Professional's Eyes
スタイルのある暮らし
大阪の第一線で活躍する方々と一緒に、生活を豊かにする視点、もの選びのコツに迫ります。館内の注目アイテム、心斎橋のお気に入りスポットをご紹介。心地よい暮らし、大阪のシビックプライドを求めて。
ARCHIVES大阪にゆかりのあるゲストを迎えて大丸心斎橋店を巡ってもらう「PROFESSIONAL‘S EYES」。今回は、フラワースタイリストとして活躍する大谷祥代さんがゲスト。花や植物と関係の深い香りをテーマにショップをめぐってもらいました。ふだんの生活にも欠かせない、さまざまな香りの魅力を掘り下げていきます。
撮影が終わった後に仕事があると、花束が入った袋を持って大丸心斎橋店を訪れてくれた大谷さん。まず最初に向かったのは、このたびリニューアルしたばかりの「LE COUVENT MAISON DE PARFUM(ル クヴォン メゾン ド パルファム)」。こちらは2004年から14年間、「エルメス」の専属調香師を務めたレジェンド・パフューマーのジャン=クロード・エレナが香りを監修するブランドです。
案内してくれたのは、スタッフの有木小百合さん。
「『ル クヴォン メゾン ド パルファム』の直営店は、日本ではここだけなんです。ジャン=クロード・エレナは世界的に有名な調香師なので、彼が調香、監修する香りを試しに、彼のファンがよく店を訪れてくれます」
「ル クヴォン メゾン ド パルファム」では、エレナ氏自身が香料を厳選し調香している“シグネチャー”コレクションのほか、香りを監修する“ボタニカルコロン”、“シンギュラー オーデパルファム”、“リマーカブル パルファム”の計4つのコレクションがあります。
まずは、“ボタニカルコロン”を紹介してもらいました。
「ジャン=クロード・エレナは『エルメス』でも“庭シリーズ”を手掛けており、この“ボタニカルコロン”も庭園での散策や神秘的な庭園での香りを再現しています」という有木さんに、「確かに、甘い花の香りというよりは、グリーンっぽさを感じます」と大谷さん。
ちなみに大谷さんは、フラワーコーディネートの一環として、庭づくりにも携わっているようです。
「ショップの前の庭などに、このお店の感じだったらこういうのが合うかなって考えて、植物を植えたりしていますよ」
フラワースタイリストといっても、花だけにとどまらず、植物全般に精通している必要があるようです。「ル クヴォン メゾン ド パルファム」も、ボタニカルからインスピレーションを受けて、ナチュラルな植物原料にフォーカスしているブランドです。
「全ての製品がイギリスのヴィーガン協会の認証を取得していて、処方はすべて植物のエッセンスとナチュラルな素材を優先しています。ジャン=クロード・エレナは、フランスのグラースでラベンダーを実際に育てていて、摘んで香りを調合しているらしく、自然からインスピレーションを受けることが多くあるそうです」と有木さん。
“ボタニカルコロン”を試してみて、大谷さんが気に入った香りは“アクアナンファエ”。
「今までにはない香りですね。香水なども人工的な香りではなく、よりオーガニックやナチュラルな香りの方向にいってるんでしょうね。私も前は強めの香水をつけてましたけど、最近はあまりつけない。だからこの“ボタニカルコロン”コレクションはいいですね」
店内を巡って商品を見てまわる大谷さんが「こっちは旅のコレクションなんですね」と見つけたのが、“香りで世界の旅へと誘う”をテーマにしたコレクション、 “リマーカブル パルファム”。
「コレクションの中で世界的なベストセラーとなっているのが、ブラジルのバイア諸島をイメージした“ティナーレ”と、北極海に吹く凛々しい風をイメージした“アノリ”。「ティナーレ」はレッドマンダリンとバニラが入っていて、フレッシュさと甘さが絡み合う印象的な香り。どちらも今の季節にぴったりです」と有木さん。
最後に、ちょっと変わったイメージのコレクションを紹介します。“シンギュラー オーデパルファム”は、なんと動物の個性を表現した香りなんです。
シマウマの魅力溢れる個性をイメージした“テリア”の香りを試した大谷さんは、「そう言われると、シマウマが大地で自由を謳歌しているイメージが浮かびます(笑)」。
動物をイメージした香りは他ではあまり見ないような気がしますが、コレクションの中では海外のお客様などに、インコの一種・ラブバードをイメージした“アガピ”の人気が高いそうです。
「個性的で、すごくいい香り。トロピカルで、確かに熱帯にいる鳥のよう」と大谷さん。
“アガピ”は深い愛情の象徴でもあるので、恋人や母親などへの贈り物にする方もいると聞いた大谷さんは、「鳥を飼ってたり、好きな人に、“アガピ”を贈るのもいいですね」。
続いて訪れたのは、100%天然素材にこだわる香りの専門ブランド「@aroma(アットアロマ)」。こちらは、大丸心斎橋店本館の香りの演出もしていて、建物の内外装やフィロソフィーに合ったオリジナルオイル“Shinsaibashi”をプロデュース。1階のエントランスやラウンジでも使われています。
「どうぞ、“Shinsaibashi”の香りをこのグラスボウルで試してください。実際に空間に広げたときの香りを感じてもらえると思います」と店長の平井実結さんに勧められた大谷さんは、「すごく、自然の森の香りがしますね」
「ヒノキのほか、フランキンセンスウッドやイランイラン、ゼラニウムなどもブレンドされている香りです」と平井店長。
「香りの種類がすごく、たくさんあるんですね」と驚きながら約70種類のオリジナルオイルを見て回る大谷さんは、「大阪の香りもあるんですね!」
仙台や札幌など、街をイメージした香りを用意する「アットアロマ」ですが、大阪の街をイメージした香りとは、いったいどのようなもの?
「大阪の親しみやすさをまず柑橘系で感じてもらって、個性がある人が多いと思うので、ブラックペッパーを少しきかせています」と平井店長。
「確かに、スパイシーな香りがします」と大谷さん。
ここで、大谷さんからアロマオイルに対しての思いを聞きました。
「この仕事をしていると、どうしてもロスフラワーがあるんですね。だからそこから香りだけでも抽出して、アロマオイルなどにできたらいいなといつも思っているんですけど、聞くと精油をつくるのにすごい量が必要みたいで…」
それを聞いた平井店長、「そうなんですよ。数ミリのオイルをつくるのに何トンレベルの花が必要になってきます。『アットアロマ』でも、ムダなく資源を生かそうと、間伐材や見た目は傷んだ柑橘類などを使ってオイルを取ったりもしているんですが…」
「私のようなフリーランスが扱う花の量ってしれているけど、大きな会社などだったらたくさんあるだろうから、何かできたらいいなと思います」と大谷さん。
ふだん部屋などでは、ウッディな香りを使っているという大谷さん。店内に設置されているディフューザーマシン、アロマシャワーテスターを試します。
「うわー、癒されますね。森の中のホテルなどで香ってきそう」
大谷さんが選んだのは“HOKKAIDO HAKKA”の香り。マシンは定期的に香りの種類が変わりますが、今はハッカやレモングラスなど夏のおすすめの香りが入っています。
「アットアロマ」を訪れる人の中では、眠る時に香りを使いたいという人が実は一番多いそうです。それだけ眠りと香りの関係性は深いのでしょうか?
「そうですね。うちでも“スリーピングサポート”シリーズという4つの香りを用意していて、ラベンダーがベースの“クールダウン”は一番人気です。ディフューザーでお部屋に香りを満たしてもらってもいいですし、木や石に少し垂らして近くに置いてもらってもいいです」
「寝つきが悪いほうなので、今度試してみます!ラベンダーはフラワーコーディネートで使うこともありますが、庭に植えることが多いですね。やっぱりいい香りがするし花もかわいいです。」と大谷さん。
続いては、北海道を拠点に、国内外の自然素材を使ったスキンケアやコスメ、フレグランスなどの製品づくりをしている「SHIRO(シロ)」を訪れました。
「香りに関していえば、12種類あるSHIRO PERFUMEシリーズのオードパルファンが人気です。それぞれの香りにはストーリーがあって、この“フリージアミスト”は、フラワーマーケットをイメージしていて一番人気です」とスタッフの矢野久子さん。
「花を仕事にしているものにとってはグッとくるシーンですね。甘い香りです」と大谷さん。ここで、花に携わる仕事をするようになったきっかけを聞いてみました。
「もともとアパレルの会社に勤めていて。なにかつくる仕事をしたいなとずっと思っていたんですね。それで仕事をやめて何しよう? と考えているときに、たまたま花屋さんで母の日の短期バイトの募集があったんですよ。この世界に入ったきっかけはそれです。もともと実家でも、母が花を育てたり飾ったりしてたので、自然と親しんでいたかもしれないですね」
花との生活にずっとなじんでいる大谷さんに、矢野さんは続いて“ホワイトリリー オードパルファン”を勧めてくれました。
「こちらは白いユリの香りをイメージしたもので、ユリだけでなくマグノリアやジャスミンなどの花々を束ねた華やかなフレグランスなんです。お花の甘さが上品に香る、洗練されたフローラルの香りです」
「いい匂い。ユリの花は香りが強いので、咲いてるだけですぐわかりますね」と大谷さん。
実は、大谷さんの知り合いが「SHIRO」のショップなどの内装をしていて、この春に北海道夕張郡長沼町にオープンした、「SHIRO」の暮らしを体感できる一棟貸しの宿泊施設「MAISON SHIRO」の内装も手掛けているそう。
「彼のSNSを見ていると、そこにある北海道の植物などがアップされてたりするんですが、『SHIRO』さんは、そういう地元の植物や花を素材にされているんですかね?」と問いかける大谷さんに、「そうですね。北海道のがごめ昆布や酒かす、ラワンぶきなどを製品に使っています」と矢野さん。
スキンケア製品としては、なかなか珍しい素材を使っている「SHIRO」ですが、北海道をはじめ生産者に会いに生産地に訪れているそうです。
「“旬シリーズ”というのがあって、白樺やホーリーバジル、ユズなどその季節に旬をむかえるものを使い、スキンケア製品をつくったりしています。自然都合で、穫れる量しかつくらないので、数量限定のアイテムなんです」と矢野さん。
「自然を大事にされてるのはいいですね」と大谷さん。花と植物を扱う仕事をされていると、共鳴する部分も多いようです。
続いて訪れた「DECORTE (コスメデコルテ)」では、“KIMONO”という名のフレグランスシリーズがありました。案内してくれたのは、スタッフの柏木麻里さん。
「 “KIMONO”シリーズは、着物を纏った時に所作が美しくなるように、これをつけることで洗練されたな気持ちになればとつくっている香りです」
デザインもまるで帯のようにリボンがボトルに巻かれています。香りは5種類。すべて日本の植物や果物にまつわる香りになっていて、「どこか懐かしさを感じられるような香りになっています」と柏木さん。
まずは、スダチがベースの“YUI”の香りを試してみました。
「本当に、スダチなんですね。確かに柑橘系の香りがします」と大谷さん。
「そうなんです。スダチの他にも、レモンやマンダリンなどが入っているので、爽やかな香りになっているかと思います」と柏木さん。
続いては、アヤメがベースの“KIHIN”の香りを試します。
「これはアヤメだけが入っているんですか?」と問いかける大谷さんに、「他に白檀とかも入っています」と柏木さん。
「ああやっぱり。お香などに使われる白檀の香りの印象のほうが強いですね。アヤメって花はそんなに香りが強くないと思いますので」
大谷さんの答えに「そうですね。よく“この香り、知ってる”と言われるのですが、どこか懐かしい感じがするのかもしれません」と柏木さん。
柏木さん曰く、着物を着て来店される方も時々いるそう。
「お茶やお花の教室に通っていてその道中に来られる方とか。そういう方は、私が対応した限りでは“KIHIN”を選ばれる方が多いですね」
かなり「和」の香りがする“KIMONO”シリーズですが、フラワースタイリストの仕事で、日本の花だけでコーディネートしてほしいという依頼があったりするのですか? という質問に大谷さんは、こう答えてくれました。
「日本料理屋さんとかではありましたね。私は、これまで和花を使うことはあまりなかったのですが、実は今、お茶とお花を習っていて、茶花とかを新たに学びたいなと思っています」
大谷さんがお茶を学んでいると聞いた柏木さん、「“KIMONO”シリーズでは、ウォーターコロンも用意してまして、“MAI”には和茶が入っているんですよ」
それを聞いた大谷さん、「お茶だとしっかり香りがありそう…あっ、アニスも入っているからチャイの香りがしそう(笑)」
少し珍しい香りに刺激をもらったようです。
最後に、9月1日に大丸心斎橋店本館1階に新しくオープンする「メゾン マルジェラ レプリカ フレグランス」を紹介します。
「メゾン マルジェラ レプリカ フレグランス」は、ファッションの「メゾン マルジェラ」の「レプリカ」というカプセルコレクションからインスピレーションを受けて誕生したフレグランス。大きな特徴として、それぞれの香りが、それぞれのシーンの時や場所の記憶を再現していることです。
取材時にはまだ店舗はオープンしていなかったので、大谷さんにはブランドを代表する3つの記憶=香りを体感してもらいました。
まず最初の香りは“オン ア デート”。2023年に発売されたまだ新しい香りです。
「レプリカ」のオードトワレで特徴的なのは、パッケージには記憶のシーンのポラロイド写真があり、ボトルラベルにはその時と場所が書かれていること。“オン ア デート”だと、写真は、オレンジ色の夕日を受け、壮大なブドウ畑を見下ろしワインを嗜んでいる男女二人の姿があり、ラベルには “Provence,2014”と記されています。つまり、この香りの記憶は、2014年に南フランスのプロヴァンスでの記憶ということ。ブドウとローズが香りのハーモニーを奏でる甘美なひとときを再現しています。
「ローズの香りがすごくしますね。あっカシスの香りもしていい香り。デートだけに甘くてフルーティなんかな(笑)」と大谷さん。
大谷さんが言うように、カシス、ローズに焦点を当てた爽やかだけどひと癖ある大人びた雰囲気の香り。“オン ア デート”は、オードトワレのほか、キャンドル、ディフューザーでも展開しています。
続いての香りは“セーリング デイ”。ポラロイドを見るとわかる通り、夏らしい海の記憶が喚起されます。
こちらのシーンは、2001年のエーゲ海に浮かぶギリシャの島・パロス島。船の上から海に飛び込むときの水しぶきや背中に感じる太陽の光を再現した香りです。
「飛び込む時の高揚感みたいなものがありますかね。成分を見るとコリアンダーも使われているんですね。コリアンダーのお花は、小さくてパクチーの香りがしますよ」と大谷さん。
コリアンダーのほか、アクアティックアコードがメインの香りは、今の季節にぴったり。オードトワレ、ハンドクリーム、シャワージェルで展開しています。
最後に、ブランドの全世界的なトップセラー“レイジーサンデー モーニング”。なんと売り上げの半分近くを占めるという人気の香りです。
2003年のイタリア・フローレンス(フィレンツェ)の日曜の朝のワンシーン。洗い立てのリネンのシーツがなめらかに肌を包み込み、いつまでもこのままでいたい、ゆっくりとした落ち着きのひとときを再現しています。
「そう言われるとわかるような気がします。仕事がない休日の朝にベッドの中に入って、奥の方からコーヒーの香りがしてくる感じ。幸せな気持ちになりますね」と大谷さん。
いい意味で香水っぽくないという意見が多いという“レイジーサンデー モーニング”。爽やかで主張しすぎない香りは、ハンドクリーム、ヘアミスト、ボディローションなど多岐にわたる製品展開をしています。
「レプリカ」の香りの記憶に共通しているのは、誰しもが普遍的に持っている記憶、みんなが思い浮かべることができるようなシーンを再現していると言うこと。新しくできる大丸心斎橋店のショップでは14種の香りがそろう。
「今日の3つの中では、“レイジーサンデー モーニング”が一番好きですね。夏にリゾート地に行って朝を迎える香り…最高です。今年発売された新作“フロム ザ ガーデン”は、自然や緑の香りというから気になりますし、お店で全部のシーンを見て嗅いでみたいです」と大谷さん。
やはり自然派がこれからの香りの主流になっていきそうな予感。ショップや庭などで、大谷さんがコーディネートする花やグリーンも、香りのように人の心を和ませてくれるに違いありません。
和歌山県出身、大阪府在住。アパレル会社でバイヤーとして活動後、かねてより興味のあったフラワーコーディネートの世界へ。ウエディング施設の立ち上げに関わるなど、テーブルコーディネートだけでなく、空間をプロデュースするスタイルでの装花を提案している。また、絶妙なカラー使いとさまざまな植物の組み合わせを得意とする作品づくりに、各業界のクリエイターから厚い信頼がよせられている。現在は広告やウィンドウディスプレイなど、フラワースタイリストとしての活躍の場を広げている。
写真/コーダマサヒロ 取材・文・編集/蔵均 WEBデザイン/唯木友裕(Thaichi) 編集・プロデュース/河邊里奈(EDIT LIFE)、松尾仁(EDIT LIFE)
大阪の第一線で活躍する方々と一緒に、生活を豊かにする視点、もの選びのコツに迫ります。館内の注目アイテム、心斎橋のお気に入りスポットをご紹介。心地よい暮らし、大阪のシビックプライドを求めて。
ARCHIVESProfessional's Eyes Vol.65
Professional's Eyes Vol.66