Professional's Eyes
スタイルのある暮らし
大阪の第一線で活躍する方々と一緒に、生活を豊かにする視点、もの選びのコツに迫ります。館内の注目アイテム、心斎橋のお気に入りスポットをご紹介。心地よい暮らし、大阪のシビックプライドを求めて。
ARCHIVES大阪にゆかりのあるゲストを迎えて大丸心斎橋店を巡ってもらう「PROFESSIONAL‘S EYES」。今回は、大阪・南森町に事務所を構え、グラフィックデザイナー、イラストレーターとして活躍している坂口拓さんが登場。ユーモアがあり、ちょっとひねりの効いたデザインはどのように生まれているのか? 日々の暮らしの中で好きなものは? 氏の温かなお人柄もうかがえる雰囲気の中、百貨店をクルーズしました。
2017年に個人事業主として「IMAGINATION」をスタートさせ、企業や個人のロゴデザインやグラフィックデザイン、イラストレーションを制作する坂口さん。日々のクライアントワークやアーティスト活動の傍ら、「いつのまにかライフワークになっていますね」と10年間続けているのが「365 HAPPY BIRTHDAY」。毎日、世界の誰かの誕生日をデザインで祝う企画で、SNSで発信しています。
そんな坂口さんが最初に訪れたのは、大丸心斎橋店本館地下1階にある「BIRTHDAY BAR APPORTE PAR LES MARCHES(バースデイ・バー・アポルト・パー・レ・マルシェ)」。“365日プレゼントのチャンス”がコンセプトのショップで、ファッション、美容、食品などさまざまなギフトグッズが並べられています。
なんだかステキに響き合っているような「365 HAPPY BIRTHDAY」と「バースデイ・バー」ですが、そもそも坂口さんが毎日誰かの誕生日を祝おうと思ったきっかけはなんだったんでしょうか?
「僕が異業種からデザイン業界に転職したとき、少し待機期間がありまして。そこで自分のクリエイティブの修業、アイデアの訓練をしたいなと思っていて。そのとき、たまたまフェイスブックで「今日は◯◯さんの誕生日です」というメッセージを見て、ひとつひとつ言葉を返すのもなんかなあと思って。よく考えたら、毎日世界中の誰かが誕生日やな。であれば世界に向けて、1日1回クリエイティブでハッピーバースデーをつくろうという感じで始まったんです」
タイポグラフィや著名人イラストなど、1年ごとに表現を変えて制作。今10年目に突入し、小学生の頃から散々聞かされてきた“継続は力なり”という言葉を「あっ、ほんまなんやな(笑)」と実感できたという坂口さん。店内を巡っているうちに、「これ、めっちゃかわいいですね」と最初に目を留めたのが、ユニークな形をしたキャンドルです。
「火をつけて蝋が溶けていったら、どんな形になるんだろうとめっちゃ考えちゃいますね」と坂口さん。キャンドルはギフト商品としても人気がありますが、他にはなかなかないデザインに心動かされたようです。さらに形のユニークさで目を引いたのが、ストームグラスクラウド。雲の形をしたガラスの中に白い結晶が入っていて、天気や気候によって形を変えるというものです。
「結晶の並び方が変わるんですね。へえ面白い。天気で変わるんですね。めっちゃ気になる。かわいいなあ。インテリアにもなっていいですね」
「バースデイ・バー」では、高価で特別なプレゼントというよりは、日常で使いやすいアイテムをメインに揃えています。
「これは、僕がやっている『365 HAPPY BIRTHDAY』と親和性がありますね」と坂口さんが注目したのが、バースデーフレグランス。うるう年の2月29日を含めて366種の香りがそろっています。
「僕は11月13日が誕生日なんですが…何の香りか気になりますね。『365 HAPPY BIRTHDAY』は植物だったり看板だったり、毎年アイデアや図案を変えていますが、そのうち香りをテーマにデザインするかもしれませんね(笑)」と坂口さん。
続いて訪れたのは、ハンドクリームなどスキンケア商品が並ぶコーナー。
「乾燥肌なので、常にハンドクリームを塗っています。ちょっといいハンドクリームをプレゼントされるとうれしいかもしれませんね。パッケージデザインもどれもいいなあ。中でも自分の好みはこれですね」と「マルマルディ」のシリーズを手に取ります。
その横にあるイニシャルのついたハンドミルクも気になる様子の坂口さん。
「これ、『バースデイ・バー』さんのオリジナルアイテムなんですね。イニシャルの部分のグラフィックが面白い。このデザインをさせてほしいですね(笑)」。
続いて食品が並ぶコーナーへ。
「缶詰のラベルのデザインをしたことはあるのですが…この鯖缶はチョコレートが入っているんだ。このラジカセ缶もカセットやレコードが好きな人に贈ると喜ばれそうですね。こういうパロディも洗練されてレベルが高くなっていますね」
友人の個展を訪れるときの差し入れなど、食べ物を贈ることが多いという坂口さん。次はご自身も大好きだという食材を使ったお菓子の店を訪れることにしました。
「えびが好きなんですよ。えびのお菓子や加工品も好きでよく買ってます」
そう言って笑う坂口さんが、それではと訪れたのが「桂新堂」。慶応2(1866)年創業で、今年158年目を迎えるえびせんべいの老舗です。
副店長の菅野さんから「ご試食、召し上がりますか?」と早速、赤えびのせんべいを勧められた坂口さん。
「すごくおいしい。僕は出身が三重県の伊勢の近くで。だからというわけではないかもしれませんが、えびが昔から好きで…これはえびを圧縮しているのですか?」
「食べながら坂口さんが指差したのは、丸い形ではなくてえびの形がそのまま残るせんべい。えびの形がはっきりわかるものと、ぺしゃんこに見えるものがあります。
「姿焼きは、えびを半身にして焼き上げたものと、そのまま丸ごと焼くものがあります。ぺしゃんこに見える半身のものは、薄いのでサクッとした食感になります」と菅野さん。
姿焼きは職人がひとつひとつ手焼きをし、「桂新堂」を代表するえびせんべいとなっています。
「えびは頭から食べるのが好きなんですよ。頭の苦みや香ばしさも好きで。このあと人と会う予定なんですが、この姿焼き買って帰ろうかな。話のネタとしても喜ばれるし、取り合いになりそうですけどね(笑)」と坂口さん。
姿焼きは車えび、ぼたんえび、甘えびの3種類があり、車えびは愛知の工場、甘えびとぼたんえびのせんべいは北海道の工場でつくられています。
「姿焼きにも使われている甘えびは赤さを保つために漁港の近くに工場を建てたんです!」と菅野さん。
「桂新堂」では、姿焼きや丸い形の炙り焼きの定番のほかに、ユニークなテイストのえびせんべいも用意しています。
くつろぎ焼きショコラなどポップなパッケージが並ぶコーナーを見て、「こんがりえびチーズいいなあ。絶対おいしいやつ。エビとチーズ、もう最高の組み合わせですよね」と相好を崩す坂口さん。
風薫るスイートレモンは初夏限定発売で、夏になるとカレー味も発売されるというから楽しみです。
「このデザインもかわいいですね。えびの写真に落款だけというシンプルさがいい」
そう言って坂口さんが手に取ったのが、えびせんべいが入るパッケージ。車えび、甘えび、ぼたんえびの3種類の写真をあしらっています。
「創業150年以上の老舗ですけど、とても現代的ですよね」
えび好きグラフィックデザイナーにとっても、心に響くパッケージデザインだったようです。
ここでちょっとひと息入れようと、地下2階にある心斎橋フードホールでコーヒーブレイクをすることに。「桂新堂」は150年以上の歴史がありましたが、こちらも、今年100周年を迎えた老舗のコーヒーカンパニー「ハマヤ」による豆の販売所を備えたコーヒースタンド「Coffee Taster HAMAYA(コーヒーテイスター ハマヤ)」です。
「ここ3、4年ぐらいでコーヒーがすごく好きになりまして。知り合いでコーヒーの豆を焙煎して挽いてらっしゃる人がいて、その場で実際にコーヒーを入れてもらってからハマっちゃって。それからいろんなところでコーヒー豆を買って試している感じ。まだまだ勉強中なんですけど」
少量の豆を少しずつ買って、自分がどんな味が好きか探求しているという坂口さんに、専属のコーヒーテイスター、足立宏美さんが好みの味を聞きます。
「だんだんとわかってきたのは、深煎りが好きだということ。粗挽きや中挽きなど、挽き方もいろいろ変えて試しています」と坂口さん。
坂口さんの話を聞いて、足立さんは「最近のコーヒー界の流れとして、中深煎りというのが主流となってます。『ハマヤ』でも2種類、新商品が出ています」。
まずひとつめとして足立さんが勧めてくれたのがホンジュラス コムサです。
「コーヒー豆を『有機栽培』と『木陰栽培』で育てています。クリーンですっきりしてなめらかな口当たり。中深煎りにする事で味にコクと余韻がうまれます。中南米やアフリカでは、元来森の中でコーヒー豆は自生していました。コーヒー栽培のために木を伐採することによってアメリカとカナダでは渡り鳥が1970年から現在までで25憶羽減ってしまったそうです。その森林を切り開かれた農園から本来の森に戻しコーヒーの森を渡り鳥に返すことで、渡り鳥と環境の保護に役立てるのが『BIRD FRIENDLY@COFFE』のコンセプトです。ホンジュラス農園では『ニャー』と鳴くネコマネドリが群れをなしています」
もうひとつの中深煎りのおすすめは100周年を記念したアニバーサリーブレンド。
「ブラジルとコロンビアをブレンドしているので、スタンダードな豆で飲みやすいけどしっかりしたお味に仕上がってます」と足立さん。
「コーヒーテイスター ハマヤ」では試飲はできませんが、コーヒーの香りを試すことはできます。
「香りと味はリンクしているので、お好きな香りでしたら、たぶんおいしく飲んでいただけると思います」という足立さんに、アニバーサリーブレンドの香りを嗅いでした坂口さんは、「コーヒーの香りが好きで、嗅ぐとすごく贅沢な気分になります」
心斎橋フードホールで、ブレンドコーヒーをいただくことにしました。
「コーヒーは、だいたい朝、昼、晩飲みます。朝は自宅でパンなどを食べながら、昼は南森町の事務所に行くときや、お昼ごはんが終わったときなど。夜は飲まない日もありますが、どうしてもがんばらなければならないときはコーヒーを飲みますね」
自宅では自分で豆を挽いているという坂口さん。ミルは挽き方を調整できるものだそうで、粗挽きや細挽きなど、いろいろ試しているそうです。
「ミルでガリガリする作業が好きで、無限プチプチってあるじゃないですか。あんな感じ(笑)。挽き方で味は結構変わりますね。細挽きだとドリップしている時間が長く抽出が濃くなり、粗挽きだと粒が粗いので深く抽出しない。そのへんを勉強しつつ飲んでます」
ブレンドコーヒーをひと口飲んだ坂口さんは、「苦すぎず、甘すぎず、おいしいですね」
ここで少し仕事の話を。坂口さんは元々Tシャツを販売する「グラニフ」のショップスタッフとして働いていて、そこからデザイナーへと転身しました。
「ショップスタッフからの転職は珍しいかもしれませんね。『グラニフ』自体がアーティストや海外の著名なデザイナーとコラボしたTシャツを出していて、そこで僕もすごいデザイナーさんとの出会いもあって影響を受けて、自分でもデザインしたいなと思うようになって始めたというところもあります」
アーティストといえば、坂口さんは、アメリカ・シカゴ発のインディロックバンド、OK Go(オーケー ゴー)のデザインワークにも携わっています。ユーモアもあり、とてもセンスのいいTシャツやキャップのデザインをしていますが、そもそもどのような経緯でアメリカのアーティストとの仕事をするようになったのでしょうか。
「10年ぐらい前、まだインスタグラムがビジネスツールとしてはそんなに使われていない時代、OK Goもめちゃくちゃインスタをしていて。僕がつくっているだまし絵などのデザインとの親和性を勝手に感じていてDMを送ったんですよ。そしたらリーダーから『今度日本でツアーをやるから、日本で発売できるLINEスタンプをつくってくれないか』という連絡がきた。そこが始まりですね。ただのファンとして送ったんですけど、ツアーのタイミングもあってちょうどよかったんですね。偶然がいい縁を生んでくれました」
日本のツアーでは、『遊びにおいでよ』とゲストで入れてもらい、メンバーと直接会った坂口さんは、その縁もありカナダやアメリカのツアーのグッズ制作を依頼されたのです。
「具体的な指示はなくて、『ビジュアルは拓の好きなようにつくってくれ。いくつかつくってくれたら、そこから選んで採用するよ』って感じで。SNSであげていた僕の作品も見て『いいね』もしてくれていたので、こういうのが好きなんやろうなというのが僕の中でなんとなくわかっていて、OK Goのテイストに合うものをいくつかつくりました。あまり悩まずデザインできて楽しかったですね。作風もわかっていただいていたうえでのオファーだったのでよかったです」
今やSNSを通じて、海外のアーティストともつながって仕事ができるという時代。パソコンやスマホを前に座っていても世界がどんどん広がりますが、基本的に座り仕事が多いデザイナーにとっては悩みもあるそう。それを解消してもらうため、次のショップへ向かいました。
「自分に合った椅子を探して彷徨い続けているんです(笑)」
そう言って坂口さんが訪れたのは、「EXGEL SEATING LAB(エクスジェル シーティングラボ)」。長年リハビリテーション器具や車椅子クッションに携わり、“座る”ことを徹底して研究してきた島根県奥出雲町の会社が直営しているショップです。
座っているといつも猫背になりお尻が痛くなってしまうという悩みを抱えている坂口さんに、店長の浅田眞由美さんは、「いろいろと座っていただき、気に入ったものを見つけていただければいいなと思います」
浅田店長が「まずはこれを触ってみてください」と差し出したのがエクスジェル。ショップで扱っているすべてのアイテムに使われている素材です。
手で触れてみて、「やわ!」と驚く坂口さんに、「エクスジェル素材はもともと医療・介護の分野で床ずれを防ぐために開発されました。人肌のようにプニプニとした感触なのは、お尻などのお肉の足りない部分を補うための素材だからなんです」と浅田店長。
「そうか、お肉の代わりになるんですね。なるほどね」と感心する坂口さんに、浅田店長、次に座ったときの圧力を測定する装置に座るように促します。
「こちらにいつも通り座ってください。座り仕事の方は、どうしても姿勢が悪くなってしまいますよね。猫背になる理由というのが…」
浅田店長は、パソコンに映し出される図を見ながら、座り具合や姿勢によって、どのように力のかかり具合が変わっていくかを説明してくれます。
「これを見ると、少し左側にお尻を歪ませておられるんですね。お仕事をされているときなどにお尻の骨のところが痛くなると、人って無意識のうちに姿勢を崩して身体を守ろうとするんです。デザイナーさんなどマウスを触る方は、骨盤が傾いた状態で座るのが癖になっている方も少なくありません」
浅田店長の解説に、「その通りです」とうなずく坂口さん。
さらに、「姿勢を正すために、うちのクッションはこういうふうな形になってまして」と浅田店長が取り出したのが「THE OWL」。ふくろうのデザインになっていて、目の部分は、衝撃や圧力が最もかかる坐骨部を囲うようにエクスジェルを配置。鼻の部分は尾骨から仙骨にかけての突起部を保護、羽の部分は太もも裏の通気性を保つようになっています。
続いて「HUG(ハグ)」というシリーズを勧めてくれる浅田店長。
「こちらは背もたれと座面が一体になったものです。パソコン操作をされる方に多いのですが、どうしても人間は疲れてくると骨盤が後ろに倒れて姿勢が崩れてきます。このHUGは骨盤を左右と後ろからしっかりと支えてくれるので、無理なく良い姿勢をキープできます」
「実は、僕は背もたれがあるとすぐ寝てしまうので、いつも背もたれのない椅子に座って仕事しているんです」と衝撃(?)の発言が飛び出した坂口さんに、「それでは、とことん寝ていただきましょう(笑)。こちらが究極の座椅子です」と浅田店長がおすすめしたのが「HUG YUKAZA LX」。
「これだと熟睡してしまいますね(笑)。やはり背もたれのないクッションを試してみましょうか。これは座布団みたいですね」と言いながら、坂口さんは「Au ZABU」に座ってみます。
「めっちゃいい。初めて座ったときの一瞬の感覚がずっと続いている感じがします」
「こちらは、結構お寺さん関係の方などが買っていかれますよ」と浅田店長。携帯用クッションもあり、旅先に持って行ったり、観劇やスポーツ観戦で使う人も多いそう。
「ゲーミングチェアを買うことを検討した時期もあったんですが、部屋に合わないというか、ゴツいデザインがあまり好きじゃなくて。あれを買うなら、こちらのほうがデザインもよくていいですね」と坂口さん。
椅子を探してふらふらしていた坂口さん、自分に合った“座り”にやっと腰を落ちつけられるかもしれません。
「先ほどのエクスジェルという素材も興味深かったのですが、素材の話を聞くのがすごく好きで、ぜひ訪れたいなと思っていました」
そう言って最後に坂口さんが訪れたのは「能作」。富山県高岡市で1916年に創業した鋳物メーカーで、錫100%の素材を使った商品を多くそろえています。
「実は錫100%のテーブルウェアをつくったのは『能作』が初めてでして。もともと錫はとてもやわらかいので、通常は硬度をもたせるために他の金属を混ぜるのですが、うちは錫100%にこだわって製品づくりをしています」と店長の伊東さん。
やわらかいという錫の特性を生かして、人気のアイテムとなっているのがKAGO(かご)シリーズです。
KAGO - ダリア - Lを持って自由自在に形を変えていく伊東店長の手元を見ながら、坂口さんは、「全部曲がるんですね。もともと平らな状態で販売されていて。こういうふうに形を変えていける。南京玉すだれスタイルですね(笑)、面白い」
自らもKAGO - バブレース - Mに触りながら、「すごい素材ですね。形状記憶的で、いろいろ使えそう。曲げすぎてパキッと折れたりはしないんですか」という坂口さんの質問に、「同じ個所に過剰に力を加えてしまうと、どうしても金属疲労が起きてしまいますが、過度に屈伸をしなければ、長くご使用いただけます」と伊東店長。
「刀の鍛造みたいに、何度も叩いて火入れして、金属を鍛えているというわけでもないのですか?」と質問を重ねる坂口さんは、錫に対して興味津々の様子。
「能作の商品は、鍛造ではなく、鋳造でおつくりしています。鋳型に溶かした金属を流し込んで冷え固まったものを職人がひとつひとつ磨きあげてつくっています」と伊東店長。
店内をぐるっと案内してくれながら、伊東店長は「それから、錫は抗菌作用があると言われていまして。錫製品の花器と、ガラス製のものとではお花の持ちが違うんです。錫製の花器は水が傷みにくくなると言われています」と解説してくれます。
「家で植物をいっぱい育てているので、常に鉢になるものを探しているんですよ。金属製の植木鉢は結構あるんですけど、錫の植木鉢は見たことないですね。あんまり考えたことなかったけど、植物に錫はいいのかもしれないですね」と坂口さん。
さらに、伊東店長の解説は続き、「錫は熱伝導がとてもいいという特徴がございます。たとえばドリンクを飲まれる前に錫製のグラスを1、2分冷蔵庫に入れておくだけで、グラスがよく冷えてとても冷たく召しあがっていただけます」
「能作」は酒器の種類も豊富ですが、それは熱伝導性がいいということにも関係が…?
「熱伝導性がよいため、冷酒をより冷ややかにお楽しみいただけることもありますが、錫はお酒やお水をまろやかにするといわれており、お酒は角が取れて、おいしく飲んでいただけると思います」と伊東店長。
酒器のコーナーで、おちょこや片口に金箔が貼っているのが気になる様子の坂口さんに、伊東店長は、「錫だけですとまろやかな味わいのお酒をお楽しみいただけますが、オリジナルの味を楽しみたい方は、中に金箔を貼られたもので飲まれるといいかと思います。セットで贈られる方も多いですね」
「ただ雅なだけじゃないんですね(笑)」と坂口さん。
プロダクトデザインをしてみたいですか? という質問に坂口さんはこう答えてくれました。
「同じデザインといえど、プロダクトは本当に全然違う分野。素材の知識や使い方を習得しないと本当に難しい。僕は印刷物がメインなので紙しか見てないのですが、金属だったりプラスチックだったりは憧れで興味はあります。錫のように好きなように曲げられるものだったら、アイデアはいろいろ出てきそうですね。」
百貨店のさまざまなジャンルのショップを巡ることで、いろいろと触発された様子の坂口さん。これからも365日、誰かにデザインの贈り物をしてくれるに違いありません。
1981年三重県生まれ。高校卒業後大阪の服飾製造工場、デザインTシャツの「グラニフ」ショップスタッフを経て大阪市内の印刷会社のデザイン部署に勤務。2017年に個人事業主として「IMAGINATION」をスタート。法人、個人問わずグラフィックデザインとイラストレーション制作をメインに事業のプロモーション活動に携わり、人気バンドOK Goやsumikaのツアーグッズ、FM802のアートワークなどユースカルチャーと密接に結びついた仕事を多く手がける。作風昇華のため作家としてアートフェアやグループ展などにも出展。今年5月18日(土)・19日(日)に大阪港の「シーサイドスタジオ CASO」で開催される、国内外81組が参加の大型アートブックフェア「Art Book Osaka 2024」の実行委員を務める。WEBサイト:sakaguchitaku.com
写真/竹田俊吾 取材・文・編集/蔵均 WEBデザイン/唯木友裕(Thaichi) 編集・プロデュース/河邊里奈(EDIT LIFE)、松尾仁(EDIT LIFE)
大阪の第一線で活躍する方々と一緒に、生活を豊かにする視点、もの選びのコツに迫ります。館内の注目アイテム、心斎橋のお気に入りスポットをご紹介。心地よい暮らし、大阪のシビックプライドを求めて。
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