
佐久間 穂菜美 おたる水族館 飼育員
間近に大自然が迫る 水族館の飼育員として。 伝えていきたいのは 力強い野生の姿
『おたる水族館』と『大丸札幌店』。一見、共通項のない業種に見えるかもしれませんが、お客さまに楽しんでいただくための“場づくり”に取り組む姿勢は似ています。『おたる水族館』は、イルカ親子の絆やユニークな展示、意表を突くイベントを通して、長い間、お客さまを魅了し続けてきました。私自身も幼い頃に訪れた『おたる水族館』で生き物に触れて学び、感動した記憶が今も鮮やかに残っています。2024年に北海道で初めてバンドウイルカの繁殖・出産に成功した水族館でイルカとオタリアを担当する飼育員、佐久間 穂菜美さんに話を伺いました。
取材者:大丸札幌店 藤尾 智美
佐久間 穂菜美 さくま ほなみ2>
おたる水族館 飼育員
新潟県出身。27歳。酪農学園大学獣医保健看護学類卒業後、動物病院勤務を経て株式会社小樽水族館公社に入社。飼育員としてイルカとオタリアを担当する。

鳥肌が立つほど感動した水族館の記憶は
いつしか飼育員になる夢へとつながって
「今日はイルカのエサについてお話ししました。ここからは、メリーとロビンによる元気いっぱいのジャンプを見ていきましょう。メリーの子ども、レンカの動きにもご注目ください!」。
休み明けの営業日を控え、「いるかのじかん」のリハーサルに臨んでいた飼育員の佐久間さんは、マイクを持って解説をしつつイルカたちに合図を送っていました。
体を大きくしならせながら次々と体長以上のジャンプを決める大人イルカを真似るように、ピョコンと小さなジャンプを見せてくれるのは生後7カ月のレンカ。2024年8月18日にメリーから生まれ、まだミルクを飲んでいる雌の仔イルカです。
イルカを労い、やさしく撫でる飼育員の姿。母を追うように泳ぐレンカと、レンカを守るように声を上げ、壁際を泳ぐメリーの姿。「いるかのじかん」は大ジャンプの迫力に息を飲み、イルカ親子に家族を重ねてウルウル涙目になる時間でもありました。
「父に連れられて、保育園の頃から『新潟市水族館 マリンピア日本海』に通っていました。イルカショーを見て鳥肌がたつほどワクワクしていた記憶が残っています」と、幼少期を振り返る佐久間さん。小学生の頃には決めていたという飼育員の夢を叶えるために、酪農学園大学に進学し、獣医保健看護学類で学びました。
「実は、新卒時に一度『おたる水族館』に落ちていて。動物病院の看護師として働いたものの、諦めきれず、2回目のチャレンジで飼育員になれたんです」。
水族館に入社した後の2024年には、国家資格である「愛玩動物看護師」を取得したそうです。

大切なのは自分の気持ちを整理すること
心の迷いは見透かされてしまうから
「飼育員のやりがいは、言葉が通じない野生動物とコミュニケーションが取れた実感が得られることだと思います」。
イルカは人間の顔ではなく、体のシルエットや仕草、歩き方で判別するのだとか。イメージ通りにイルカが動いたら餌をあげる。日頃からイルカとコミュニケーションを取り、お互いの関係性を築いていく。野生動物だけに懐くことはありませんが、イルカとの信頼関係が不可欠な仕事です。
「マニュアル通りにいかないこともいっぱいです。人間と同じで、動じない子、好奇心が旺盛な子、やんちゃな子といった具合に個性があるので、違いを見つけ出す楽しさがあります。イルカは頭が良いので、指示を出す側の自分に一瞬でも迷いがあると、それを見抜いて息が合わなくなってしまう。イルカと向き合う時は、気持ちを整理してから臨まなければなりません」。
飼育員として大切にしているのは、イルカとの距離感。動物らしく生きられるようにサポートはしても、家畜や愛玩動物とは違う野生動物だからこそ、距離を縮め過ぎないように意識していると教えてくれました。

尾ビレから始まる赤ちゃんイルカの誕生を
胸にこみ上がる感動とともに見守って
「印象に残っているのは、北海道内初となるバンドウイルカの出産です。道外の園館(動物園、水族館)から情報を集めていたものの、出産のタイミングも、何が起こるかもわかりません。赤ちゃんが生まれて泳ぎ出す姿を目前で見届けた時は、いろんな感情が一気にこみ上げてきました。この経験を、他の園館のイルカ繁殖につなげていけたら」。
データや写真の記録を取りながら、出産の一部始終を目の前で見守った佐久間さんの言葉に力がこもります。メリーが出産したのは、2024年8月18日のこと。ドキュメンタリー映像を見ると、水中で生きる彼らが人間と同じ哺乳類であることを実感し、野生のイルカの出産がいかに命がけであるか想像できます。
おたる水族館公式Youtubeチャンネル:https://www.youtube.com/watch?v=PidQcWsfrT0

取材に訪れたのは、春が近い3月にもかかわらず雪と風で大荒れの日。高台の施設から見下ろす海獣公園の先では、鉛色の海がうねりながら白い飛沫を上げていました。まさに『おたる水族館』は、美しくも厳しい自然界と人間界の狭間にあります。
「海獣公園は、入社前からお気に入りの場所です。入り江を仕切っているだけなので、防波堤を乗り越えて野生のトドが入ってくることも!海に帰すまでの間だけ、心の中でこっそり名前を付けるんです」。
言葉の端々に動物への愛があふれる佐久間さんは、学生の頃に初めて海獣公園を見て、海そのものであることに感動。海藻が揺れ、魚が泳ぐほぼ自然のままのプールでのびのびと生きるトドやセイウチを見て、心が躍ったそうです。
「ここにいるのは、“水族館の生き物”ではなく、ここから見える“大自然で生きる野生動物”です。見渡す海を通して彼らの野生を体感できるのが、『おたる水族館』の価値。自然界ではめったに見られない野生の姿をお客さまへ伝えていくために、どうすれば飼育下の動物たちが生き生きと生活できるのか考え続けていきたいです」。

おたる水族館
住所:北海道小樽市祝津3丁目303番地
アクセス情報:おたる駅から北海道中央バスで25分
営業時間:9:00 ~ 17:00(季節により変更有)
HP:https://otaru-aq.jp/
料金:大人1,800円 / 小人(小中学生 6~15歳)1日700円
※その他HP等をご参照ください。