2015年のミラノ国際博覧会以降、イタリアでも輸入などの制限が緩和され日本の食材が増えてきているとシルビアさんは言います。
「器も白い皿ばかりではなく、日本の陶器のような器を使うイタリアのレストランも増えています。私の店でも和風の皿を使っていますが、いろんな色や形があって面白いです」
料理の世界でもボーダーレス化が進む中、しっかりと大阪に根ざして暮らすシルビアさんがつくる料理は、他のどこにもないイタリアと大阪をつないでいく味かもしれませんね。
イタリア・リグーリア州ジェノバ出身。2009年に来日し、懐かしい風景が残る大阪の中崎町で2012年、古民家を使った隠れ家的なイタリアンレストラン「LA LANTERNA di Genova(ラ・ランテルナ・ディ・ジェノバ)」をオープン。故郷であるジェノバ地方の郷土料理や手打ちパスタを中心に、日本人にも親しみやすいアレンジを加えたメニューを提供。イタリアの星付きレストランで経験を積み、イタリアンをベースに、フレンチのエッセンスも取り入れ、多様性に富んだ料理を生み出している。辻調理師専門学校で年に数回講師も担当しており、唯一の日本在住のイタリア人講師として、ジェノバ料理を教えている。
写真/岡本佳樹 取材・文・編集/蔵 均 WEBデザイン/唯木友裕(Thaichi) 制作・編集/河邊里奈(EDIT LIFE)、松尾仁(EDIT LIFE)
大阪の第一線で活躍する方々と一緒に、生活を豊かにする視点、もの選びのコツに迫ります。館内の注目アイテム、心斎橋のお気に入りスポットをご紹介。心地よい暮らし、大阪のシビックプライドを求めて。
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